アリスⅡ

≪「皆様アリスクリヴィッツ空港(火星)に到着致しました。天候は晴れ、シェルター内の気温は二十三度でございます。シート着席サインとベルト着用サインが消えるまで、お座りのままお待ちください。上の物入れを開けた際に手荷物が滑り落ちるおそれがありますのでお気を付けください。この先、当機はターミナル二六四二ゲートに入る予定でございます。どうぞ良いアリスライフをお過ごしください。本日もインターステラーフライトメンバーJNAをご利用いただきましてありがとうございました。お出口は前方と中央の二か所、後方の二か所でございます。」


 着席と着用のサインが同時に消えると機内が一斉に慌ただしくなる。

 立ち上がり、荷物を取り出す者。そのまま出口に向かう者。





 慌ただしくも騒がしい機内にあって、シートにもたれかかり微動だにしない男が一人。





「良いアリスライフをお過ごしください。」


 インターステラーフライトクルーは最後の乗客を送り出すと機内の確認作業を開始する。


「あら、まだ一人残ってるみたいよ。Cラインの担当は」

「はい、私です。行ってきます。」




「ZZZ... ZZZ... ZZZ...... ZZZ...」

「お……。お客……。…………様、……様、お客様」

「……もう……朝、ですか……ZZZ...」

「お客様」

「アステリア。後……五十分………ZZZ...... ZZZ」

「お客様。アリスクリヴィッツ空港に到着致しました。お客様、アリスです。アリスに到着しました」

「アリス? ……………アリス? ……アリスッ!!!!!」

「キャッ」

 インターステラーフライトクルーの女性は突然大声を上げた男に驚き小さな悲鳴を上げた。


「す、すみません。つい大きな声を、あっ、あれ、体が動かない」

「お客様。失礼ですがベルトがまだ」

「あ、本当だ」

 ベルトを外し立ち上がる。

「……………………………………… ・ ・ ・、あぁ? えぇえぇ?」

 ここ何処? 宿は? ベッドは? あれ? この人、前に何処かで会ったような、話したような……。それに何かここ見覚えが…………。


「お探し物でしょうか?」

「いえ、あ、えっと何かまだ寝惚けてるみたいで、はい、すみません」


・・・

・・


「良いアリスライフをお過ごしください。」

「あ、はい、ありがとうございます」


 前方の出口から機外へと踏み出した。



 いったい何が起こっているのか。リアルな夢が続く。


「オイラセケイリュウさんでしょうか?」

「は、はぁ……」

「今日は数年ぶりにギからの移住者が来ると伺っていたのですが、なかなかお見えにならないので危なく確認の連絡を入れるところでした」

「はぁ……」


「室長がガセネタだったんじゃないか、確認した方が良いじゃないか。って、一人で騒いでただけですよね? ギに確認するべきか、ジェーエヌエーに確認するべきか。って、迷ってただけですよね?」

「き、君。何も今それを言わなくてもブツクサブツクサ……」

 




「オイラセケイリュウさん。こうなってしまうと長いので、私が手続きを致します」

「お願いします」


・・・・・

・・・・

・・・

・・


「…… ~ …… ここでの手続きは以上になります」

「ありがとうございます」

「最後になりますが、ようこそアリスへ。……局長。入星手続き移住説明終わりました。…………局長っ! ウエキ―さんっ!! いい加減にしてください。移住者さんの前なんですよっ!!! って、あら私としたことがオホホホホホ。二人とも移住者さん、オイラセさんに挨拶、ウェルカムの挨拶」


「それでは、僭越ながら局長の私からお祝いの言葉を…… ~ ……はるばるギから」

「「局長もう結構です。オイラセさん。「「「「ようこそアリスへ!!」」」」」」


 局長らしい男性職員と、局長らしい男性職員とつまらない漫才を繰り広げていた女性職員と、手続きをしてくれた女性職員。他こちらの様子を伺っていた知らない人達からも笑顔で歓迎されてしまった。


 恥ずかしい。こんな夢を見るなんて、……恥ずかしい。

 足早に空港を後にした。






 リニアカプセルでクリヴィッツ駅からティラ駅へ移動し、マッハカプセルに乗り換えユートピアシティーのウトピア駅へ移動し、徒歩でパルパイオニア、ユートピアシティー南支部へと移動した。


 入星審査の女性職員から、ユートピアシティーに着いたら東西南北中央何処でも構わないのでパルパイオニア(拓殖協会)の支部で転籍の手続きを行うように言われたからだ。


 アリスでは、住民票及び戸籍の管理をパルパイオニアが行っている。



「転籍の手続きをお願いします」

 リアル過ぎる夢に若干引きながらもタブレットを操作し十一次元コードで暗号化された転籍届の絵を表示し窓口の受付の男性に見せる。


「転籍ですね……転籍ですか?」

「はい。転籍の手続きをお願いします」

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