第二百四十一話 フラグの本質
「キャロラインからしたら、ルイス以外であれば、アリスが誰とくっつこうがどうでも良かったって事だね」
うっすら笑ったノアにキャロラインは言葉を詰まらせ、ルイスは照れている。
「そ、それはだって、仕方ないじゃない? わ、私が好きなのはルイスなんだもの!」
「まぁまぁ、そこはもういいって。大事なのはこれからでしょ。つまりは、ゲームの強制力って言うのは、俺達からしたら魔法にかけられてるようなものって事なんじゃないかな。アリスちゃんの使う洗脳系の魔法に近いのかも」
腕組して言ったカインの言葉に皆の視線がアリスに集まる。
「ち、違うよ⁉ 私何にもしてないからね!」
「分かってるよ。アリスはそんな事しない。でも、これはシャルルに報告した方がいいのかな。彼になら何か分かるかもしれない。あと、次のフラグ誰だっけ?」
「俺かな? うわぁ、何か嫌だなぁ。さっきみたいな俺を皆に見られるんでしょ?」
「あー……まぁ、ご愁傷様ね、カイン」
何を知っているのか、キャロラインとアランが苦笑いしている。これは絶対にルイスよりも酷いに違いない!
「まぁ、キャラの元々の設定が軽いっていうぐらいだから、ある程度覚悟しておいた方がいいんじゃない?」
笑顔のリアンを睨みながらカインは頷く。そんなカインにノアが肩をがっしり掴んできた。
「カイン、音が聞こえようが聞こえまいが、アリスに手を出したら承知しないからね? 触ったらその場で僕は殴りに行ってしまうかもしれないから、それを肝に銘じておいてね」
「えぇぇ……不可抗力なんじゃないの、それは」
「不可抗力なんて都合のいい言葉は使わせないよ。男子は男子。相手がお猿アリスでもいいと思っちゃうかもしれないでしょ?」
真顔でそんな事を言うノアに、カインは神妙な顔をして頷いた。
「そうだな。これは俺の人生だ。一生を人間っぽい猿と過ごす事になりかねないもんな」
「そうだよ。気をつけてね」
「分かった」
そう言って二人は顔を見合わせてがっちりと握手する。
「いや、いやいや、酷くない? ねぇ、こう見えて私、ヒロインだよ?」
何だか腑に落ちないが、ノアとカインを見てメインキャラクター達以外まで皆こぞって頷いている。
「アリス、諦めなさい。そこは私も否定できないわ。けれど、私はお猿なアリスの方が好きよ」
「わ、私も! 私もお猿アリスの方が好きよ。天災でちょっとおバカな所がアリスの良い所だもの!」
「キャ、キャロライン様ぁ! ライラぁ! 私も、私も大好き!」
フォローのようなフォローじゃないようなものをされてアリスはキャロラインとライラにしがみついて男子たちを睨む。
こうなったら全面戦争も辞さないという決意を込めて。こんな奴ら、こっちから願い下げだ! ノア以外は!
そんなノアはじゃれるアリス達を眺めながら言った。
「とりあえず、ルイスの部屋に移動しよう。あと、いくつかダニエルからも報告来てるんだよね?」
「あ、そうなんだ。今朝電話が来てね、ちょっと前から配りだした識字アップセットの評判が出だしたって」
「おお! 遂にか! よし戻ろう。詳しく聞かせてくれ」
ゲーム時間軸が始まる少し前から識字セットは市井に配られだした。ようやく、その評判がチャップマン商会の耳に届くようになったようだ。
全員でルイスの部屋に移動していつもの席に座る。それぞれの従者達がお菓子やお茶を用意してくれるのを待って、リアンが話し出した。
「で、リー君、どうなんだ⁉ 皆の反応は!」
身を乗り出したルイスにリアンはメモを取り出した。
「やっぱり一番多いのは、助かるって声と、ありがたい、だったよ。次いで鉛筆と消しゴムについての問い合わせだね。皆が心配してた、時間の無い家でもこれなら夜に家族全員で練習できるから助かるって言われてるみたいだよ。中には今まで字が読めなかったり計算出来なかったりして詐欺被害とかに遭ってた人達も結構居たみたいで、そういう人達からは本気で喜ばれてる。で、面白いのはこっからでね、字が読めて簡単な計算ができだすと、もっと学びたいって層が出て来てるみたいでさ。計算と字の教科書しかないのか? って声が上がってるって」
「そう言えばダニエルも言ってたわね。印刷会社から他にも教科書はないのか? って聞かれるって」
キャロラインの言葉にアリスも頷いた。
「言ってました。キャロライン様とライラはサインまで要求されてました!」
あのエマとドロシーを筆頭に、教科書が配られたグランでもこの二人はあちこちでサインを求められていた。
「じゃあ上手くいってるって事かな?」
「今の所はね。で、教科書は一旦置いといて、ほら、あの奨学金制度の事もついでに宣伝して回ってたんだよ、ダニエルが勝手に」
そう言ってリアンは肩を竦めた。ダニエルはちゃっかり教科書と一緒に奨学金制度のチラシも配ったらしい。それに国民達は食いついた。あの事業は進めてはいたが、まだ市井にまで情報は下りていなかったのだ。
けれど、ここに来てその話が一気に広まった。各領地で今、その問い合わせが凄い事になっているらしい。
「それでか! 親父がここに来て急に奨学金制度の事について問い合わせが入り始めたって言ってたんだ」
嬉しいが正直忙しすぎて手が回らないとロビンは言っていた。最近ではルードもその問い合わせを捌くのを手伝っているらしい。
「そうか! もしかしたら来年辺り、平民から学園に入学する者が出て来るかもしれないな!」
嬉しそうに顔を綻ばせたルイスに、リアンが頷く。
「それからフルッタとイフェスティオが近々統合するって。炭酸飲料の販売も始まったよ」
「凄い! どんどん始まるね! こうしちゃいられない! 乾麺も早く販売しなきゃ!」
「ビールももうじき販売出来そうだし、まず取り掛からなきゃならないのは、何を言ってもダムだな」
腕を組んでソファに深くもたれて言ったカインにノアが頷く。
「だね。とりあえず次の休みにキャロラインとキャラクターじゃない組でダム建設の下見に行こうか。それまでにアリス、ダムの詳しい絵とか描いておいてくれる?」
「分かった。でも、私達は行っちゃ駄目なの?」
「君達には学園でフラグ攻略してもらわないと。それに、来年はフォルスに校外学習があるでしょ? そこまでのフラグ回収しておいてよ」
メインストーリーを追うのなら、順番はどうあれ全てのフラグを回収しなければならない。だからここから先はアリスと攻略対象達はあまり外には出られなくなってしまう。ではキャロラインはどうなのかという話だが、キャロラインが選択肢に関与してくる事はないとの事なので、安心して外で聖女活動が出来る。
ノアは学園組を改めて見渡して、大きく頷く。
「キリ、アラン、あとドンブリ、しっかり頼むね」
「おい!」
「なんで!」
ルイスとカインが詰め寄ると、ノアは大きなため息を落とす。
「ルイスは言わなくても分かるでしょ? さっきの思い出してね。カインは台本見る限り一番分岐がややこしいんだよ。その点アランは何度も見て来てるから大体分かってるだろうし、キリは隠しキャラなだけあって、ノーマルエンド目指すなら回収しなくても良さそうだし」
「あー、確かに。何で俺だけこんなフラグごちゃごちゃしてんの?」
カインルートはとにかく分岐が多い。台本を見ながらブツブツ言うカインに、アリスとキャロラインが顔を見合わせて言った。
「そりゃ、面倒な人だからじゃないですか?」
「あなたが面倒なタイプだからよ」
「……酷くない?」
二人に言われたカインはすっかり落ち込んでドンのお腹に顔を埋める。ドンはそんなカインをよしよしと慰めている。ドラゴンは本当に知能指数が高い。
「あーもう! ドンが人間だったら、すぐにでも求婚してた!」
何だかとんでもない事を言い出したカインに、周りはシンと静まり返る。
「いや、突っ込んで! いっつもみたいに!」
「あ、いや、本気で思ってそうだったから何て声かけたらいいか分かんなかった、ごめん」
リアンの言葉に全員が頷いた所で、皆でゾロゾロと中庭に移動した。フラグ検証をする為に、もう一つフラグを立ててみる事にしたのだ。カインルートの出会いだ。
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