第5話 譲り葉

背丈が凄く小さかった。第一印象は、それだ。

ミディアムとボブの間くらいの髪を首筋にくっつけ、大きな猫目をこちらに向けている。セーラー服がよく似合っていた。顔は大人びているが、きっと中高生だ。

中学生でもおかしくない、そんなタッパ。

まるで、何かのアニメか漫画かに出てきそうな女の子だった。


「えぇっと…こんにちは?」

高麗川が笑顔を作って声をかける。先程の大柄な男はまだ中にいるのだろうか。

話し声はもう聞こえない。俺も続くように問うた。

「さっき、店に入った男性はどこにいるのかな?」

電話をかけているみたいだったけど。

すると女子は髪を耳にかけ流しながらよく通る声で言った。


「あんたたち、何ていう名前なの?」

そう言って目を細める。動作一つ一つが流れるように軽やかだ。


俺と高麗川はもう一度自己紹介をする。

「私は高麗川蓮って言います」「僕は初川琳。君は?」


「…あぁ私?私はゆせ、ゆずりは。

遊ぶ、川瀬の”せ”に木へん、草のない葉で遊瀬楪って言うんだ、よろしくね」


草のない葉?と首を傾げる。

高麗川が横でくすっと笑った。

「馬鹿ねぇ、遊瀬さんが言ってるのは漢字の話。はっぱの漢字は”葉”でしょう、そこから草冠を引くの。そこに木へんを付けて、”楪”になるってこと。」

「高麗川さん、頭良いね。物分りが早い人、私、好きだよ」

なるほど。

俺が礼を言う前に遊瀬楪が目を輝かせる。


…アニメみたいな名前だ。


「んで、あんた達は店に何しに来たの?痴話喧嘩?」

痴話喧嘩て…と呆れる俺を尻目に、高麗川は店の奥を指差す。

「さっき、男の人に声をかけられたの。イイ話とかで、待っててって言われたんだけど、まだかしら」


「…え、声かけられたの?」

途端。

遊瀬の表情が固まる。

徐々に目の色が消えていくのがわかった。

え、俺たち、地雷踏んじゃった感じ?


「へぇ、そうなんだ、あの人が。

一つ聞くけど、高麗川さんに声をかけたの?それとも初川の方?」

おい、高麗川は高麗川さんなのに、俺は初川、かよ。年上なめてるだろ。

不貞腐れながらも焦って口を開く。

「違う違う、俺たちがうろついてたらあの男性が声をかけてきたんだ。」

「ふーん、じゃ、今呼んでくるから待ってな。あと、高麗川さんに一つ。」

そう言った後、高麗川に顔をぐいっと近づける。

「さっきの人、確かにいい男なのは分かるけど、絶対に好きにならないでね?」

「え…?」

「それだけ。じゃあ呼んできまっす」

軽やかにステップを踏みながら暗闇に消えていく。

セーラー服と居酒屋がちぐはぐで、何か可笑しい。


「何なのよ…」

見ると、高麗川がムッとした顔で暗闇を睨めつけていた。

「高麗川?」

「遊瀬?さんだっけ?何なの?

絶対に好きにならないでねって、誰が好きになるかっつーの」

「おい、どした?」

「女同士の話」

ビッと目線がこっちに飛んでくる。

「あの子だって、あんな性格悪い男が好きなの?初対面でこいつとか言ってくる人が?信じられない、趣味変わってるなぁ」

おいおいおいおい、落ち着けって。


「高麗川さーん、初川、さっきぶりだね、お久」

軽く会釈を返す。大柄な男が何やら紙を持って出てきた。


「お前らによ、イイ話持ってきてやったんだ。感謝は後払いで良いからな」

誰が払うか、というような顔をした高麗川が「それで?」と眉を顰める。

「お前らに仕事を与えよう。どうだ?聞くだけでいい話だろう?」

は?

急な展開に呆然とする。

待て、会社?俺たちが失業したと言って道を作ってくれたのか?こいつが?


「ちょっと待ってよ貴方、詳しく話して。」

そうだ。高麗川に続いて頷く。

何の会社かもわからず、目の前のやつもほぼ初対面に等しい。おまけにこんなにいかついんだ、信じれるはずがない。俺の主観だが。

「ちょっとちょっと、疑ってんの?まあ分かんなくもないけど、キョウちゃん、見かけによらず優しいから落ち着いて。」

「遊瀬」

キョウちゃんと呼ばれた男は低い声で遊瀬を牽制した。

「もう、怒んないでよ。じゃあ私から説明しちゃうね、まず…

あ、暑い?中入る?クーラー効いてるよ」


…お願いします。

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