第8話
「ルーカス、渡したいもんがあるんだけど放課後空いてる?」
ループタイを作り終え、意気揚々と登校した
何時も魔術の練習がどうのと言って放課後の時間を貰っているが、あれはシトレイシアなりの牽制のようなものらしい。本人談。
「ああ、ルクソルか。別段用事はないが....また魔術の訓練か?ほどほどにしてくれ。お前の相手は中々骨が折れるんだ」
普段の行いというべきか、やはり魔術の話と思われている。が、それでいい。
此方はサプライズでプレゼントを作ったのだ、目的を勘違いしてくれたほうがありがたい。
「僕の魔術でも君を疲れさせるのはかなり大変なんだけどね」
はは、と爽やかな笑顔を浮かべて俺は場所を離れた。
さて、今日の俺は眼鏡を掛けている。
眼鏡を掛けたことで魅力が上がった麗しのルクソル・オータム様である俺がやることがあると言えばただ一つ。
「どっかに女の子がいたら丁度いいんだけど、」
美人さん探しだ。
シトレイシア以上の美人なんていないと思っているが、ルクソルの設定上いい具合に新しい
というか俺的にはこの世界は美人が多いので歩いているだけでも目の保養になるので歩き回っている節もあるが、そこはまぁいい。
裏庭をゆったりと散歩しつつ、前よりも鮮明になった視界で昼休みを謳歌する。
豪奢な薔薇園も遠くに見える魔術塔も、今までより輝いて見えるのは俺の感性なのか、それともシトレイシアの感性なのかわからないが、どっちにしろ輝かしいことに変わりはない。
「いい景色だなぁ、シトレイシア」
気付けば声に出していた。
いけないいけない、平民設定のルクソルがシトレイシアのことを知っているわけがないのだから安易に貴族の名前など出しては怪しまれてしまう。
「....君、今シトレイシアって言った?」
ほらこんな風に。
「なぁ、聞こえてないのか?」
この声、聞き覚えがある。
妹がこいつの攻略だけは俺に全任せしていた攻略対象の声だ。
「....聞こえてますよ、フォスティ様。」
振り返りたくない気持ちを抑え込んで後ろを振り向けば、燃えるような赤い髪を持つ体格のいい青年がいた。
ライアン・フォスティア。
それが彼の名前だ。
ライアンは攻略対象の一人で、一言で言い表すなら"犬"だ。
わんこ属性というべきだろうか。
騎士の名門、フォスティア家の次男坊で騎士の矜持だとか秩序だとかを重んじている節があるが、ヒロインと会うとたちまちただのわんこと化す。
妹はライアンのわんこ属性を粘着質だと形容しており、隠しルートの為に攻略させられた俺もライアンは粘着質だと思う。
「君、ルクソル・オータムだろ?平民なのに何故シトレイシアの名前を知っているんだ」
ごもっともな質問だ。
「我が家は商家でして、お嬢様にはお世話になっておりますので」
にっこりと貼り付けたような笑顔を浮かべて返答する。
これで黙ってくれればいいのだが、そうはいかないのがわんこ君。
「商家の息子....?だとしても馴れ馴れしく下の名前を呼び捨てにするのは良くない。シトレイシアは殿下の婚約者だ」
「ああ、ルーカス公認ですのでお構い無く。」
「殿下が?でまかせを言っているんじゃないだろうな」
嘘です。
婚約者と平民が仲良くするのをOK出しちゃう奴はほぼほぼ居ないと思うが、殿下が寛大だということにしておこう。うん。
「ルーカスが広い心で許してくれたんです、それ以上もそれ以下もないので本人に直接聞いてみては?」
まぁ騎士の名門といってもまだ学生の身であるライアンが殿下に私用で声を掛けるなんて重荷が過ぎるだろう。
案の定黙りこんだライアンの元からさっさと離れようとしたその時、もう一度ライアンが口を開いた。
「シトレイシアは元気か教えてほしい」
「何故?僕伝いでなくともフォスティア殿なら聞きに行けると思うのですが」
悲しいことにシトレイシアとライアンは幼馴染みだが、人見知りの悪化で男性との会話が極端に苦手になってしまったシトレイシアはライアンと会うのを渋っており、作中のライアンルートではヒロインと一緒にシトレイシアを屋敷から引っ張り出すイベントがある。
シトレイシアからすればかなり迷惑なイベントだ。
言っておくがライアンルートのシトレイシアは悪役令嬢ではなくただの幼馴染みで、悪役令嬢の子は別にいるが"屋敷からあまり顔を出さなくなった幼馴染みがずっと気掛かりで~"というお悩みイベント系の扱いだ。
「それに、僕自身もカーテン越しにしか会話して頂けませんし、体調や顔色までは分からないので」
暗に自分で行けやおらと付け加える。
腐っても攻略対象なんだからあと一年辛抱してヒロインとイベントこなしに来い。
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