第7話 あの日の真実
「お嬢⋯。風邪引くぞ⋯。」
雨が降る中そう言ってくれる蛍を私は嘲笑した。
「神喰いが病気になると思うの?」
「⋯そういう事じゃねぇだろ?」
蛍は思うところがありそうだが単に私の心配をしているのだろう。
蛍はぶっきらぼうだが優しい男だ。私を通してあの子を心配してるのも長い付き合いだから手に取るようにわかる。
「あの子神を食べたって事実を肯定できるかしら?」
「⋯わかんねぇけど真実は変わらんしな。」
そうあの子はあの日、神を食べたのだ。
神屠と私達は名乗っているがもともと神屠というのは神喰いを表している言葉だ。古き言葉の意味だから今、本当の意味で神を喰らっているものはほとんどいない。いるとしたらそれは大体転生者だろう。古き転生者の中には神を喰らった咎なのか転生しても神を喰らい続けることで自分を保っているような輩もいる。
私は前世、斎藤帰蝶であった。
神を喰らいし人の王の妻。
その称号は私自身が神を喰らってなくても神にとっては重い。何よりも憎い存在だったのだろう。
だから私は襲われた。そして私も神を喰らった。
そのときはがむしゃらだったが今は後悔している。
蛍⋯そのときは幼かった集落の子供であったが今世まで巻き込む事になってしまったことも。
「蛍⋯ごめんなさい⋯。」
ポツリと言の葉が形を成していく。
私は昔を疎んでいる。それを蛍は今生知っていてくれているのだ。
「お嬢は悪くねぇから謝んなくていいし。⋯前世のことは俺は後悔してねぇ。あのとき俺は神を呪った。その時に力を貸してくれたのがお嬢だっただけだ。他のやつが力を貸してくれてても同じことになってたと思うしな。」
蛍の言葉が私の心に暖かさを戻してくれる。
まるで幼子を包む産着のようだ。
「蛍⋯ありがとう。」
日頃の感謝を声に乗せてみる。
そうすると蛍は照れてるのを隠すように
「ん。あー、雨上がったな。神食べてるったって全く体調が悪くならねぇって訳じゃないんだからお嬢は少し気をつけろたほうがいい。」
とふいっと空を見上げて呟いた。
私は笑いを堪えきれず
「そうね。善処するわ。」
そう蛍に伝えて蛍が見上げた空を一緒に眺める。
空には月が雲間から出て辺りを微かに照らしていた。
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