第二百三十九話 洪水対策にはこれしか無いでしょ!
「と、言う訳だったんだ。それでこれ、アリス、これ見て何か思い出さない? オルゾ地方で起こる洪水を堰き止めるにはどうしたらいい?」
ノアはバセット領で貰ってきたアリスの寝ぼけメモを見せた。
けれど、アリスはそのメモに目もくれず真顔で言う。
「ダムとかないの? そこ」
「……え、メモ見ないの? せっかく持ってきたのに?」
しょんぼりと言うノアにアリスはメモをチラリと見たが、本当にチラリと見ただけですぐに視線を逸らしてしまう。
「そ、そのメモを解読するのは兄さまとキリって言うか、私はほら、アイデアを出すのが仕事っていうか、ゴニョゴニョ」
「つまり、分からないんですね? 自分でも何が書いてあるのか」
キリの冷たい視線がアリスに突き刺さる。
「……はい、ごめんなさい……で、でも! 川の氾濫とか、一年通して安定して水を供給するものなら分かるよ! ダムと堤防があればいい! そして領地内の水路を確保! 排水設備を整える! これだけで多分大分改善すると思うんだけど……」
「……」
ノアは持って帰ってきたメモをそっとポケットに仕舞い、アリスの言う事をメモしていく。
「ここからはキャロラインの出番だね。時期を見てオルゾ地方に行って、このダムとやらを作る指示を出そう」
カインの言葉にキャロラインは頷いた。そこからアリスにダムとやらの説明を受ける。
「要は、一旦水をためる場所を作って、そこから一定量の水を常に排出するって事なのかな?」
「そうです!」
「じゃあ、最高水位と最低水位のラインを決めておいた方がいいね。誰かが常にその場に居ないと」
「でも、それがあるだけで一年の水量が安定するなら、生活はきっと変わるわ。オルゾ地方だけじゃなくて、ルーデリア全土の大きな川に欲しいわね」
ポツリと言ったキャロラインにルイスもカインも頷く。川の氾濫はどこでも起こり得るのだ。水は時に凶器になる。
「あと、この堤防もいいんじゃない? うちなんかもそうなんだけど、川よりも低い場所にある家って言うのも結構あるんだよね。だからこういうの作ってくれたら、ちょっとは安心できるかも」
リアンの言葉にライラは力強く頷く。こういう人の生活に直結する事業は大事だ。何よりも早く進めた方がいい。
「だったらさ、これ、集まった融資のお金ですぐに取り掛かろうか。とりあえずオルゾに一つ立てて、後は国家事業にしてもらえばいいんじゃないかな」
流石にルーデリア全土にダムを作るには莫大な資産が掛かりすぎる。ノアの提案にアランとカインが手を上げた。
「ダムの説明をしたら、確実にうちは手を貸すと思います。バーリーにビール工場を建てる時に両親も視察に行ってるので土地も分かってると思いますし、何よりもビールに水は欠かせません」
「だろうな。で、そのダムを出来上がったら俺から親父と兄貴に見て来るように言うわ。そしたら嫌でも国家事業になる。兄貴は流石に鉱山持ってるだけあって、そっち系はめちゃくちゃ顔広いから、もしかしたら働き手も確保できるかも」
「でしたら、私はイフェスティオのクルスさんにも声を掛けてみます。今は廃棄係から大分昇進したらしいので、多少は働き手を融通してくれると思います」
とんとんと話が進んでいくのを、それまでずっと黙っていたシャルルが口を開いた。
『そのダム、うちでも広めてもいいですか? 私がキャロラインに習ったと言う体で』
「私?」
『ええ。今、こちらではルイスが銀鉱山で襲われた事と、危ない薬が出回る寸前だったという話で持ち切りなんです。そこに来て最近になってグランがチャップマン商会と手を組んだという噂まで流れ出しまして。そこからスマホと乾麺の話が出だしたんですよ。で、それを支援しているのが、キャロラインだという事まで噂になってるんです。ここらへんで手っ取り早くキャロラインを聖女に仕立て上げる為にも、そのダム建設、乗っかっても構いませんか?』
そこまで言ったシャルルに、ノアは呆れたように言う。
「ていうか、聖女の話に乗っかって、早く戴冠式したいだけだよね?」
『あ、バレました? まぁ、そうですね。でないと本格的に妖精王との契約が出来ないんです。妖精王はあくまで王としか契約しないので』
「それは困るよ! うちはもう、妖精たちのお世話になりまくりなんだから!」
ネージュではお手伝いの範疇を超えた妖精たちの働きに、皆が早く正社員に! とリトにせっついてくるらしい。妖精も妖精で、もっと働かせて欲しいと直々に言ってくるそうで、皆が大変困っている。
『あー……聞きました。とうとう飲食店でウェイトレスを始める妖精が出て来たとか何とか』
困ったように笑うシャルルに、リアンはコクリと頷いた。今ネージュでは小さな花の妖精たちがフワフワとケーキを運んだりしているらしい。それを見たくてそのケーキ屋は連日超満員だそうだ。
「何かね、妖精の方が何をやらせても器用なんだってさ。いかついのもいるらしいけど、そういう子達はこぞって氷柱とか切り出してくれてるって。何よりも、妖精が森に入るようになったことで、狼達がブルーベリーを取る範囲には近寄らなくなったんだ」
「良いことづくめじゃん!」
カインの言葉に頷いたリアンは拳を握った。
「だから早くちゃんと雇いたいんだってば! 心が痛いんだよ!」
『ネージュの人達は良い方達ですね。妖精は本質を見抜くので、だからこそ皆こぞってお手伝いしてるんでしょうね』
シャルルは嬉しそうに笑った。妖精の中には可愛いのも居れば怖いのも居る。そういう子達は働けないんじゃないかと心配していたが、どうやら適材適所でうまくやっているらしい。
「そう言えば、グランにも妖精派遣をお願いしたいって言ってましたよ。新しくビールを作るから、そのお手伝いをお願いしたいみたいですよ」
アリスが言うと、キャロラインも頷いた。
「おばば様が喜んでらしたわ。初恋が妖精だったんですって。これから色んな事業に妖精たちが参加してくれたら楽しくなるわね」
にこやかなキャロラインにシャルルは微笑んだ。
『そうですか。何だか続々と妖精たちの就職先が決まりそうですね』
「じゃあ、シャルルはそっちでキャロライン聖女説を推していって。僕達はとりあえずオルゾにダムを作ろう。で、フラグなんだけど」
「それ! 忘れてた。えっとね明日! ルイス様、ちょっと中庭で私のハンカチ拾ってください。落とすんで」
「ん? ああ、構わないが。それがフラグなのか?」
「はい! ルイスルートの第一弾です。アラン様の話では勝手に口が喋りだすらしいんですけど、一応、台本持っておいてくださいね」
「分かった」
「それ、私も見ていていいかしら?」
不安気なキャロラインに、アリスもルイスも頷く。
「もちろんです!」
「当然だろう!」
そんな二人の反応を見て、キャロラインは安心したように微笑んだ。
『では、メインストーリー攻略頑張ってくださいね。それでは、私はこれで』
そう言ってシャルルとの電話は切れた。それを合図に皆は解散したが、メインキャラクターではない人達だけが護衛室のルーイの部屋に集まる。
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