ボディバッグ③
敬隆のボディバッグはおかしなことになっている。
敬隆が気付いたのは、大の字で寝転がっているところをウサピョンに救助保護され、寝床用に動物の皮が二枚敷かれただけのキャンプにお姫様抱っこで運ばれ、初めてアステリアに出逢った日だ。
記念すべき、アリス一日目のことだ。
~回想~
突然のお姫様抱っこからの岩肌むき出しの大地疾走劇に言葉を失いなすすべもなく身を任せました。
余りに突然だったので少し口の悪いウサミミの女の子に救助して貰ったお礼を言い忘れていました。
感謝の気持ちを伝えようと声を出したところ声がちゃんと出ませんでした。
「あ…ぃ…だ……どぉ…………」
口から零れたのは、小さな嗄れ声だった。
憧れのアリスに到着したは良いが理解の範疇を超えた出来事ばかりで、心は感動ではなく停止状態、脳は己の中の何かを守るため必死に何かを拒否し体の制御が疎かになっているようだった。
喉がカラカラに渇いて当然だ。
慌ててボディバッグから水のペットボトル(三五〇ミリリットル)を取り出し、キャップを開け口へと運ぶが途中で手が止まってしまった。
何か軽い。
見ると。
入ってない! 入ってるけど入ってない!! え?
最も欲している水が入っていない。入っていたのは、綺麗にたたまれた一枚の紙きれだった。
……………………。
・
・
・
「ウサピョン。聴覚センサーが拾った反応は三つだったのですよね?」
「勘違いだったようです。近付き反応が大きくなるにつれ、三つあった反応は一つになりました。」
「あれ。何だと思いますか?」
「あれ……ですか。もう少し具体的にお願いします。」
「ウサピョンが連れて来た人が手に持ってる物です。」
「……ガラスにしては柔らかそうです。」
「それになんだかとっても軽そうですよね。…………あのぉ―――。お尋ねしても宜しいでしょうか?」
・
・
・
………………。
「あのぉ~。私の言葉、分かりますか?」
あ? おっと。
ショックのあまり思考が停止していたようだ。
「ァ”……ディ……ゴホッゴホッ、ゥ……ヴィ………ゼン」
もう一人のウサミミの女の子に慌てて返事をしたが、喉のことを忘れていた。
「ウサピョンどうしましょう。」
「どうしましょう……とは何をでしょうか。もう少し具体的にお願いします。」
「言葉が通じないみたいです。」
・
・
・
・
・
紆余曲折あって、喉の渇きを癒すことに成功し、ペットボトルとペットボトルの中に入っていた一枚の紙切れに八つ当たりすることなく、冷静に紙切れと向かい合うことができた。
紙切れには......
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目録
通帳 一枚。
キャッシュカード 一枚。
印鑑18mm 一本。
印鑑13.5mm 一本。
エチケットポーチ 一袋。
・ヘアブラシ 一本。
・桜の木の櫛 一本。
・お泊り用ボディーソープ 一本。
・お泊り用シャンプー 一本。
・お泊り用リンス 一本。
・シェービング用クリーム 一本。
・お泊り用洗顔クリーム 一本。
・リップクリーム 一本。
・目薬 一本。
・歯ブラシ 一本。
・歯磨きチューブ 一本。
・あぶらとり紙 一束。
・絆創膏 一箱。
・包帯 一本。
・ハンカチ 一枚。
・ガーゼハンカチ 一枚。
・ウェットティッシュ10枚入り 一袋。
・ソフトポケットティッシュ 一袋。
・酔い止め薬 一箱。
・錠剤カプセルケース 一個。
・ビルベリー&ブルベリー 七粒。
・DHA&EPA&オメガ3 七粒。
・熟成黒ニンニク 七粒。
・シベリア人参&イチョウ葉 七粒。
使い捨てソフトコンタクトレンズ
・3ヶ月分+1日=91回分 一箱。
飴ちゃんミックス 一袋。
・巨峰 五個。
・マスカット 五個。
・桃 五個。
・林檎 五個。
・みかん 五個。
・レモン 五個。
・パイナップル 五個。
・苺 五個。
・ハッカ 三個。
・梅 三個。
・珈琲 三個。
・紅茶 三個。
ミックスベジタブルチップス 一袋。
・京人参
・色とりどり鎌倉人参
・安穏芋
・三浦大根
・練馬大根
・鳴門蓮根
・オクラ
・ゴボウ
・カボチャ
・トマト
・オニオン
・バナナ
業務用割れチョコレート 一袋。
(200gだったはずが900gに)
眠気スッキリカカオ含有95%
カカオ95ビタビタチョコ 一箱。
(45gだったはずが100gに)
京都の名水磯清水
350mlペットボトル 一本。
(新品だったはずが空に)
メモ帳 一冊。
ペンケース 一個。
・シャープペンシル 一本。
・消しゴム 一個。
・16色ボールペン 一本。
・黒のマジックペン 一本。
・黄色の蛍光ペン 一本。
・桃色の蛍光ペン 一本。
・水色の蛍光ペン 一本。
・緑色の蛍光ペン 一本。
・カッターナイフ 一本。
・分度器 一個。
・コンパス 一個。
・三角定規 一個。
・修正ペン 一本。
・大きいダブルクリップ 二個。
・小さいダブルクリップ 六個。
・黄色の付箋 一束。
・桃色の付箋 一束。
・水色の付箋 一束。
・白色の付箋 一束。
・黒色の付箋 一束。
・ルーペ 一個。
・カーボン紙 一箱。
馬革の長財布 一個。
・10000円紙幣 一枚。
・5000円紙幣 二枚。
・1000円紙幣 一〇枚。
・200ユーロ紙幣 一枚。
・20ポンド紙幣 一〇枚。
・5000ルーブル紙幣 四枚。
・100ドル紙幣 二枚。
・1000ディルハム紙幣 一枚。
牛革の硬貨入れ 一個。
・500円硬貨 一枚。
・100円硬貨 六枚。
・50円硬貨 一枚。
・10円硬貨 八枚。
・5円硬貨 二枚。
・1円硬貨 三枚。
他、小物
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......と、書いてあった。
胸に装着したボディバッグを確認する。
限界まで膨らんでいたはずのボディバッグは、ペッタンコと言ってもよいほどにスマートになっている。それなりの重量だったはずなのだがまるで何も入っていないかのように軽い。
ボディバッグの中に手を入れる。そのまま肩まで腕を入れてみる。
入った!! ……おっと、これは財布か? ……印鑑だな。いったいどうなってるんだ?
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