第2話 始まりの日

聞こえてくるのは村の人々の叫びと怨嗟の声。

目の前に広がるのは辺り一面の炎。

何がどうなってそうなったのか分からない。

明日はずっと心待ちにしていた祝言だったのに。

火の海で自分の感覚がどんどん無くなって薄れていく。

そして最後に視界の前にぼんやりとした影が現れたところで意識が途切れた。

_______....


ピピピピと目覚まし時計の音が鳴り響いてる。

どうやら寝てるときに泣いていたらしい。

ここ最近頻繁に同じ夢を見ている。その内容は起きるとはっきりとしたことは思い出せない。

なにか大切な事だったような気がするのだが寝て起きると霧散するように夢の内容を忘れてしまうのだ。

まぁ考えてもしょうがないと私は寝ている状態から身体をおこして伸びをした。

そこで私は時計を見て固まった。

「寝坊した…!!」

私はすぐにパジャマから制服に着替え身なりを整え家を出る準備をした。

そして階段を降りた1階では焦る私を無視したかのようにお兄ちゃんがリビングで新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。

「お兄ちゃん!!なんで家にいるなら私を起こしてくれなかったの!?」

「ん?あぁすまない、おはよう千早。今日から新学期なのかい?」

お兄ちゃんは私に気付いて新聞をたたむ。

「そうだよ!遅刻はギリギリしないと思うけど!」

「そうかそれは良かった。」

私は玄関へ向かい靴を履く。そうすると後ろから

「これ後で食べなさい。あとは怪我をしないように気を付けて行くんだよ?」

と菓子パンの袋を持ちながらお兄ちゃんは私を見送りに来てくれた。

私はそれを受け取り

「ありがとう!それじゃあ行ってきます!!」

と返事をして自転車に乗り学校へ向かった。




今日は高校2年生に進級した新学期の初日だ。

新学期初日から寝坊をしてしまったのでまずいなと思いつつ遅刻ギリギリで学校に自転車で登校すると満開の桜が目に入る。

今年も立派に咲いたなと感心しながらもホームルームに間に合うように急いで学校の裏手にある駐輪場に向かう。

もう時間的にほとんど人気の無くなった駐輪場に自転車を置いて教室に急いでいたその刹那、強い風が舞った。

狂ったようにはらりと舞う花弁はどんどん儚く散ってゆく。

そして駐輪場にある一際大きい桜の木の下を見た。そこには黒く長い髪を揺らした見知らぬ制服の女の子が立っていた。

なんて綺麗な人なんだろう…と私はぼーっとその少女を見つめてしまっていたがそこでホームルーム開始のチャイムが鳴った。

やばい!遅刻した!と思った後にはもう遅し。新学期遅刻確定。私の今までの皆勤賞がそこで途絶えた瞬間だった。



私は甘かった。教室さえわかればなんとかなる!…はず、そう思って2年の教室の前に立っていた。

でも各教室でホームルームは始まっているらしく自分の教室がどこかもわからない…。

そこで困っているとさっきの見知らぬ制服を着た美少女を連れた学年主任の先生がこちら側にきた。

「竹村?もうホームルーム始まってるのに教室に入ってないってことは遅刻かな?珍しいね。」

声をかけられて私は学年主任の先生に「すいません!遅刻して自分の教室がどこだかわからくて…。」

そう答えると学年主任の先生は「まぁいいよ。竹村は転校生と同じクラスだから一緒にクラス入れば問題はないね。」

そうして学年主任の先生と私と転校生で2-Aの教室の前に立つことになった。

そして学年主任の先生が2-Aの教室に先に入って最初に担任の先生に

「遅刻の竹村は先に入ってこい。」

そう言われて教室に入るとクラスメイトからの皆から笑いの渦が巻き起こった。穴があったら入りたい…。

私がクラスの笑いをかっさらったあと転校生が学年主任の先生から呼ばれて教室に入った。


その瞬間クラスの時間が固まった。男子も女子も。まぁあんな綺麗な人見たことないくらい綺麗だからなぁ。…かく言う私もあまりにも綺麗すぎて見とれちゃってホームルーム間に合わなかったんだけど。


「転校生の名前は紫崎凛さんです。仲良くしてあげてくださいね。」

と学年主任の先生は言った。

そして転校生は「紫崎凛ですよろしくお願いします。」と自己紹介をした。

学年主任の先生は後のことは担任の先生任せるらしく

転校生に「新しい環境だけれど頑張って。」と言い残して教室を去っていった。


そして教室から学年主任の先生がいなくなった瞬間に転校生へのクラスの皆からの質問攻めが始まった。

しかし転校生は終始無言。そのことに気を使った担任の先生は「あまり無理やり根掘り葉掘り話を聞かなように!」

そう2-Aのクラスの皆に釘をさして新学期初登校のホームルームが終わった。

その後クラスの皆で講堂に移動して校長先生のありがたくない話を長々聞かされた…。

そして帰りのホームルーム前の時間。クラスメイトの主に男子が転校生に話しかけてて皆玉砕している様子。

私はというと高2でも一緒のクラスになれた親友の優希と話していた。

「まさか千早、新学期早々あんな目立って遅刻してくると思わなかったよ!流石に笑ったー。」と笑われる。

私はお兄ちゃんからもらった菓子パンを頬張りつつ話を続ける。

「校門のところまではギリギリ遅刻してなかったんだけど、駐輪場で転校生の紫崎さん見かけてみとれちゃって…あはは。」

「へーそういういきさつがあったのねー。紫崎さん綺麗な人だもん初めて見たらみとれちゃうのわかるわー。」

「目立つよね。誰もが振り返る美少女ってああいう人を言うんだなーと産まれて初めて感じたね。」

そこで私は菓子パンを食べ終えてミルクティーを飲んでハッとする。

「紫崎さんってスレンダーだからこういう甘いもの控えてそう…。」

「あんた別に気にするほど太ってないでしょー!あんな美人と自分を比べるのがそもそもの間違い!」

そんな和気あいあいとした話をしていた。

そして帰りのホームルームが始まる前に優希に

「私たちも話しかけてみない?一緒にお茶できないか聞いてみよ?」と提案された。

私も転校生の紫崎さんにちょっと興味があったので了承して2人であとで話しかけることにした。




帰りのホームルームが終わったあと転校生の紫崎さんは帰り支度をしていたので

私と優希は「紫崎さん!一緒にお茶しませんか?」と話しかけてみた。

そうしたら「却下ね。人と付き合うのは好きじゃないの。」とバッサリ返される。

しかし優希は負けずに「それじゃあ一緒に帰るだけでも!」と紫崎さん相手に粘る。


「私と一緒にいると不幸になる。やめておいたほうがいいわ。」


紫崎さんはそうはっきり私たちに言った。

そしてその後紫崎さんは椅子から立って教室を出て行ってしまった。


私と優希はその言葉に一瞬固まってしまっていた。

しかし先に石化が溶けた優希は

「千早!紫崎さん追ってみない?!あの言い方何かありそうだしこういうの燃える!」

と紫崎さんをターゲットにしたみたいだった。

優希はジャーナリスト志望だからこういうTHE・秘密というものを追ってしまう習性がある。


「本人がやめておいたほうがいいって言ってるってことは嫌なんだよ。やめておこうよ。」

私はそう反対したが優希は聞く耳持たず

「じゃあ一人で行く!私は止まらないわよ!」

と言って鞄を持って教室から出て行ってしまった。


これが優希との最後のやり取りになるとは私は考えてもいなかったのだ。

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