第18話 ヴェルデの過去

「……魔王になる?」


名を聞いて分かった……父上の元部下…


ワシをここで殺す気か?


少し身構える


「ふはは!貴様をここで殺すのは容易い……が、貴様を苦しめるには……仲間を…」


ぶわっ

毛が逆立つ感覚…鳥肌…いや、怒りか


「……殺すのか?」


自分には想像もつかない程低い


怒りの籠った声……


「殺しはしない…戦力は極わずかでも欲しいからな」


いちいち嫌な言い方をするな…


「……オンブルが未だに帰ってこないのと誰もここに来ないのは……」


「お前への信頼はそんなものと言うことだ」


……ふむ


「……まあ、皆無事なら大丈夫だろう。」



……なぜだ?なぜこいつはこんなにも余裕なんだ

……気に食わん


だがいい、部下と言えど付いてくる理由は魔王と言う立ち位置あってこそ


それさえ無くせばすぐに…


「…そうだ…シャルムとヴェルデのことは調べたのかの?」


「は?」


急になんだ…?


「調べなくとも下級魔族と貴様の弟だろう?」


あー……


「じゃあダメだ…」


まあ、調べてもなにも出ない……と思うが

考えが甘すぎではないかのぉ


______


「……なんですか貴方は…」


ヴェルデの前に現れたのは

長い黒髪を緩く結んだカッチリとした服を着た男性


「ワタシはバハムート…哀れなあなたを引き抜きに来ました」


「バハムート……」


フェンリルと同じ上級の特殊枠…


種族の名を持つもの


______


大きい蜘蛛のような椅子に座り移動する髪をお団子にした着物を着た女性……


「……ぬしさんを引き抜きに来たでありんす」


「……アラクネ族……ですか」


はあ、とため息を着くシャルム


「面倒臭い…」

______


「……で、引き抜く……とは?」


「……。」


さすが魔王の弟……落ち着いていますね


「あなたは優れた兄に嫉妬していませんか?」


バハムートは胸に手を当て問う

絶対にしているはずだ、と確信を持って


よいのです…魔族なのですから憎くなろうと


優れたものに嫉妬する……それは正しいのです


「え?してませんが??」


「はぇ?」


想像と違う答えに腑抜けた声が出てしまう


ウソでしょう??そんな真っ直ぐな目で見ないでください!


「つ、強がらないでください!嫌なところとか……」


「はあ…ですからありませんって。もしかしてシャルム達にもやってます?無駄ですよ」


強い意志を持つ目だ…


「僕達は絶対に裏切らない」


……な、


「なぜ……?」




ヴェルデは少し考え口を開く


「……皆にとってはそれだけどうでもいい事だったんですね」


僕はね…


「兄者の本当の弟では無いんです」


「な……」




10年位前ですかね


僕はクロス様の右腕であり戦友のグリューンの息子です


『グリューン……あの下級から上級に上り詰めた……?』


『ええ、まあ』


ですが父は戦死しました


母も亡くなっており行き場のない戦友の忘れ形見の僕をクロス様は養子として引き入れてくださることになりました



……


「……養子かぁ…嫌だなぁ」


ガリガリと地面に父と母の絵を描く


「あのメイドもいるのかな…」


僕のことを出世するための道具だと思ってる

メイド…メアリー


「叩くし嫌いなんだよなぁ」


メアリーからの暴力が絶えないが…誰も信用しないだろうし


僕が魔王の養子になると聞いてメアリーは『絶対気に入られる』と息巻いていた…


「はあ…嫌だなぁ」


「おお!上手な絵だなぁ」


頭上から明るい声が聞こえる


「……え?」


見上げると…魔族のはずなのに後光が見える……そんな黒髪の少年が立っていた


「だ、だれ?」


「わし……いや、私はクロエ!散歩していたらうずくまっている君が見えたもので……」


彼は僕を心配して来てくれたと言う


「とても優しい顔の人の絵だね…両親かな?」


やけに大人びた話し方…


「そう、死んじゃったけど」


「そうか…それは寂しいなぁ…」


そう言って彼は綺麗な服を気にせず地面に座る


「ど、泥がついてしまうよ!?」


「子どもとは泥塗れになるのが仕事さ!遊んだと言えばまあ、少し注意はされるが怒られはしないよ」


……不思議な、魔族……だ


「私も絵を描こう!そうだ、まだ名前を聞いていなかった…君の名前は?」


ドクン、と心臓がなる


父の…話になるだろうか…


「僕は…ヴェルデ」


おどおどしながら答える


「よろしくヴェルデ!お互い歳も近そうだし呼び捨てでよいよね?」


正直驚いた…グリューンのことは全魔族や1部の人間も知っているはずなのに…


彼は…クロエは、父の影ではなく…僕を見ている……


「私も父上と母上を描こう……ってどうした?!」


涙が零れる

父は偉大だ……だけど、その偉大さ故に僕は掠れていた…なのに


「初めて……グリューンの弱い息子…と言われなかったから……」


涙が止まらない

ただの偶然だったのかもしれない…でもいつも比べられていた

強く気高い父と気の弱くて何も出来ない僕


「君には君の個性があるのにそこを伸ばさず他人が比較するとは…無意味なことを……」


少し怒っている?


「君は君が思っている以上に強くなれると思うがなぁ」


「な、なんでそんなことが言えるの?!」


「グリューン殿譲りの綺麗な緑の髪と金眼…それに伸び代を感じる」


父譲り……


「他にも父さんから受け継いだものがあるのかな…」


「たしかグリューン殿も絵が上手かったと聞いたことがある」


「そ、そうなの?初めて聞いた……」


考えもしなかった……優秀な父から受け継ぐものがあるという事を


「でもまだ僕は下手っぴだ」


「最初は皆何も出来ない、君も僕も今は子どもだ。これから色んなことを経験すれば身につくものがあるさ」


絵は充分上手いと思うけどね


「ほんとにクロエは不思議だなぁ」


なんて感心していると遠くから悪魔の声がする


「ヴェルデ様!!!」

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