パルパイオニアへようこそ!ⅡだけどⅠ

 PPユートピアシティー南支部の新規登録カウンターの受付嬢こと私が所属することになったFL部隊の責任者に手頃な宿(カプセルホテル)を紹介して貰い宿へと移動した。


 大浴場にサウナにマッサージルームにバーカウンターに喫煙所。しかも睡眠カプセルは酸素カプセルと至れり尽くせりと来たもんだ。


 これだけ揃って一泊何と何とたったの千二百八十円(税込)。

 しかもしかも驚くこと無かれ、PPの窓口の横にポケットティッシュとセットで置かれていた割引チケットを使うと半額つまり六百四十円(税込)で泊まれてしまうと来たもんだ。


 割引チケットに至っては読んで吃驚何度でも利用可能と来たもんだ。

 好きなだけご自由にお持ちくださいと書かれていたのでついつい欲張ってしまい五つも手に取ってしまった。

 誰にと言う訳ではないが割引チケットではないあくまでも持参し忘れたティッシュが欲しかったからだ。


 夢の中で迄せっこちい自分自身を若干同情しつつ、大浴場で汚れと疲れを落とし、サウナは苦手なので三分弱だけ気合で向かい合い、割引対象のマッサージ十五分百五十円(税込)(通常価格三百円(税込))を四回。つまり六百円をマッサージカプセルの横にある硬貨投入口に投入しカプセルの中で横になる。


 夢の中で夢見心地。別段特に面白くも何ともない事をウトウトしながら思考し苦笑したところで、夢の中だというのに意識を手離してしまった。


・・・・・

・・・・

・・・

・・


 ケーリューさん。




 ケーリューさん。



「ケーリューさん起きてください朝ですよ。朝ごはんの時間ですよ」


 誰かに名前を呼ばれているような……。

 誰かに身体を揺さぶられているような…………いや、ようなではなく揺さぶられている。


「う、ふわぁー、あぁ――――」

 身体を伸ばしながら上半身を起こす。


「やっと起きてくれました。もう、お腹ペコペコで死んじゃいそうなんですよ。責任取ってくださいよ」

「はいはい」

 責任の取り方がいまいちよく分からないが適当に返事をしておく。


「返事は元気よく一回だけで十分です」

「はいよ」


 何ともリアルな夢だった。マッサージ気持ち良かったなぁー、大浴場も気持ち良かったなぁー。などと現実逃避しながら着替えを済ませ、部屋の鍵を開けアステリアと一階の食堂へと移動した。


 あれ? アステリア、鍵、どうやって私の部屋に入ったんだ?



 食事を済ませ、エイオト爺さんの家へと移動し、屋根の補強二日目を開始した。


「それじゃ、宜しく頼んだよ」

「はい」

「ケーリューさんと私がいればそのうち終わるのです。お任せくださいなのです。そうですよねケーリューさん」

 続けてさえいればそのうち終わるのは確かなのだが……。

「それでは始めますか」

「はいなのです」

 元気いっぱい勢いよく梯子を上り屋根の上へと移動するアステリア。


 エイオト爺さんと私は何となく苦笑しその様子を見つめていた。


「そうだ。エイオト爺さん。屋根の材料に使ってる稲なんですが、何処で仕入れたとか分かりますか?」

「稲藁はぁ―――……ヒトナルのところだな」

「ヒトナルさん? ですか?」

「丼勘定を背に左側に進むと十字路があるじゃろ。丼勘定と同じ通りに儂よりほんの五歳程少しだけ若輩で儂より老けて見えるヒトナルのマテリアルショップ万屋ヒトナルという店があってな。ここいらではヒトナルのところしか店がないので仕方なく買ってやってるのだが、ヒトナルの奴何十年も買い続けてやっておるのにまけてくれんのじゃよ」

「そうなんですか」

「まったく競争のない商売は丸儲けで羨ましい限りじゃわい」

「……そうですね」

「行くんじゃったら、エイオトが次はまけろと言っておったときつめに言っておいてくれ。兄さんじゃったらいける。儂の目は意外に鋭い時があってのフォッフォッフォッフォッフォ」

「……伝えておきます。さて私も仕事しなくては。ということで後程」

「頼んだよ」



「ケーリューさん遅いですよ」

「申し訳ない。エイオト爺さんに聞きたいことがあって少し長引いてしまった。仕事を始めるとしますか」

「はいなのです」



 なんだかおかしい。昨日より手際が良過ぎないか?


「ケーシューさんはコツ掴むの早いですね。羨ましいです」

「コツ……まぁ確かに色々やってきたが…………そ、そうかもな」

 器用な方だと自覚はあったが、これ茅葺屋根だぞ。



 やっぱりおかしい。終わってしまった。


「二日目で終わってしまうなんて、これ、私達才能ありますよ」

「昨日一日かけて五分の一も終わらなかったのに、残りが小一時間で終わってしまうとかどう考えてもおかしくないか?」

「う~んどうなんでしょうね。終わってしまったものは終わってしまった訳ですからおかしくないです。寧ろ喜ぶべきです」

「そうなんだが……」

「明日は別の仕事ができてしまうのです。補強終わりましたって言いに行きましょう。そしたらパルパイオニアです。良い仕事があると良いですね」

「あ、あぁ」



 小一時間で仕事が終わってしまったため時間は沢山ある。

 のんびりと歩きながらパルパイオニアを目指す。


「吃驚してましたね」

「まぁー驚くだろうな」

「も、も、もう終わったじゃと!? と、年寄に冗談は、お、終わっとる!! 外に駆け出してお尻とお目目を突き出すながら、終わっとる!! は、面白かったですね。クスクスクス」

 エイオト爺さんの真似をするアステリアを横目に、恥ずかしくないのかと聞くのは野暮だと止めた。楽しそうだし。


 器用だからで片付くような話なのか?

 専門の職人でもあの量を小一時間で終わらせるとか無理だろう。

 手の動きが自分の手の動きが理解できなかったって言ったら、「クスクスクス、ケーリューさんも冗談言うんですね。でも止めた方が良いですよ。ケーリューさんに冗談のセンスは無いみたいですよ。でも私なら大丈夫ですよ。どんどん来てください。全部受け止めてみせますよ。クスクスクス、ププププッ」って、ウサピョン早く帰って来ないかな。


「あれ? 今から仕事ですか?」

「終わりましたぁー♪」

「え? エイオトさんの家の屋根の補強でしたよね? 五日はかかるはずなのですが」

「私達才能があったみたいでコツを掴んだらあっというまでした。これ確認書です。ちゃんとサインもありますよ」

「サイン……ありますね。完了手続き処理をしますので、先日お渡しした新規登録申請書の採用試験内容の欄にGAと記入しておいてください」

「ジーエー?」

「ジーエーですか。ABCDEFGのAとGのことでしょうか?」

「はい、ABCのAとGで間違いありません。クエストの完了手続き処理は直ぐ終わりますので少々お待ちください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

(仮タイトル)私は「パラレルワールド(不思議な世界)じゃないアリス(火星)に来たかったんだ。」 諏訪弘 @ayano502

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ