第4話


アリノアルタ王国。

遥か昔から魔術で栄えてきた魔術国家。

近年では魔術だけでなく剣術にも力を入れ、近隣の国よりも頭一つ上の軍事力を有している。

アリノアルタ王国では未来の魔術師、並びに騎士や軍人を育てるために設立されたサヴィルタ学園という国立の学園があった。

( 旧正式名称は" 魔術師養成施設 サヴィルタ "というものだったが騎士や軍人を目指す人材のための学科が増えた為に改名された。)


現在サヴィルタ学園には容姿、座学、実技等の様々項目で秀でている者には生徒間で呼称または渾名のようなものが付けられ、呼ばれる側は名誉を、呼ぶ側は自分もそうなるためにと向上心を与えている。


現在学園内には四名。


ルーカス・S・アリノアルタ。

アリノアルタ王国第一王子。

第一学年に所属し、優秀な成績を修めているものの、女性に対する態度が極端に辛辣であるため性格に難ありとされている。

通称 金獅子きんじし


アストレン・ウィスダム

魔術師の名門、ウィスダム家の長男。

第二学年の座学と魔術実技の主席で、頭脳明晰かつ魔術の扱いにも長けており、性格も穏和であるため男女共に人気がある。

通称 蒼月そうげつ


アルフレド・ナイザール

優秀な軍人を数多く輩出してきたナイザール家の長男。

かなり真面目な性格をしており、表情が固く、あまり人と関わらない。

主席は取っていないものの、体術やその他実技試験にて優秀な成績を修めている。

通称 灰狼はいろう


そして、


「今日の実技試験でのオータム様、見ました?相変わらず呼吸をするかのように魔術を扱っておられましたわ!」


深海しんかい様ですもの、この学園の生徒なら入学当時から平民だというのに素晴らしい成績にあの整った容姿、視線が自然と彼に向いてしまいますわ。ルーカス殿下も彼と切磋琢磨して成績向上に励んでいるとか...」


「........僕の話かな?お嬢様方。貴族のお嬢様の話題に上れるなんて光栄だなぁ」


「きゃっ、オータム様!」


「ハンカチ落としてたから渡したかったんだけど、話の邪魔しちゃったかな、大丈夫?」


にっこりと貴族の令嬢二人に微笑む青年こそ、四人目。


ルクソル・オータム。

平民の出身でありながら、座学と魔術の主席を取るほど優秀な生徒とされ、他の教科では第一王子と主席争いをしているため周りからはライバルだと考えられている。


「ルクソル、また女を口説いているのか?....物好きめ、早く行くぞ。お前に魔術について聞きたいことがあると言っただろ」


女子生徒にハンカチを差し出し、お茶でもどうかと誘うルクソルの後ろから現れたのは件のライバルこと第一王子ルーカスだった。


「ルーカスじゃないか!そんな話....そういやしてたね。じゃあ、お嬢様方はまたの機会に!」


風のように現れた話題の青年は早々に連れ去られ、その場には女子生徒に笑顔でひらひらと手を振りながらルーカスに引きずられていくルクソルをぽかんと見つめる二人の令嬢が残った。




貴族の中でも上位の者にのみ与えられるサロン内で、ルクソルとルーカスが寛ぎながら話していた。

訂正、ルーカスは足を組んで背凭れに身体を預けて寛いでいるがルクソルは姿勢正しく座っている。


「ルクソル....いや、シトレイシア。お前よく飽きもせず同性を口説けるな。こうも毎日同じように現場を目撃しているともはや尊敬の念すら湧いてくる」


「ですから殿下、これはルクソルという名の鎧だと最初にお伝えしたでしょう。私は別に口説きたくて口説いているのではなく、必要だから口説いているのです。勿論、婚約者をお持ちのご令嬢は除いていますわ」


「第一、何故わざわざ男の格好なんだ。聡明なお前になら他にいくらでもやりようがあっただろう?」


「それは秘密です」


すっぱりと言い切られ、言いよどむルーカス。


「自身の婚約者がこのような格好で自由に振る舞っているというのが王族として許せないというのなら話は別ですが、殿下はそこを気にしてはいないのでしょう?なら良いではないですか、私に自由をくださいな」


友人ルクソルとしてのお前と婚約者シトレイシアとしてのお前の温度差で対応に困っているだけだ。俺が急に女の服装でそれこそ上品な令嬢を装って学園に通いだしたらどうするんだ、考えてみろ」


「殿下は容姿端麗ですので似合うかと」


にっこりと微笑むルクソルに、ルーカスは目眩を覚えた。

"俺の知ってる婚約者は物静かで淑やかな令嬢だったはずだ。こんな肝の座った男ではなかった。何がシトレイシアを変えたんだ"と静かに頭を抱え、目の前の美青年ルクソルに目を向けた。

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