宿屋・丼勘定へようこそ!

 パルパイオニアで受けた三丁目のエイオト爺さんの家の屋根の補強一日目を終え、日当四五〇〇ドラドラを受け取り、アステリアと歩く宿屋への帰り道。


「ケーリューさん、ケーリューさん。屋根終わりませんでしたね。」

「素人だしこんなもんだろう。」

「茅葺ってアモンの方言で。中央では藁葺って言うそうです。前から思ってたんですよ。乾燥させた草の屋根だなって。」

「まぁーそうだな。見たまんま藁にしか見えないわな。」

「えっ!? ……あれって、藁だったんですかっ!! わ、私凄いかもしれません。私の中で全ての謎が解けてしまいました。……藁だったんですね、へぇー。」

「良かったな。」

「はいっ!!」


 ギでは見たことも聞いたことも無い植物ばかりで驚いたが、……良かった。あれは間違いなく稲藁だったしアリスでも米の栽培が行われている証拠だ。

 ベーグル畑に、フォカッチャ畑。焼き芋畑に、鉛の水田に、錫の花畑。この町で受けられる野良仕事は一通り手伝ったと思っていたのだが。


「なぁーアステリア。田んぼや麦畑はどの辺りにあるんだ?」

「へぇー、あっ? はいはい。」

「はいはい。じゃなくて、田んぼだよ田んぼ。」

「た、ん、ぼ? ……あぁあぁあはいはいあれですね。オニヤンマ、リヴェルリですね。????えっとリヴェルリがどうかしたんですか?」

「いや、トンボじゃなくて田んぼ。稲を植える畑」

「へぇーそんな畑もあるんですねぇー♪ ケーリューさんは物知りですねっ♪」

「いや、まぁーはぁー……」

 確実に人選を間違えた。聞くならウサピョンだったわ。


 とりあえずは米がある。収穫としては申し分ない。……不思議なものだ。ウサピョンにこんなにも早く会いたいと思っている自分がいるなんてな。


 …………きっと明日は雨だな。


「なんか楽しそうですね。スケベなことですね。スケベなこと考えてましたね。」

「は?」

「う~ん?」

 顔が近い近いっ!!!!

「近いっ近いっ。は、離れてください。い、いったい何考えてるんですか恥ずかしくないんですかっ?」


 気が付くと、いつもこんな感じでからかわれているような気がする。

 もう少し確りしなくてはと思ってはいるのだが、アリス一筋で生きて来た私にとって、女性の若い女性の相手など不可能に等しい。正に未知の領域だ。




「ケーリューさん。ケーリューさん。明日も頑張りましょう。オー。……はい、ケーリューさんも一緒に、オー。」


「ォ、オー……」


・・・

・・


 宿屋、丼勘定に帰って来た。

「お、お帰り。今日も一日お疲れ様ってなっ!!」

「今日も一日無事に終わりました。ただいまです。」

「今日も二人で頑張っちゃいましたぁー、もうお腹ペコペコですよぉー」

「そっかぁーペコペコかぁー。だがしかし飯はまだだ。お湯持っていかせるから先にスキッリして来ると良いぞ。」

「うううぅぅぅ。……仕方ありませんね分かりました。美味しいご飯の為に私頑張っちゃいます。ということでケーリューさん私とはここでお別れです。ではっ!!」

「あ、あぁ……」


 アステリアは物凄いスピードで階段を駆け上がり宿の二階へと消えて行った。


 お別れって……。


「なんつぅーかホントいつも元気だよな。」

「ホント元気ですよね。」


 二階を見上げながら宿の親父さんと言葉を交わしていると町に鐘の音が響き始めた。

 ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン

 夕方の五時を知らせる鐘の音だ。

「おっといっけね。料理の途中だったんだわ。飯はいつも通り六時から九時好きな時に一階だからな。」

 アステリア次第と言うか、

「いつも通り六時前にはテーブルに」

「座ってんだろう。了解了解。今日も大盛明日も明後日も大盛ってなっ!! ホラッ、ケーリューお前もサッサと体拭いて来い。クロエっ!ニーマルゴとニーマルロクにお湯とタオルだ」

「はぁ―――い、喜んで」

 カウンターの奥から元気な声が返って来た。

 声の主は宿屋丼勘定の看板娘クロエちゃん。親父さんの一人娘だ。


「また後でなっ!! あぁー忙し忙しいって幸せなことですね♪」


・・・

・・


 二〇五号室の備え付けの椅子に腰掛け机の上にタブレットを置く。

 メモ機能を起動し音声入力でメモを開始する。

「アリスでも米を栽培しているようだ。ニッポンの米はギで一番美味いらしいが、私としてはアリスの米が一番であって欲しい。」

 入力された文字を確認し完了をクリックする。


 トントントン。

「お客様。お湯をお持ち致しました。」

「今、鍵開けます。」

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