第7話


昨日作った魔力満タンの魔石を使って作りたいものがある。


俺じゃなくて、シトレイシアが。


殿下へのお礼の品的なあれだ。

俺は別にお礼のことなど頭になかったが、シトレイシアがお礼をしたいと言って聞かないので二人でうんうんと唸りながら考えた末に、自分で一から作ったアクセサリーを、ということになった。


てかさ、殿下って王族じゃん?着けてもらえんの...?


"その時はその時ですわ。それに、これほど純度の高い魔石で作った魔術具は王族と言えど易々とは揃えられませんもの、きっと上手く作れれば受け取ってもらえますわ"


ほう。


どうやら、シトレイシアが言うには魔術具という魔力の込められた魔石に魔術を書き込んだ道具があり、魔石の純度に応じてより難しい魔術を刻める。

純度の高い魔石自体あまり出回らないことと、魔術を書き込む作業が難しいことも相まって今回シトレイシアと俺で作ろうとしているレベルの魔術具は中々お目にかかれないそうだ。

成功すればの話ですけど、と少し楽しげなシトレイシアの声が頭に響く。


ぼんやりとした記憶だが、シトレイシアはかなり器用だ。

刺繍や裁縫などの細かい作業を得意とする彼女なら魔術を刻む作業もこなせるのではないかと半ば確信していた。


魔術を刻む際に必要なのは特殊なペンと魔力と魔術。

硝子ペンのような専用のペンに魔力を通し、魔方陣を書き込んでいく。

魔方陣は特に決まった形があるわけではなく、この世に既に存在する形であったり、書き手のイメージによるものだったりと様々だ。

シトレイシアの場合は後者で、何を刻むのか知らないが特殊な魔術を書き込みたいらしく、お手本になる魔方陣はあるにはあるがシトレイシアの望む魔方陣そのものはなかったとのこと。

なのでお手本を見つつオリジナルの魔方陣を生み出す必要があるらしい。


そんなこと急に出来るもんなん?


"人間、やれば出来ますわ"


本人はやる気に満ち溢れているしここはシトレイシアの意思を尊重しよう。

俺の意識が表面に出ていると邪魔をしそうなので意識をシトレイシアに明け渡したところで、俺の記憶は途切れた。


次の日。

シトレイシアが満足げに俺を起こしてきたので、ぼんやりと意識を浮上させる。

早く見てくださいと言わんばかりに促されて机の方へ寄ると、シトレイシアの作業机の上には寝る前とは随分形の変わった魔石が小さなクッションの上に置かれていた。

加工済みの魔石はループタイのような何かになっている。

俺がこれはなんぞやと眺めていると、シトレイシアが


"ハヤト様の考えた通りループタイですわ。これなら無理に着けずともポケットに忍ばせることも出来ますし、ループタイの紐の部分さえ工夫すればどうとでもなりますの"


と、教えてくれた。

シンプルではあるものの、魔石を嵌めてある台座やその他の材料を取り付けるだけでもかなり骨が折れそうな雰囲気を醸し出しているというのに、魔石の中をよくよく見てみると魔方陣もしっかりと刻まれているではないか。

シトレイシアは美人な上に器用で天才なのか?嫁にほしい。


因みに何の魔術を込めたんですかね?


"勿論氷魔術ですわ!防御の魔術は私ではまだ刻めませんでした....ですから、魔力を少し込めるだけで持ち主が氷柱をずどーんっと出せるような魔方陣を刻みましたの!"


ふんすふんすと興奮気味のシトレイシアが解説する。

とりあえず凄いらしい。

まだこの世界の魔術についての知識があまりついていない俺は「シトレイシアしゅごーい!!!」と小学生も吃驚の幼稚な感想しか浮かばないが、シトレイシアの自慢げな雰囲気につられて俺も嬉しくなってきた。

学園で隙間時間があればこれを殿下に渡すとしよう。

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