第1話 陰、日に憧れる。
今から、17年前。地味で、内気だった中学1年生の私はいじめられていた。
理由は、返したあいさつの声が小さいからという些細なものだった。
それからは当時の派手なグループを中心に、無視から始まり、私物が次第に消え、最終的には鬱憤ばらしにトイレで水を掛けられるまでいじめはエスカレートしていった。
内気な私はさらに心を閉ざし、その頃はどうやって人の目に入らないようにするかしか考えられなかった。
家に帰っても、安らぎはなく両親は共働きでいつも家では一人。
父親の趣向で全て白と黒で統一された無機質な部屋の真ん中でテレビをボーっと眺めるのが小さいころからの日課だった。
そんなある日、深夜にやっている歌番組で一つのグループが気になった。
「RisE?」
名前は聞いたことがある。ここ数年で社会現象ともいえる人気を博している
初めはただ眺めているだけだった。気づくと60インチの画面との距離は1m。
かなり激しいダンスなのに笑顔を崩さずに歌い続ける一人一人がヒーローに目が離せない。
思えばこれがきっかけだった。
その輝きにどうしようもなくときめいた。
それからというもの、徐々にアイドルになりたいという気持ちが強くなっていく。
親に頼み込んで大型の鏡を買ってもらい、様々なアイドルの曲を片っ端から歌って踊って、いつかくるチャンスに向けて練習した。
学校でどんなに辛いことがあっても歌って、踊っている時は忘れることが出来た。
そして現実から目を背けるように練習量も増やしていった。
時には平日の朝早くに練習して、時計を見たら昼を過ぎていたなんてこともあった。
そんな生活を送っていると気づけば私は高校に進学していた。
だが、せっかく環境が一新したのにすっかり人との交流が怖くなってしまったようだ。
入学して早一年誰ともまともに話せていない。
一言目には「ごめんなさい」とみんなの気分を悪くしてしまう。
特別に何か言われた、という訳ではないが自然と周りとは距離を置いた。
今日も数えきれないほどため息を吐いていたなとぼんやりしていたところに
午後最後の授業の終わりを知らせるチャイムが聞こえてきた。
ホームルームを終え足早に帰宅した。
今日はRisEのプロデューサー田高先生から新プロジェクトの発表がある日だ。
時刻はちょうど18:00。そろそろ始まる。
「……。あっ、始まった」
「えー、皆様お集まり頂きありがとうございます。RisE総合プロデューサーの田高真文です。
皆様の応援でRisEグループの日頃の活動が支えられていることに改めてお礼申し上げます。
今回、新しいプロジェクトの発表ということですが、このプロジェクトの総合
プロデューサーは私ではありません。」
一気に、会場が騒めいた。
「続けます。今回の総合プロデューサーはRisEプロジェクト初期から長年に渡り私を支えてくれたエグゼグティブプロデューサー改め、新プロジェクト総合プロデューサー
先ほどよりも大きな騒めきが会場を包む。
「つきましては、これからの新プロジェクト説明は日笠に行ってもらいます。
では、日笠総合プロデューサーお願いします。」
「ご紹介あずかりました。新プロジェクト総合プロデューサー日笠 淳と申します。
今まで、このときのために田高先生の下で長らくプロデュース業について学んでまいりました。それらを本日発表いたします、プロジェクトで遺憾なく発揮したいと思っております。
では、前置きはこのぐらいに新プロジェクト名について発表したいと思います。」
会場が暗転され後方の巨大なモニターに視線が集まる。
なにやら、壮大なBGMが流れ出し観客の好奇心を煽る。
「では、発表いたします。
新プロジェクト名は・・・「
どっと会場が沸く。
「コンセプトは「変異」を掲げ、いままでのアイドルグループとは一線を画すアイドルグループを目指したいと思います。
それに伴い、「Earth」メンバーオーディションを開催します。
本日の会見と同時刻に公開された「Earth」プロジェクトホームページに詳細は記載いたしますが応募期間は8月8日から一週間8月15日までとし、一次審査の書類審査合格者だけでそれから4日後に行われる二次以降の審査を行います。
応募方法についてはここでは長くなりますのでホームページをご覧ください。
以上を持ちまして新プロジェクト発表説明会を終わります。
ここからは質疑応答に移りたいと思います。お時間があまりございませんので数名の挙手制で参ります。」
一斉に記者たちの手が挙がる。
「「変異」というコンセプトですが具体的にどういうことでしょうか?」
「「Earth」の名前の由来で、メンバー個人らの可能性がこのグループを混ざりか化学反応を起こし日々変わりゆく、メンバーが作り上げるもう一つの地球(ほし)を皆様に楽しんで頂けたらと思います。」
「オーディションの最終合格者は何枠ですか?」
「あまり詳しいことは申し上げられませんが本プロジェクトは個人を核としていくため
従来のオーディションより厳しい審査のため少数になると考えてもらって大丈夫です。
では、大変恐縮ですが次の方で最後の質問とさせていただきます。」
「「Earth」は最終的に目指すものはどこですか?」
「トップです。」
会場が二度目の大爆発をおこす。
「もう一度、詳しくお願いします。」
「全アイドルグループのトップです。」
この言葉に辺りは先ほどとはうってかわったように異様な静けさを見せる。
「それには「RisE」を含んでいると捉えてもよろしいでしょうか?」
「えぇ。かまいません。」
ここでカメラが満足そうにうなずき微笑む高田先生を抜く。
「では、これに質疑応答を終了いたします。皆様、本日は誠にありがとうございました。」
乱れる会場を背に関係者一同がステージ裏へと消えていく。
私はそこまで見るとテレビを消し、リモコンをそっと置くと
オーディションの詳細を震える手が何度もタイプミスしながら、ようやく目的の画面にたどり着いた。
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