Quiet talk & Introduction

ウサミミの女の子

≪ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ ×2

 電子音が響く。

 雲一つ無い澄み切った青い空。

 赤茶け荒涼とした大地。


 むき出しの岩場に直置きされたスマートフォンサイズのタブレット。


・・・

・・


「ふわぁ~」

 腕を伸ばし、交換予定のタブレットを手に取り、画面をタップする。


 起き屋根のように出っ張った大岩の真下に敷かれた名前も知らない動物の皮の上から体を起こす。


「一〇日目かぁ~…………」

 吹きっさらしの寝床に差し込む眩しい光は、六割程小さく見えるがイリョスの光だ。


 ……イリョスの影響力は四割程だと書いてあったのだが、古い情報だったか? 眩しいなぁ~。


・・・

・・


「おはようございます、ケーリューさん。」

「むき出しの岩場をものともせず大の字で寝転がっていただけのことはありますね。八時三二分ですが、私達に何か言いたいことはありませんか?」

「アステリアさんウサピョンさんおはようございます。」

 目を細めイリョスを眺める私に声を掛けて来たのは、命の恩人アステリアさんとウサピョンさんだ。


 良く通る澄んだ声で、朝の挨拶と私の名を口にしたのは、アステリアさん。

 彼女は、私の名前を微妙に間違えて呼ぶ。

 私の名前は敬隆けいりゅう。ケーリューではない。だが、面倒なので訂正はしていない。

 彼女には、耳がある。私にも耳はあるが、そう言う意味ではない。彼女の頭の上には、彼女の髪の色と同じ真っ白なウサギの耳がある。


 タブレットの辞書機能によると、ミルキーウェイギャラクシー内でこの様な特徴を持った人種は月の先住民セリニコイノスのみらしい。

 セリニコイノスの歴史は悲惨そのもので奴隷の歴史だった。

 子供や女性は見た目の愛らしさから権力者や金持ちの愛玩奴隷として弄ばれ慰みものにされた。

 男性や老人は耐久性の良さから資源衛星や辺境惑星の労働奴隷として扱き使われ使い潰された。

 蹂躙され続けた結果、ミルキーウェイギャラクシー内に六〇〇〇万人以上も住んでいたはずのセリニコイノスは数千数百とその数を減らし、星間自然保護監視連合によって第一級絶滅危惧希少人種に指定され、奴隷取引が禁止された。

 奴隷取引の禁止と同時に保護と地位の回復が進められたが、時既に遅し、愛玩重視の交配と労働重視の交配で血は偏り、衰退しきった文化や風習を知る者は少なく、純粋なセリニコイノスは本来の長命を生かした老人ばかりになっていた。

 保護から九八〇年後、最後の一人が老衰で亡くなると、そのニュースは星間放送で緊急速報された。


 彼女は、今から三〇〇〇年以上も前に絶滅したセリニコイノスに良く似た特徴を持っていた。

≫≫-------------------≪≪

  名前:アステリア・ブラン・ペティート

  年齢:18歳

  髪型:胸元まで伸びるストレートヘアー

  髪色:真っ白

  瞳孔:鮮やかな赤

   瞼:二重

目鼻立ち:はっきりくっきり

   唇:ぷっくりプルプル柔らかそう

   肌:きめが細かく白い

  身長:160cmあるかないか(目測)

  体重:聞ける訳ない

≫≫-------------------≪≪

 非常に距離が近くて、非常にグラマラスで、刺激的。


 この状況に、私が慣れることはないだろう。

 自慢ではないが、私はアリス一筋四二年。正確には三六年と数か月だが、馬車馬のように働き金を稼ぐしか取り柄の無い男だ。


「考え事ですか?」

 彼女の屈託のない笑顔が眩し過ぎる。



「寝惚けているだけなのでしたら頬に目覚めの一捻りどちらでも両方でも抓って差し上げますよ。」

 アステリアさんとそっくりな声で口悪く話し掛けて来たのは、ウサピョン。


 彼女は、自称ロボット。

 型番は大切な場所にあるらしく見ていない。アステリアさんも見たことがないそうだ。

 彼女曰く、三六七九年製の”アルティメット・スペシャル・セリニコイノス・プロジェクト・スーパーレア・ジーン”プロジェクトの集大成が彼女で、同じ型番は存在しないそうだ。


 どこからどう見ても人間にしか見えない。アステリアさんと顔も声もそっくりなウサピョン。双子?

 何故そっくりなのかは本人達にも分からないそうだ。


 見分ける方法はとても簡単で、アステリアさんはウォータメロン、ウサピョンはノーマルメロン。

 見分ける為とは言え、凝視する訳にもいかず、この方法は最終手段だと私は考えている。

 口調で聞き分ける方法は意外に難しい。ウサピョンは、余り喋らない。とても面倒見が良く働き者で寡黙だからだ。

 忘れた頃に、母性を感じさせる柔らかな笑顔で、早口の罵詈雑言を飛ばしては来るが、慣れて来ると可愛いものだ。


・・・

・・


「朝食にしましょう♪」

「あぁあ、汚れちゃいますよ。」

 アステリアさんは、焦げ茶色のなめし革の靴を脱ぐと、襟肩袖裾にレースをあしらった五分袖の空色のワンピースが汚れるのも気にせず、むき出しの岩場に直接座っている。


「エヘヘヘヘヘ、今日は食料が大量なんですよぉー。ジャジャァ~ン、どうですか見てください。」

 アステリアさんは、ウサピョンが背中に背負った大きなトウモロコシ型のカバンを受け取ると、石炭コールにしか見えない黒い塊と、鉄鉱石アイアンオルにしか見えない赤い塊を、地面に広げた。


 初めて会った日。「貴重な食料だけど食べて良いよ。」と渡されたコール。

 コールをボリボリと食べるウサミミの女の子二人を見た時直ぐには理解できず時が止まった。正直ひいた。

 輝かんばかりの笑顔で「今日はご馳走ですよ♪」と嬉しそうにアイアンオルに齧り付くウサミミの女の子二人を見た時アイアンオルの色と夕日が相まってホラーにしか見えなかった。正直怖かった。


 だが、背に腹は代えられない。それは、そんなことは、もう昔の話だ。


「「いただきまぁ~す」」

 ご馳走のアイアンオルに手を伸ばす二人。

 今なら私にもその気持ちが良く分かる。


 美味しそうに頬張る二人に「ありがとうございます」と気持ちを伝え、私もご馳走の方へと手を伸ばした。


 そして、砂を払い飛ばし綺麗にしてから、一言。

「いただきます」



≫≫-------------------≪≪

 ※ケーリューはまだ知らない。


  名前:奥入瀬 敬隆

    :オイラセ ケイリュウ

  年齢:20歳(45歳)

  髪型:マッシュショート

  髪色:黒

  瞳孔:黒

   瞼:二重(寝起き)(やや奥二重)

目鼻立ち:鼻筋は通っているがフラット

     (欧米系に良く間違えられた)

   唇:あるなといった程度

     (分厚くはれぼったかった)

   肌:日本海側に住む女性の様に白い

     (こんがり焼け浅黒かった)

  身長:170cm以下

     (187cmはあったはず)

  体重:55Kg

     (75Kgはあったはず)


  父方:二ホン・エミシ系譜と

     フランス・フランク系譜のミックス

  母方:二ホン・ヤヨイ系譜と

     ロシア・タータ系譜のミックス 


 ※今の自分の姿を……。

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