第二百三十六話 ソーセージは茹でる派?焼く派?

 そんな事を話しているうちにあっという間にソーセージの中身が出来上がる。それを今度はキリが丁寧に腸の中に詰めだした。この作業をアリスにやらせると綺麗な形にならないのだ。雑いから。


「お嬢様! どうして一定間隔でクルクル出来ないんですか」

「そんな事言ったって仕方ないでしょ! 物差しがある訳じゃないんだから!」

「だったら違う物で代用すればいいでしょう⁉」

「こういう手作り感がいいんじゃない! もう、キリはいちいちうるさいの!」

「煩くさせてるのはお嬢様があまりにも雑いからです! ゴリラの方がまだ手先が器用ですよ。大体お嬢様は――」


 ギャアギャア言い合いながらも次々にソーセージが出来上がっていく。そんな光景を見てリアンがポツリと言った。


「仲いいよね、あんた達さ。何だかんだ言いながら」

「仲良くない!」

「仲良くありません」


 同時に言う二人に店内に笑いが起こる。天才アリスと従者のキリは息がピッタリだ。罵り合いながらも着々とソーセージが出来るのだから。見ていると、これは二人の息が合っていないと出来なそうだ。


 どんどん長くなるソーセージの端っこを抓んだダニエルがそれを見て首を傾げた。


「これ、こんな長くてどうやって食うんだよ」

「これはね、こうやって食べんの。ミアさん、お湯沸いた?」

「はい! 準備万端です!」


 そう言ってにっこり笑ったミアはお湯の前でソーセージを今か今かと待っている。そんなミアにキリが言った。


「こちらは終わりました。ミアさん、代わります」

「え! ど、どうして……」

「……茹でる、できますか?」

「し、失礼な! 茹でるぐらいできます!」


 真顔でそんな事を聞いてくるキリをミアはキッと睨みつける。キリの言葉の中に少しだけ間があったのは、流石に申し訳なさからなのだろうか。


「では、お願いします。色が白っぽくなってきたら引き上げてください」

「はい!」


 こうしてソーセージは長いまま大鍋の中に次から次へと放り込まれていった。途中でお湯が沸騰してしまって慌てるミアとキリが結局交代して茹で上がったソーセージは、既にいい匂いがしている。


「でね、後は切るだけ。はい、皆ハサミ持って、このグルグルしてる所で切っていってね」


 アリスの言うように最後は皆で手伝って、大量のソーセージが出来上がった。


「このままでも食べられるけど、私は焼くのが好きだよ! 好きな方で食べてみてね。粒マスタードとかケチャップとかつけても美味しいよ」


 そう言ってアリスはさっさと半分のソーセージを焼きだした。その途端、ジュウっという音と共に良い香りが店の中に充満する。


 店の中にソーセージの匂いが充満し始めた頃、今まで意識を失っていたエマが二階の階段から目を擦りながら降りて来た。


「なんの匂い~? いい匂いがする……」

「エマ! お前、もう起きて大丈夫なのか?」


 それに気づいたダニエルがエマに駆け寄ると、エマはコクリと頷く。それを見てダニエルは安心したようにエマを軽々抱き上げてまた戻って来て事情を説明している。しているのだが。


「ねぇ、あれどうなってんの?」


 リアンがオリバーの隣に居たドロシーに耳打ちすると、ドロシーはすぐにスマホで文字を打ち出した。


『ダニエルはエマが大好きなの。最近はいっつもあんなだよ。最初はエマも嫌がってたけど、最近はもう慣れちゃったみたい』

「……へぇ……あれが従弟かぁ」


 自分は良識あるお付き合いをしよう、ライラと。そう硬く心に誓ったリアンは、目の前でエマを膝の上に乗せたままいちゃつくダニエルから視線を逸らした。


 そしてふと思った事がある。何やらゲーム時間が始まった途端、ゲームのメインキャラクター達が恋愛方面に積極的になりだしたような気がする。


「ああ、何で変態が居ないの!」


 こういう時に一番共感してくれるのは間違いなくノアだ。突然のリアンの叫び声に周りがビクリと肩を震わせた。その目は明らかに、変態に来て欲しいの? と物語っている。


「あ、違うんっす。変態って言うのは、アリスの兄貴のあだなって言うか」


 それを聞いて周りはさらにどよめく。


「え、リアンお前、ノアの事変態って呼んでんの?」

「あの優しそうな綺麗な人だよね? あの人変態なの?」


 不思議そうなダニエルとエマにリアンは頷くと、それをフォローするように焼けたソーセージを持ってアリスとキリがやってきた。


「あ、でも兄さまの事を変態って呼んでいいのはリー君だけだよ。他の人には物凄く怒るから」

「ですね。ノア様は違う人に変態と呼ばれて、物凄い笑顔で壁に押し付けて絞め殺そうとしていたのを何度か見たので。変態と呼んで返事をするのはリアン様だけにですね」


 キャラクターではないという仲間意識なのか、ノアはリアンには結構言いたい放題言わせている。大変貴重な存在だ。


「何か面白い繋がりだねぇ」

「いたんすね、エドワードさん」

「うん、さっきからね。あの端っこに居たよ。それにしても、これがソーセージかい? 良い香りだ」

「き、気付かなくてすみません」


 頭を下げたダニエルにエドワードは首を振って優し気な笑みを浮かべた。


「とんでもない! 変な物をやっつけてくれたし怪我人まで助けて貰って、感謝するのはこちらの方だよ。君達のおかげで皆無事だったんだから」


 何か得体の知れない化け物が出たと聞いて、エドワードもすぐに現場に向かったが、そこには既に大方の敵をやっつけたアリス達がいた。最後のキャロラインの氷杭は圧巻だったのは言うまでもない。


 エドワードはそう言って改めてキャロラインを見た。


「聖女様、そして皆さん、改めて今日はありがとうございました。領民達に代わってお礼を言わせてください。そして皆も、よくぞこのグランを守ってくれました。本当にありがとう」


 そう言って皆に頭を下げたエドワードにそこかしこから拍手が起こる。


「いいよいいよ! もう怖い事は忘れてソーセージ食べよ!」


 そのアリスの一言に、店内は一瞬で盛り上がった。


「うめぇ! 皮がパリッパリだな!」

「うまぁ! やっべ、美味いな、これ!」

「茹でたのと焼いたのでは食感が全然違うのも面白い」

「これは確かにさっきのビールって奴とよく合いそうだ」

「子供でも手軽に食べれるわね」

「天才アリス、これのレシピを教えてくれるかい?」


 ミランダの言葉にアリスは笑顔で頷いて親指を立てる。


「もちろん! ここでもビール作るんなら、絶対に知っておいて欲しいレシピだよ!」


 こうして、グランにソーセージがあっという間に広がった。


 ビールの工場が出来てミランダの店でビールが提供されだした頃、アリスが土産に持ってきた枝豆の苗から収穫した枝豆の塩茹でとソーセージで仕事終わりに一杯ひっかけて行く領民が増え、ミランダがホクホクしたのは言うまでもない。


 やはり、オリバーとドロシーはこのグランを救う救世主だったのだ。いくらキャロラインが聖女と言われようと、ミランダの中でその事実だけは一生変わる事はなかった。

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