第5話
話が急に飛んでついていけないという人の為に俺から説明しよう。
"ハヤト様、此処には誰も居ませんが...?"
此方の話だよ
お兄さんに男装して入学したいと言ってからかれこれ三ヶ月。あれから両親に直談判しに行ったのだが、帰ってきた返事は
「確かに私達の可愛いシトレイシアの身に何かあったら大変だもの、それに自ら何かを言い出すのは初めてではなくて?」
「そうだな、お前が自分で何かを成そうとするのなら応援しよう....シトレイシア、やるからにはしっかりやるのだぞ」
と、快諾。
優しさというか、引っ込み思案だったシトレイシアが何かを自分からしたいと言い出すのがかなり珍しかったらしく、親心的には応援したかったそうな。そうと決まれば必要なものをと入学の準備を手伝ってくれた。
その次に殿下とやらに会いに行ったわけだが、これまたシトレイシアがそわそわして終始落ち着かなかったものの俺が必死に表情筋を固めていたため、普段の落ち着いた雰囲気のシトレイシアとして会話することに成功。
因みに、殿下も思いっきり攻略対象なのだがメインヒーローであるはずの殿下は女嫌いを拗らせているのでゲーム内での難易度は結構高い。
そしてシトレイシアと婚約した理由も他家からの縁談を手っ取り早く断るために名家の娘と婚約するのが一番だったからと言い切りやがりました許さん。
こんなに美人で可愛いお嬢様、俺だったら求婚した後墓場からその後まで愛せるけどなぁ!
まぁいい。シトレイシアがそれでもいいのと言うのなら俺が言うことは山ほどあっても無いに等しくなる。
それから話は飛んで学園に入学。
それまで特にこれといって話題はなかったので全略。
入学してからはシトレイシアが表面上に出てくることはなく、俺が全面的に行動していくこととなった。
学園内での目標は、シトレイシアとしてバレることなく三年間過ごし、尚且つ婚約を破棄されないようにすることだ。正直俺はあの王子様の何処が良いのかわからないが、この身体はシトレイシアのものだ。
彼女の意思を尊重しないでどうするんだってな。
更に入学から一ヶ月が過ぎたのが今現在。
シトレイシア・ウィスダムはルクソル・オータムという偽名を使って平民として生活している。
ルクソルとしての振舞い方は簡単。
女の子に優しくしつつ程よく距離を取り、男子にも同じように接する。
幸いにもシトレイシアは背が高い方で、160後半ぐらいなので少女漫画での男装女子にありがちな"うわ、こいつ男のくせしてちっこいし華奢だな...."にはならない。というかさせない。触らせない。
豊満な胸はサラシで潰し、最近はシトレイシアの許可を得て筋トレもしているので、パッと見では少し細身の青年にしか見えなくなった。完璧。
前髪は少しだけ切ったが長い髪は切らずに後ろで纏めることで、正面から見れば短く見えるように工夫することで落ち着いたし、顔は文句なしの中性的な美青年。口元の黒子がセクシーなイケメンって感じだ。
ただ、問題があるとすればシトレイシアは少し視力が悪い。
長かった前髪のせいか、それとも彼女の趣味の読書のし過ぎなのか遠くがあまり見えずに授業で困ったことがある。
それを婚約者様に相談した。
「殿下。前髪を切って気付いたのですが、どうも私は目が悪いようなのです。この国で眼鏡を作らせるのなら何処がよいでしょうか」
「眼鏡か、あんなもの若者が着けているところを見たことないが....そうだな、一週間待て」
「一週間...?一週間もあれば私が自主的に探し回れますわ」
「俺が待てと言っているんだ。大人しく待っていろ」
妙に威圧的に待てと念押しされて一週間たった結果....
手のひらサイズの横に長い箱を渡された。
「開けてみろ」
箱を開けば眼鏡が一つ。
シトレイシアの髪色を彷彿とさせる濃紺のフレームに、耳に掛ける辺りはグラデーションで殿下の髪色と同じ金色へと変化しており、細かなところをよく見れば魔術が込めてあった。
聞けば護身用の魔術が一回分込められているらしい。
魔術国家として栄えていたサヴィルタでも、物に魔術を込めるのは中々難しい。出来て魔術を補助するための簡単なものだが、身を守るものと言えば難しいわ金がかかるわで貴族でも着けている奴を見たことはない。
これにはシトレイシアも大はしゃぎ。
流石の俺でも少し嬉しく感じるくらいにシトレイシアは喜び、気付けば自然と表情を綻ばせてお礼を言っていた。
いやー、眼鏡を掛けたお嬢、物凄く可愛い。
元々可愛かったのに更に可愛さが増してしまった。これは尚更男装に力を入れて女とバレないようにしないとな。
「....あっ、あの、でもなんでわざわざ殿下が私に?」
ふと気付いた疑問に顔を上げ、小首を傾げる。
殿下に眼鏡を買いに行かせたから不敬罪とかないよね?
「婚約者に贈り物をして何が悪い。お前は素直に喜んでろ」
ヤバい。
女嫌いの癖に、利点だけでシトレイシアを選んだってのに、不意打ちでプレゼントかよ。
心臓の鼓動がよりいっそうばくばくして、シトレイシアが喜んでいるのがよく分かる。
一方の殿下も俺の方を見てはいないが馴れないことをしたせいか少し照れているようにも見える。
お嬢、君らお似合いの婚約者だよ。
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