第6話
殿下から眼鏡を貰ってから絶好調な俺とシトレイシアは、鮮明に見える景色にはしゃぎながらも入学前からしていた魔術の練習に力を入れていた。
家の庭も広くて練習しやすいが、所々に庭師が丁寧に整えている花壇があるため、もし魔術が失敗して花壇を破壊なんてことになれば庭師に申し訳ないしシトレイシアも悲しんでしまう。
学園の校庭か鍛練場を使うのも普段なら問題なかったのだが、学園で公に使うのは気が引ける。
と、いうことで日中はあまり表面に出てこなくなったシトレイシアの代わりに俺が見つけたのが、ウィスダム家の裏にある森の奥の奥の開けた土地だ。
この森は別に誰が所有しているというわけでもなく、魔獣もあまり出てこない絶好の練習場で、近くに小さな湖もあるため休憩もとれるという中々にいい場所だと思う。
シトレイシア、というよりもウィスダム家は闇魔術と氷魔術を得意とする家系であり、シトレイシア自身も闇魔術と氷魔術に高い適性を持っている。
作中では闇魔術しか使っていなかったが、俺が勝手に調べたところ氷魔術の適性の方が高く、そっちを優先して練習した結果........
「シア?森を氷漬けにするのは止めなさいと言っただろう」
怒られてしまった。
繊細な作業が得意なシトレイシアが氷魔術を扱うのならまだしも、俺が表面に出ているときに氷魔術を使うと出力の調整が上手く出来ずに森の一角を氷漬けにしてしまうのだ。
悪気はない。
「で、ですが、お兄様。
まぁ、シトレイシアを棄てるような殿下は此方から御免だが。
「....シア、僕もお父様もお母様も、シアを心配しているんだよ。急に日中は書斎で過ごすのを止めたかと思えば魔術の練習に力を入れ始めたり、学園では男装してご令嬢を口説いたり...まるで人が変わったように行動するようになってしまった。疲れているのなら相談には乗るから、あまり無理はしないようにするんだよ」
俺が転生する前のシトレイシアは部屋か書斎にしかいなかったから心配する気持ちはよくわかる。
でも、魔術の練習は今後のためだし男装は........ご令嬢を口説くのは少しやり過ぎたかとは思うけど一応必要事項だ。シトレイシアにも確認はとっている。
....いつか家族揃って、曖昧な理由ではなくしっかりと俺とシトレイシアについて話す必要があるかもしれない。
「分かりましたわ、お兄様。心配してくださってありがとうございます」
穏やかに微笑んで俺は部屋を後にした。
さて、今日はまだ寝る前にやることがある。
魔力量の増加のために魔石に魔力を込める作業だ。
魔石は魔獣のコアのようなもので、魔獣を倒して解体すれば心臓辺りから出てくる。
より強い魔獣を倒せば、より上質で澄んだ魔石が手に入る。
そしてここにあるのは手のひらサイズの、透明度の高い青の魔石。
ちょっと森を氷漬けにした時に無意識に
スライムからここまで澄んだ魔石が出るのはかなり珍しいが、それは兎も角。
魔力量は、魔力を限界まで消費して睡眠かポーションで回復することを繰り返せばわりと簡単に上限が上がるので空っぽの魔石に魔力を込めることで魔石も使えるようになり、俺も魔力量が増やせて万々歳なこの作業、実は結構難しい。
魔石にも容量があり、今日の魔石は純度が高く大きいので結構な魔力を込めても大丈夫だが、小さく粗悪な魔石は魔力を少し込めただけで割れることがある。
魔力量が元々多いのにろくに魔術を扱ってこなかったシトレイシアの身体では調節が難しい代物で、森で氷漬けにした魔獣からとれた魔石で毎日魔力のコントロールと魔力量の増加を兼ねてやっているというわけだ。
「集中....集中.......」
集中力が切れないように口に出して言い聞かせながら魔石に魔力を込めていく。
上質な魔石は需要があり、俺のやりたいことにも必要だ。
何としてでもこの魔石は割りたくない。
コップに水を注ぐ感覚に似ているが、此方は限界が分かり辛いのが難点。
慎重に魔力を注ぎ、澄んだ魔石の色がより明るくなった瞬間、魔力を止める。
恐る恐る目を開けば、手のひらにはしっかり魔力の込められた魔石が一つ。
つまりは成功だ。
俺は思わずにやける口元を押さえつつ、明日に備えて執心の準備を始めた。
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