第2話 陽向に身をさらす。


それから4カ月が経ちついにオーディションの日がやってきた。

無事、一次審査は通過し今日から本格的なオーディションが始まる。


二次審査:歌唱。課題曲はRisEグループ楽曲。

三次審査:ダンス。創作またはRisEグループ楽曲のどれか。

四次審査:自己アピール

そして、五次審査だが一対一の面談とある。

詳しいことはこれぐらいであとはこの延べ前後半合わせ一週間の極めて短期間で行われる、本オーディションの後、合格者発表があることしかわからない。



「今更、くよくよしてなんかしていられない」


やれることはこの約4年間でやってきた自負はある。

唯一、不安があるとすれば・・・。


オーディション一日目、会場は見渡す限りライバルで埋め尽くされていた。

小さな声で何かつぶやいている人、体を小刻みに揺らしダンスの確認をする人、緊張で今にも吐いてしまいそうな人、各々がオーディションに向け最終確認をしている

ごく一部例外もいたりはしたが。


私もその雰囲気に同化し、出番を待つ。


一組、また一組と呼ばれついに自分たちの番がくる。


一組、10人。目の前の審査委員に向け課題曲の一番だけを歌う。

私の前の人が緊張で歌詞が飛び、泣きじゃくって、かわいそうとは思いつつも

練習通りに歌うことが出来た。


三次審査、私たちの組は他の組より少ないまま受けることになった。


それから3日後。オーディション後半戦。大分、人が絞られてきた。


四次審査を無事終え、


そして最終日。


五次審査は一人一人ということでかなり時間がかかると思われたが一人が個室に入って出てくる時間が早すぎた。まるで一回の質問で終えているかのように。


部屋から出てくる人の顔を伺ってみると皆、思いつめた表情を浮かべている。


他の人たちも徐々に異変に感づきざわざわし始めた。


だが、それだけでは判断材料が少なすぎてこれといった対策を考えることが出来ずにそれから、数十分後には自分の番号が呼ばれてしまった。


覚悟を決め、立ち上がる。



コンコンッ

「失礼します」


部屋には「Earth」総合プロデューサー日笠 淳の姿があった。


少し、驚いたが気を取り直し自己紹介する。


「エントリー番号404番 高校2年生 17歳 志賀 景しがけいです。

よ、よろしくお願いします。」

少しかんでしまったが予定よりスムーズに言えただろう。


「はい、よろしくお願いします。

どうぞ、座ってください。「Earth」総合プロデューサー日笠 淳です。

それでは、早速面談を始めていきたいと思います。」


私は少し身構え、日笠さんの言葉を待つ。


「あなたはアイドルになって成し遂げたいものはなんですか?

意気込みを教えてください。」




「私にとってアイドルとは生きる目的であり、私の世界の太陽です。

私はそんな太陽が霞むほど輝きたいです。例え、この体をくべようとも。」


こんな答えでよかっただろうか。


「わかりました。ありがとうございました。

では、次の質問に参ります。」


次の質問?ということは私が目に留まったということだろうか。


それから、いくつかの質問にすべて答え、部屋を出た。




長い一週間が終わった。あとは結果を待つのみ。


なにもかも出し切った。


私は生まれて初めて満足感に満たされ眠ることが出来た。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


このオーディション。もとい「Earth」プロジェクトには私の全てを懸けている。

この最終審査は私の求める人材を見つけるため周りの反対を押し切り効率度外視で一対一の面談を設けた。


だが、どの子も同じようなことしか言わず、昨日なんて全員 

「はぁ、今日もダメだろうか」

明日以降の審査内容の変更を検討していると


コンコンッ

「失礼します」


次の人が来てしまった。

姿勢を正し、受験者を迎える。



「エントリー番号404番 高校2年生 17歳 志賀 景です。

よ、よろしくお願いします。」


正直、第一印象は暗い子だと思った。

行動の至るところに自信のなさが見え、誰が見てもアイドルには向いていない。


だが、顔には出さずもう何度目になるかわからない形式的な挨拶を繰り返す。


「はい、よろしくお願いします。

どうぞ、座ってください。「Earth」総合プロデューサー日笠 淳です。

それでは、早速質問していきたいと思います。


あなたはアイドルになって成し遂げたいものはなんですか?

意気込みを教えてください。」




「私にとってアイドルとは生きる目的であり私の世界の太陽です。」


つまらないな。

この子もダメか。そう思った私は帰そうと言葉を発しようとしたとき


「私はそんな太陽が霞むほど輝きたいです。例え、この体をくべようとも」


私の背筋に電流が走った。この世に生まれ落ちて32年、田高先生の下にいたときよりもワクワクしてしまっている。


それと同時にこの子は危ういと感じた。


この子はこのアイドル飽和状態のこの業界を照らし輝く太陽になるか、

それともその身を焦がすほどの熱量で朽ちていくだけか。


私の額に冷や汗が流れた。


家に帰り、今日気になったあの志賀景という子の審査内容をビデオで確認するとすぐさま、担当の者に電話を掛けた。

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