第三百三十八話 アリスとノアはセットなのです!
「もしも君が第四王子だとしたら、君は戻りたいか?」
ルカの質問にノアはゆっくり首を振った。
「いいえ。僕は記憶を失っているとは言え、これからもずっとバセット家の人間だと思っています。ルーデリアのしがない男爵家の長男だと。それに、僕はレヴィウスでは悪魔憑きだと幽閉されていたそうなので、どのみち戻っても僕の席はありませんよ」
カラリと笑ったノアに、ルカは驚いた。
「……」
この少年は欲という物がないのか。欲が無さすぎて少し危ういとは思うが、どのみちノアが優秀なのには違いない。役職には就かなくても、これから是非ともルイスの相談役で居てほしい。何よりもルイスの友人として、これからも側に居てやってほしい。
ルカは腕を組んで頷いた。
「そうか。では、君の出自がどうであれ、今まで通りバセット家の長男として扱わせてもらおう。それからロビンも言った通り母親の件は総力を上げて探し出す。他には何か情報はないか?」
「そうですね、今の所は。また何かあったらすぐに連絡するとお約束します」
「ああ、頼む。ロビン、外との連絡がつかない今、彼の出自は後回しだ。まずは母親を探すよう手配してくれ」
「畏まりました」
「それからヘンリー、全ての騎士を使いルーデリア全土の店の飲食店を徹底的に調べ上げてくれ」
「はい」
「アベルはヘンリーの手配が済むまでにその検査棒の手配を頼むぞ。あと、あのブレスレットもだ」
「畏まりました。アレックス、行きましょう。後日アリスさんには魔法をお願いしに行きますね」
そう言ってアベルは人の良さそうな笑顔をアリスに向けた。それを見て今までずっとノアに張り付いていたアリスは真剣な顔をして頷く。
「それからステラ」
「……はい」
「お前はおれと一緒に全ての孤児院を回って事情を説明して回ろう。謝罪と、それから少しばかりのお土産を持って」
ずっと泣きそうな顔をしていたステラの頭を撫でたルカに、ステラはぱっと顔を上げた。
「一緒に……行ってくれるの?」
「もちろん。お前達は何も悪い事をしていた訳ではない。それは皆も説明すれば分かってくれる。それに、孤児とは言え彼らもまたルーデリアの国民だ。オピリアの毒牙にかかった者達を救うのは俺達の仕事だろう? 何より、お前のした事の責任は俺にもある。すまなかったな、何も気づかなくて」
「! ルカ!」
ステラはルカに抱き着くとようやく涙を零した。震えていた体からドっと力が抜ける。そんなステラを支えるようにルカはステラを抱きしめるとそのままオリビアの方に向き直った。
「そういう訳だ、オリビア。お前は何よりも元気な子を産む事に集中していてくれ。そして子供が生まれたら、またステラと一緒に子供達に絵本を読んでやりにいってくれ。いいな?」
ルカが生まれた時から婚約者だと決められていた公爵家の娘オリビアはルカの幼馴染だ。結局その婚約は破棄され、今はいい友人である。
ルカの言葉にオリビアは涙を零して頷いた。そんなオリビアをヘンリーが慰めるように肩を抱き、ルカに頭を下げた。
「ありがとう、ルカ……」
「寛大なお言葉、感謝します」
「何だ、お前にそんな事を言われるのは気味が悪いな! いつも通りでいい」
「……いや、流石にここではそういう訳には。まぁ、全部終わったら飲みましょう」
「ああ、そうだな。お前達もだぞ」
そう言ってルカは意気揚々とロビン達を見ると、明らかに嫌そうな顔をされてしまった。酒癖の悪いルカと飲むのは嫌だ。顔にははっきりとそう書いてあるが、暴君ルカはそんな事は気にしない。
「では皆行ってくれ。チャップマン、すまないな。晴れの舞台がこんな事になってしまって」
ルカの言葉にリトとマリオが頭を下げ、それに続いてリアンとダニエルも頭を下げた。
「とんでもありません。お披露目会など、いつでも出来ます。私達もまたルーデリア国民として尽力を尽くします」
はっきりとしたリトの言葉にルカは満足げに頷き、ステラを連れて退出した瞬間、リトとマリオがドサリと椅子に座り込んだ。
「言えてた? ちゃんと言えてた⁉」
「立派だったよ! 兄さん!」
「そ、そう? 大丈夫だった? はぁぁ……リアン、ハグして」
そう言って両手を広げたリトにリアンは冷たい視線を送って言った。
「嫌だよ。何で僕が父さんにハグしなきゃなんないのさ。じゃ、僕ちょっとあいつらに話あるからダニエルにしてもらいなよ」
「分かった。ダニエル」
「はぁ? 何で俺がおっさんとハグしなきゃなんねぇ――苦しい! 見かけによらず力つえぇ!」
無理やりリトに抱きしめられたダニエルは、それでもリトを突き放したりはしない。本当に良い奴である。
じゃれるチャップマン商会を横目にリアンは檀上から降りて来たノアの腕を引っ張ると、ひそひそと言った。
「で、本音は?」
「嫌だなぁリー君、全部本音だよ。でも上手くいって良かったよ。やっぱ僕達だけじゃ母親探し無理だよなって思ってたからさ」
「……あ、それが目的だったんだ。おかしいと思ったんだよ、あんたが自分の事ペラペラ話し出したから」
「目的だなんて! 何を言い出すのかと思えば、気付いたら宰相が勝手に味方になってくれたんだよ」
「嘘ばっか。まんまと高位貴族味方につけて自分の株上げて? ほんっと信じらんない」
「自分の売り込み大事だよ。ある日突然バレるより、先に、王子かもしれないんです~って言っておいた方が後々困らないしね。ついでに母親探しも手伝ってもらうだけだよ」
ノアが思い出したら魔法が解ける。その時にどういう事だと責め立てられるより、先に少しでもネタばらししておいた方がいい。それをリアンに伝えると、リアンは冷めた目で言った。
「あんたにはアリスが居てほんとに良かったよね。お花畑とあんたのその腹黒さを足して割ったら丁度いいよ」
正反対と言ってもいいほどアリスとノアは対照的な所に居るが、だからこそ上手くいっているのかもしれないな、などと最近リアンは思うのである。
「アリスはね、唯一僕が予想出来ない動きをするんだよね。そこにロマンを感じるよね!」
「……ふーん。ま、少なくともあんたにとってアリスはなくてはならない存在なんだって事だけはよく分かったよ」
「私の気持ちが分かっていただけましたか、リアン様。同志ですね」
「!」
振り向いて戻ろうと思ったら、目の前にキリが居た。いつもこの執事は音もなく近寄って来て気づいたら居るから怖い。思わず悲鳴を飲み込んだリアンを他所にキリは腕を組んで頷いている。
「ノア様はお嬢様が居ないと、本当にそのうち闇落ちして悪の大魔王になってしまう可能性があるので、昔からノア様とお嬢様はセットなのです」
「……あんた、こんな事言われてるけどいいの」
「いやぁ~僕もそう思う」
「……あ、そ」
何故か嬉しそうなノアを見てリアンはため息を落とす。そんなリアンの肩を慰めるように叩いてキリが珍しく笑顔を浮かべて言った。
「頑張りましょう、リアン様。未来が天国か地獄かはお嬢様とノア様が一緒にいられるかどうかにかかっています」
「……」
大袈裟だよ、とは言い切れないリアンは、小さく頷いてその場を後にした。
「とりあえず、今日はもうここに泊まれるよう手配しておいたぞ。部屋に案内するからついてきてくれ」
ルイスがそう言って歩き出すと、遠方から来た人達がゾロゾロと動き出した。近くから来てる人達はルイスに断わりを入れて皆屋敷を出て行く。
「リアンは今日は父さんと同じ部屋でいいか?」
「嫌だよ! 何で!」
この歳になって何故父親と同じ部屋で寝なければならないというのか! そんなリアンの言葉はまるっと無視されて、結局リアンはリトと同室になった。それはダニエルもだ。
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