初めての瞑想でトリップ
瞑想に決まったやり方はありません。背筋を伸ばして座禅を組み、目を閉じましょう(少し開いていても大丈夫です)。
呼吸に意識して下さい。お腹が膨らんで、しぼんでいくのを感じましょう。ゆっくり吸って、ゆっくり吐いて。
頭の中に様々な考えや空想が浮かんだら、ただただそれらを観察しましょう。決して何も考えないようにはしないで、溢れてくる頭の中のイメージを受け入れて、ただただ観察するだけを意識してください。
……百々子は本に書いてある通り、素直に瞑想を実践した。目を閉じて呼吸をしていると、今日学校で先生に怒られたことを思い出した。授業中に寝ていると、机をバンっと叩かれ、「寝るな!」と怒鳴られたのだった。いつも寝ているのに、なんで今日に限ってあんな怒り方をしたのだろう。百々子は瞑想に集中できず、目を開けた。頭を振り、もう一度目を閉じる。呼吸に意識を向ける。お腹が膨らんで、しぼむ。膨らんで、しぼむ。何度も何度も繰り返される。
「……ろせ……」
頭の奥の方で何か聞こえた気がした。
「……しとめろ……おお!」
目が開かない。百々子は呼吸に集中している。
「殺せ!」
ドタドタと無数の足音が行き交い、土煙が舞っている。そして火薬のような匂いを百々子は確かに感じていた。体が熱い。頭上に日照りのような暑さを感じる。
肩に何かがぶつかって、百々子は仰向けに倒れた。おそらく誰かの足が当たったものと思われた。目を開けると、雲一つない青空が視界に飛び込んでくる。
ひゅん、という空気を切り裂く音が聞こえた。何か物凄く小さくて速いモノが百々子の頭のすぐ上を飛んでいく。四方八方から、ひゅんひゅんと飛び交っている。
「民間人がいるぞ! 守れ!」
野太い大きな声が聞こえた。すると百々子の周りをシャボン玉のような透明な膜が覆った。周りの音が聞こえにくくなった。
百々子は立ち上がった。シャボン玉は百々子の動きに合わせて形を変え、細長くなって身体中を包み込んでくれている。
さっきからひゅんひゅんと飛び交っているのはライフルかマシンガンの弾だということが分かった。周りで、武装した軍人達が銃撃戦を繰り広げていた。
「は?」
百々子はそこでやっと我に返った。ここは何処だ? 瞑想してたら頭がイカれてしまったのだろうか。一つ気が付いたことは、このシャボン玉はマシンガンの弾から百々子を守っているということだった。弾がシャボン玉に当たると、勢いがそこで吸収されて地面に落ちていく。百々子の足元には何百個あるのか分からないほど大量の弾が転がっていた。
「民間人を救出せよ!」
またさっきの男の声がした。声のした方を振り返ると、そこには2mはありそうな大男が、その金髪のロングヘアを風になびかせながら、こちらに向かって走ってきている。
「誰!」
百々子は叫んだ。一瞬、金髪の大男はたじろいだが、百々子の元に駆け寄ると、ひょいと抱き抱え、口笛を吹いた。
ピイィーー! と耳が痛くなるほどの高音が辺りに響くと、ヘリコプターみたいなものが真上から急降下してくる。
「なになに? 一体何が起こってるの!」
百々子はパニックだった。近付いて分かったのだが、上から飛んで来たのはヘリコプターではなく鳥だった。ヘリコプター程の大きさのバカデカい鳥だった。
大男に担がれてデカい鳥の背中に乗った。あっという間に辺り一面が見渡せるくらいの高さまで飛び上がる。目の前に海が広がっていて、沖の方に大きな城が見えた。
「君、この国の者ではないね?」
大男は優しい笑みを浮かべながら問いかける。
「多分そうだと思います」
大男は突然、何かに気が付いたようにハッとして百々子の手を握った。
「……もしかしたら君は予言の子かもしれない」
「は?」
「いや、間違いない! 君は予言の子だ! ずっと探してたんだ!」
「違います違います! 私、明日も学校あるんで早く帰らないといけないんですけど!」
「帰るってどこに?」
「元の世界に」
「元の世界?」
「は?」
「ん?」
これは話が噛み合わない。百々子はうなだれた。そして、元の世界に帰る方法が無さそうなことを悟った。百々子はただただ泣くことしかできなかった。
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