第二百六十四話 妖精達の派遣先
リアンの言葉にルイスとアリスは風呂に向かい、後のメンバーは一足先にルイスの部屋で待っていた。
「スマホは順調だって。すぐに品薄状態になるかと思ったけど、案外大丈夫そうだよ。それよりも鉛筆と消しゴム! こっちのが追い付かないみたいだよ」
「それは聞いたよ。ジャスパーから連絡があった。消しゴムをイフェスティオからも人手募集してるんだけど、なかなか追い付かないみたい。でね、僕書き出してみたんだよ。優先順位を」
「何の?」
不思議そうなカインの台詞にノアがメモを取り出す。
「妖精の派遣先。僕さ、思ったんだよね。妖精の事は妖精王に任せてればいいやって思ってたけど、何せ妖精界と人間界では長い事付き合いが無かった訳だから、絶対に途中で混乱すると思うんだよね。で、妖精と人間の仲介に立つ所が居るなって思ってさ」
「職業安定所!」
「アリス? びっくりした。どっから聞いてたの? ていうか、いつお風呂から上がってきたの?」
ノアが振り返ると、アリスは淑女にあるまじき姿で立っていた。タオルで髪を拭きながらノアの隣に無理やり腰を下ろして握りこぶしを作る。
「今だよ! 兄さま、職業安定所を作ればいいよ!」
「職業安定所? なにそれ」
「職業安定所っていうのはね――」
いわゆる職業安定所の説明をしたアリスに、ノアが細かくメモをとって行く。
シャルルは言っていた。妖精は自由だから、好む土地とそうでない土地がある、と。では、お試し期間を設けた職業安定所のようなシステムを作ってみたらどうだろうか。
一連の説明を聞いていたカインとノアは深く頷く。
「なるほど。確かに家業を継げる人はいいけど、そうじゃない人達も居るもんな。それは妖精にだけじゃなくて、全国民にとって必要なシステムかもね。何よりも好きな職業に就けるっていうのは、凄く幸せな事だよ」
「言えてる。名前と魔法を登録してもらって、その職業安定所っていう所で派遣先を斡旋していくって事でいいのかな?」
「そう!」
あれがあれば、色んな能力を必要としている所で発揮できるのではないか! アリスの力説に、皆が頷く。
「でも、誰がそこが管理するの? 妖精たちと密に連絡を取り合えるのは……」
キャロラインの視線がカインとフィルマメントに向けられる。それにつられるように、皆の視線が二人に集まった。
「面白ソウ! 妖精ノ方ハフィルガヤル! 人間ハカイン、オ願イネ!」
「……そう言うと思った。俺の一存じゃ決められないから、親父に相談するわ」
諦めたように降参ポーズをとったカインに、フィルマメントは抱き着く。
「ヤッパリ、フィルノ婚約者ハイイ男ダッタ! フィルハ幸セ!」
「はいはい、ありがと。で、ノアの言う優先順位って?」
「うん。とりあえず色んな所の手が足りてないんだ。でも、優先すべきはダムと乾麺だよね。だからそこにまずは重点的に妖精を送りたいんだ。多分、シャルルも妖精王もそれには賛成すると思うんだよ」
必ずこれから起こる飢饉と洪水。まずはこの二つをどうにかしなければ、メインストーリーを攻略出来なくなってしまう。それでは他がいくら上手くいっても意味がないのだ。
ノアの言葉に皆が頷いた。
「じゃあ、シャルルに連絡入れる?」
リアンの言葉にノアは頷く。
「あのー……ちょっとだけいいですか?」
そんな中、珍しくライラが手を上げた。
「うん、もちろん」
「鉛筆なんですが、鉛筆を作り始めた工場の方が、少し前にフルッタに行って消しゴム工場を視察してきたらしいんです」
「へぇ、そうなの?」
リアンの問いにライラは頷いた。
「そうなの。そうしたらね、鉛筆会社の方が消しゴムの原理を聞いて、インクを消す消しゴムを作る事に成功したんですって!」
「凄い! 砂消しゴムじゃない⁉」
「砂消しゴムって言うの?」
「うん。消しゴム作る時に研磨砂入れると、インクも消せるようになるんだよ!」
「アリス、何度も言うけど、何でそっち先に作らないの?」
そんなものがあれば、わざわざ鉛筆を作らなくても良かったのではないか? ノアの問いにアリスは真顔で言った。
「だってね、兄さま。インクは高いんだよ。鉛筆と比べてみて? 値段は歴然でしょ? 識字率を上げるには、練習が必須。でも、それをするには紙もインクも高すぎるもん」
「……凄い、アリスがまともな事言った……明日、大雨かも」
感心したように言うノアに、他の仲間たちまでもが頷く。それを見てアリスは頬を膨らませる。
「酷い! 私だってちゃんと考えてるよ!」
「ごめんごめん、嘘だってば。知ってるよ、アリスがちゃんと考えて言ってるのは。話の腰折っちゃってごめん、ライラちゃん。続けて」
「あ、はい! それで、流石に全部をフルッタの消しゴム工場で請け負うのは大変だろうって言う事で、インク会社が何社か消しゴムの会社を立ち上げたそうなんです!」
物凄いフットワークの軽さである。それを聞いた時、ライラも驚いた。
「それは凄いね。よく決断したね」
「はい。でも、そのおかげで他のインク会社も生き延びる事が出来そうだって父さまが喜んでました!」
鉛筆が出来た事で、懸念していたインク会社だったのだが、どうやらこれでどうにかなりそうだ。それに、インクの需要自体は絶対になくならない。何故なら、公的文書に鉛筆は使えないからだ。簡単に消せるものは、契約書には向いていない。砂消しゴムで消せばインクも消えるが、砂消しゴムは使えばすぐにバレてしまうし、結局インクでなければいけない場合もある。
それを聞いてアリスは手を叩いて喜んだ。それはアリスもずっと心配していたからだ。
「良かった! 誰かが不幸になっちゃったら、鉛筆作らない方が良かったって思うとこだった」
そんなアリスの手を掴んで、ライラは真顔で首を振る。
「アリス、それは違うわ! 鉛筆が出来た事で潤った会社もあるの。だから、アリスが今まで考えたもので、作らなければ良かったなんて物は、何一つないの!」
「ライラ……そっか! ありがとう!」
えへへ、と笑いあうアリスとライラを見て、キャロラインとミアがまるで姉のような視線でうんうんと頷いている。
「それじゃあ、シャルルにはさっきの職業安定所の話をしておくよ。それから、進級したらすぐに校外学習が始まるけど、学園組はその間にダムの建設と乾麺とスープの様子を調べていこう。で、フォルス組なんだけど……リー君、お願いね」
ノアはそう言ってリアンに申し訳なさそうに視線を送った。それを受けてリアンは大きなため息を落とす。
「あのね、先に言っておくと、ライラだけでも結構大変なんだよ」
「うん」
「そこにね、化け物の面倒も僕が見るの? 一週間も? 無理じゃない⁉」
「分かってる。それについては、本当に申し訳ないとは思うんだけど、キリも行くから! ね? どうかアリスをお願い!」
そう言ってノアは珍しく本当に申し訳なさそうな顔でリアンを拝んできた。
「まぁキリも居るし大丈夫だとは思うけど、何でそんなノアは必死なの?」
キリも行くのならそこまでリアンに頼まなくてもいいのでは? そう思うのに、それにしてはノアの態度がおかしい。
「いや、それがさ、フォルスって本気で階級主義者多くてさ。僕も素っ裸にされそうになったんだよね」
「え⁉」
ノアの言葉に何故かルイスとカインが声を上げた。
「お、お前、そんな事があったのか⁉」
「嘘でしょ⁉ そんな事一言も聞いてないんだけど!」
「あったよ。本当は女なんじゃないかーって。脱がして確認してやるって。まぁ、アリスに倣って拳で解決したんだけど、その後の当たりのキツイのなんのって」
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