第19話 弟

「ヴェルデ様!!!」


雷のような声と今にもドスドスと聞こえてきそうな歩き方


「メアリー……」


描いていた絵を踏みつけ

ヴェルデの髪を掴む


「い、いたいっ」


「どこに行っていたかと思ったらこんなところで……あーー!泥まみれ…誰が洗うと思ってるんだこのっ!!」


手を振り上げる

叩かれる…そう思い目を瞑る


だけどいつまでたっても頬は痛くならない


「やめないか、相手は子どもだぞ……というか大人にもやってはいけないことではないのかな」


目を開けるとクロエがメアリーの腕を掴んでいる


「な、何よ!!これは教育です!」


「……教育…?ワシにはヴェルデに恐怖を植え付ける暴力にしかみえないんじゃが?」


雰囲気と話し方が変わった…


「生意気なっっ!」


メアリーがクロエを突き飛ばす


「おっと…」


クロエはよろめき誰かにぶつかる


「む、……何をしているんだクロエ?」


「あ、父上」


……え、父上?ど、どう見ても


「魔王様……!!?」


すぐさま跪くメアリー


「ち、父上ってどういうこと…あ、クロエ…?…って……息子の名前……」


ブツブツと何か言っている


というか…クロエは魔王の息子だったのか…


「なぜ息子がそちらから飛んできたのか説明してくれるか…」


ダラダラと吹き出した汗が止まらない


「……父上実は……」「あーーー!!!実はですねェ!」


都合の悪い事を言われては困るメアリーは被せるように叫ぶ


「ヴェルデ様がクロエ様に失礼な物言いをしてその上突き飛ばしたのです……」


……な、全部僕のせいにする気か!?


「ち、違います!」


「違わないだろ!黙ってなさい!!失礼でしょ!!?」


うぐ…僕の言うことは…だれも信用なんて…


「失礼なやつだな……のう?ヴェルデ……」


クロエ……君も…なの?


チラリとクロエの視線がメアリーに向く


「父上、ヴェルデはこのメイドに日常的にぶたれています。そして、私を突き飛ばしたのも彼女です」


「……ほう?」


「なっ…魔王様!王子といえどまだ年端も行かない子どもの意見を聞き入れませんよね?!」


ギロッ


「黙れ……たしか貴様はヴェルデの世話をしていたメアリー…だったか」


名前を把握している……?


ギラりと輝く赤い瞳に睨まれ動けなくなる


「衛兵……!!」


魔王の呼び掛けに応えるように空からガーゴイルが舞い降りメアリーを捕まえる


「お、おやめ下さい!!これは何かの間違いです!」


「処分を楽しみにしていろ……息子2人にしでかしたこと…存分に悔いるがいい」


「っ……いやぁぁぁあ!!!」


ズルズルと引きずられていくメアリーを少しだけ哀れに思う…


「大丈夫かヴェルデ!」


すぐさま駆け寄ってくるクロエ……


魔王様の息子……


「あ!さ、先程まで…の、ひれい?をお許しください!クロエ様!」


優しかったとはいえ謝らねば!!


クロエ様の頬がぷくーっと膨れている


「ヴェルデ…君は私の弟じゃ…!」


「あ、はい!」


「では!お兄ちゃんと!りぴぃとあふたぁみぃ!」


「は!!?」


迷惑ではないのか……??


「ヴェルデよ、クロエはお主が養子に、弟になると聞いて1番はしゃいでいたのだぞ」


……え、


「じゃあ……初めから知っていたんですか?僕のこと…」


「…まあ、見ればすぐに分かった……グリューン殿にそっくりだったから」


「父さんに……そっくり…?僕が?」


くくく、とクロス様が笑う


「謙虚な姿勢…それにその強さを秘めた瞳……よく今まで耐えてきたな…」


優しく頭を撫でられる


魔王様とはとても恐ろしい方だと思っていた

……恐ろしい所もあるけど…それ以上に優しい…


「魔王様……」


「父と呼んではくれないか?……嫌ならいいが…」


「嫌ではありません!父上!そして……」


わくわくした目をしているクロエ


「これから迷惑をかけます!兄者!」


「お兄ちゃんと呼んではくれないのかぁぁヴェルデ〜……」


「そ、それは……あの…いずれ…?」



そして新しい母となるエマ・アーテル・エーデルシュタイン……


「母と呼んでね…息子が2人になったわ…かわいぃ〜」


病で亡くなるまで僕たちの母としていてくれた優しい方……




______


「いやぁ、いい話ですねぇ昔のことを考えると泣けてきます」


バハムートは唖然としている


「先程聞いていただいた通り僕は義理の兄クロエ様に恩しかありません。何をお考えか知りませんが……僕が兄者を裏切るなんて…絶対に有り得ない」


お帰りください

と、帰り道を示す


「……はあ、だから言ったんだ……下調べをしろ…と」


ため息をつき手で顔を覆っている


「……?」


「……いえ、こちらの話です…信頼されてさぞクロエ殿は鼻が高いことでしょう」


ふわりと笑う顔に悪意は見られなかった


「だといいですねぇ」


「…ただ…もし、だれも引き抜けまいと…争いは避けられませんよ…」


その言葉を残しバハムートはぼやけるように消えていった

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