第二百八話 落ちた髪飾り ※大変気になる所で終わってます。苦手な方は明日の昼更新をお待ちください♪
ルイスは集中した。今まで業火を範囲的に使った事などないが、やってみる価値はある。
次から次へと無尽蔵に湧いてくる岩の影に向かって詠唱を唱えたルイスは、そのイメージの幅をじわじわと広げた。するとどうだ! 出来たではないか!
嬉しさのあまり振り返ると、トーマスがアリスのように親指を立ててくれた。
ノアとオスカーはお互い背中合わせになってまだ敵に囲まれていた。先程敵に囲まれたノアを見たオスカーが、敵を薙ぎ払いながら駆けつけてきてくれたのだ。
しかし、いくら切っても次から次へと湧いてくる。これではきりがない。
「オスカーさん、もしかしたらこれは人間ではないかもしれない」
「え⁉」
「切れば手応えはあるし血も出るけど、これ、人間の血じゃないんじゃないかなぁ」
のんびりと肩で息を切らしてそんな事を言うノアにオスカーはゴクリと息を飲んだ。
「どういう事ですか?」
「魔法で作られてるんじゃないかなって。だとしたら、どこかにこれを作ってる場所があるはずなんだ。それを壊せばこいつらは居なくなる、と、思いたい」
そう言ってノアはクロスボウで敵を貫きつつファルシオンを振るう。的確に急所を貫いていくノアに感心しながら、オスカーも状況を見ながら剣を振り回した。
「でも、どこに、そんなもの……」
「どちらにしても! 今のままではマズイ! ね! 流石に、僕も疲れてきたよ」
こんな時にアリスとキリが居れば。ドンがもっと大きかったら。そんな事を思わず考えてしまうが、そんな奇跡のような事は起こらない。
とうとう、オスカーが剣を地に突き刺した。もう駄目だ。これ以上は肩が上がらない。後ろではノアの息も相当上がっている。その時、
「ノア! オスカー! 避けろ!」
「!」
「⁉」
後ろからカインの悲痛な叫び声が聞こえた。二人が同時に振り返ると、そこには既に目の前に敵が槍を持って迫ってきている。
「……っ!」
もう避けられない。
行かないで、と言ったアリス。あの時言う事を聞いて居れば、こんな事にはならなかったかもしれない。自分の力を過信していたノアの落ち度だ。
また、自分で片をつけようとして失敗してしまった――。
ノアは固く目を閉じ、アリスの無邪気な笑顔を思い浮かべる。
「アリス」
ポツリとノアが呟いた。オスカーも何かを呟いたようだが、生憎それはノアの耳には届かなかった。
「「ノアーーーーーーーーー! オスカーーーーーーーーー!」」
ノアに貰った髪飾りが落ちた。ふと見ると、緑の宝石にヒビが入っている。アリスはそれを拾い上げると、しげしげとそれを見つめていた。
「どう、した、の?」
息も絶え絶えに言うリアンに、アリスは首を傾げて壊れた髪飾りをリアンに見せた。
「何かね、落ちた。見て、割れちゃった」
「ほんとだ。何か嫌な感じだね」
ポツリと言うリアンにアリスは頷いた。何だか胸の中がザワザワする。何だろう、この嫌な感じ。
そこへキリがやってきてアリスの手の中にある壊れた髪飾りを見て顔を顰めた。
「ノア様は今、銀鉱山に居るのでしたか?」
「うん、そう。ルイス様を襲わせるって言ってた……兄さまに何かあったのかな……」
ポツリと言うアリスの声は震えている。そっと肩をキャロラインとライラが慰めるように抱きしめてくれた。ライラはともかく、ノアに何かあったとしたら、一緒に居るルイスも危ないという事だ。
「……キャロライン様……」
「大丈夫よ、アリス。ノアがあなたを置き去りにする事なんてないわ。絶対に。そうでしょう?」
「う、うん……そ、ですよね」
「そうです、お嬢様。しっかりしてください。たまたま壊れただけかもしれません。ただの老朽化です。普段あれだけ暴れているのですから、そろそろ壊れてもおかしくないと、私は常々思っていました」
「そうだよ。大体あんた、動きすぎなんだよ、普段から! これを機にちょっとは大人しくしなよね!」
「う、うん! そうだよね! きっとそうだ! さて、じゃあ練習再開しよっか!」
「いや、ちょっと流石に休ませてくんない⁉」
リアンの一言に皆は笑った。
けれど、皆どこかその表情は硬い。まるで髪飾りの事など無理やり忘れるようにスミスの小屋に移動した人達を横目に、キリだけは小屋の外でルードに電話をしていた。
『キリ君! どうしたの?』
「ご無沙汰しています。すみません、突然。少しお時間構いませんか?」
電話の向こうからは今日も元気なライリーとローリーの声が聞こえてくるが、神妙な声のキリを見て、ルードは何か気付いたのかすぐに頷いて静かな場所に移動してくれた。
『で、何かあった?』
「はい。確定ではありませんが、ただのお嬢様のいつもの勘なのですが、もしかしたらノア様たちに何かあったかもしれません」
『……どういう事? カイン達は今日、あの作戦を決行しに行ってるんだよね?』
「はい。ですが先程、お嬢様の髪飾りが壊れたのです。ただそれだけなんですが、あの兄妹は昔からそういう所があるので、少し心配になってしまいました。行き先は銀鉱山なので、ルードさまのお力で様子を知る事は出来ませんか?」
珍しく殊勝なキリの態度に、ルードは一つ頷いた。
『カインからその計画を聞いた時から俺も俺で動いてたんだけど、その敵というのはどうもフォルスでもルーデリアの者でもないようだね』
「そう、なんですか?」
『ああ。銀鉱山にね、最近変な連中が出入りしてるって話が入ったんだ。中心人物は女王様って呼ばれてるらしい。その女王様は俺の大事な鉱夫達をそそのかして何かしようとしているみたいなんだ。カインはそれが、あのセレアルから逃げた継母なんじゃないかって言ってたけど、俺もそう思う。それで継母について調べたら、彼女はどうもフォルスでもルーデリアの者でもない事が分かったんだよ』
彼女の出自をいくら探しても出て来なかった。どうしてロンドの所に嫁げたのかも分からなかったのだ。気が付けば継母と呼ばれる人物はセレアルの女王として君臨していた。そして彼女の周りを常に護衛していたのが、あの覆面の者達だったようなのだ。
それをキリに伝えると、キリは頷いて何かを考える仕草をする。
一体どこのどいつなんだ? 何が目的で動いている? 偽シャルルの仲間なのか? 色んな疑問が脳裏を過るが、今はそれどころではない。
「それで、向こうの様子が分かる術は……」
不安そうなキリを見て、ルードが、ふ、と不敵に笑う。
『キリ君、彼らを舐めちゃいけないよ』
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