第3話
シトレイシアはルーカス王子のことがかなり好きらしい。
婚約の話を聞いてからというもの、表面上は俺がこの身体を動かしているはずなのに、そわそわして落ち着かない気持ちが続いている。
話を聞くに、幼い頃王宮で助けられてからの初恋なんだそうな。
そんなに格好いいのか。
"ええ、勿論ですわ!"
頭に響く心地いい声が、まるで夢見心地だとでもいう風に舞い上がった口調になっている。
ま、分からんこともない。
俺も俺でシトレイシアに転生してからというものテンションが右肩上がりで止まらんし。
........あれ、シトレイシアが喜ぶのはわかるが死んだ瞬間転生した現実をぱっと受け入れた挙げ句テンション爆上がりしてる俺って中々変人なのでは?
まぁいい。それよりも勝手に決めた今後の方針をもう少し整理しよう。
シトレイシアが言うにはつい先月15歳の誕生日を迎え、あと二ヶ月ほどで国立学園の高等部に入学するとのこと。
高等部から入学するものも少なくないので男装して新入生として生きても違和感はあまりないだろう。
なにより、ゲームは第二学年に上がった頃から始まるので一年で準備を整えなければいけない。
問題はこの整った容姿をどうごまかすかだ。
作中のシトレイシアの立ち絵は前髪が長く、着ている服も暗い色ばかりでなんとなく陰気な感じがしていたのだが実際前髪をあげれば超絶美人。髪を切るには勿体無いしなぁ。
女の子は髪が命なの!と妹が言っていた記憶も残っているため、無闇やたらに髪を切ったり弄ったりしてシトレイシアに嫌われたくない。
なぁなぁお嬢、ゲーム....って言ってもわからんか。俺の知ってるシトレイシアって前髪で目元隠れるくらいなんやけど、今のお嬢も結構前髪長いやろ?何で伸ばしてるか聞いてもいい?
"........"
無言。
シトレイシアの気分が少しだけ下がった感覚がする。
"....人の目を見て話すのが苦手なんです"
人見知りか。かわい....じゃなくて、苦手ならしょうがないか。
いっそ前髪を切って心機一転するのも手だがそこはシトレイシアの意思に任せよう。
"お兄様にウィッグを頼めないでしょうか、お兄様は商家のご子息とも仲がよろしかったのでそのくらいなら手に入ると思うのですが...."
ウィッグは俺も考えたのだが、如何せんシトレイシアは髪が長い。ウィッグの中に収まるレベルには見えないのだ。
でもお兄さんに相談ってのはいいかもしれない。
いいね、早速聞きに行ってみよう。
「お兄様、お時間よろしいでしょうか」
「その声はシアか、いいよ、入っておいで」
恐る恐る扉をあければ、高そうな椅子に腰を掛け、穏和に微笑んで此方を向くお兄さんの姿。
藍色の髪と....シトレイシアとは違って黄色の瞳のクールな印象を受けるイケメン。確か彼も攻略対象だった気がする。
「来年度の学園入学にあたって、その....相談がありますの」
しおらしい雰囲気のシトレイシアに百億点あげよう。かわいい。
「シアが相談なんて珍しいね、何か不安なのかい?」
「....
にこにこと笑顔を浮かべていたお兄さんの表情が凍りついた。
「り、理由を聞いてもいいかな」
「私自身、他家の殿方と会話をすることが苦手ですし、女性同士の会話というのもあまりしてこなかったので苦手で....ウィスダム家に生まれた以上、色々な方と縁を持つべきなのは分かっていますわ。でも女性として殿方に話し掛けたりすることがどうにも怖くて仕方ないのです」
ドレスの生地をくしゃりと握りしめ、俯くシトレイシア。
因みにこれは俺が喋っているのではなく、シトレイシア本人の本心のようだ。
元々人見知りのシトレイシアは名家に生まれたが名家に必要なコミュニケーション能力が足りていなかった。
それは立場的な意識と異性に対する忌避感から来るものであり、克服のために男装するのだと語るシトレイシア。
そしてなんとも言えない表情のお兄さん。
「シアの意思は尊重したいけど....これはお父様とお母様に話すべきだね、うん。僕一人の一存じゃどうにもならないから、一度家族で話し合おう」
小さく唸った後、しょうがないなぁという風にお兄さんは
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