純愛の本棚 〜京都花街の恋物語〜
第1章 京都の夢物語
>しかし、京都の魅力は悠久の歴史を持つ寺社仏閣だけではなく、
⇒本来は「神社仏閣」ですね。「寺社」だけで「お寺と神社」の意です。「仏閣」はお寺のことなので、正しくは「神社仏閣」です。
>けれど、ひとつだけ胸を張れるのは、研ぎ澄まされた感性の持ち主だと自負している。
⇒「胸を張れるのは、」と来ると応じるのは「〜だ。」の形です。今回は「自負していることだ。」とすれば呼応がうまく機能します。
情景を丹念に綴っていく、著者様の得意とするところですね。
とても文学的で、情景の完成度がひときわ高いと感じます。
これだけ文学的であれば「ライト文芸部門」に応募すれば、さらに人気が出そうです。
逆に言うと、前半は雪の舞う京都の情景を丹念に描写しているだけで、そこに主人公の心情を仮託できているかがちょっと怪しい。物語の舞台を丹念に描くこと自体は悪くないので、もう少し主人公の心情とのつながりを密にする一文を加えると、さらなる完成度に達せられますね。
主人公の一人称視点ですから、地の文で京都の雪模様を書くときに「主人公・悠斗」の心模様を前半の情景描写で表しているのか。単に「美しい」情景というだけでなく、なにかが物足りないと感じているような「寂寥感」を仮託したいところですね。
第2章 寂しい心模様
第1章とは異なり、こちらは情景描写を主人公に近づけてあり、「悠斗」の心情をうまく描写できています。
第1章で物足りなかった情景描写に主人公の心情を仮託することができていますが、ここは若干筆が振るったのか、程度が強く感じられます。
第1章と第2章を足して二で割るとちょうどいい塩梅になると思います。
第1章の京都の情景と「はるか」との関係性よりも、第2章の京都の情景と「ひたすら写真を撮ることで寂寥を醸し出している悠斗」との関係のほうがより素直に読めます。
おそらくですが、この第1章と第2章は書き連ねる順序にかなり迷ったのではないかなと。
第1章の京都の情景描写に第2章の「悠斗」の心情を組み合わせ、第2章の京都の情景描写に第1章の「はるか」との出来事を組み合わせても、よいかなと思います。
第1章が淡白な印象を受けるので、そこに人間味を加えるために、第2章の一、二文を第1章に回すのもありですね。
第3章 先斗町の黄昏
>〜(中略)〜、愛する男に涙を浮かべながら雪山へと消えていく姿が脳裏に焼きつき、視覚的にも美しい作品が目に焼きついてしまう。
⇒「焼きつく」が二回出てくるので、ちょっと単調ですね。ただ、この表現をほとんど変えずに成立させることもできます。
>〜(中略)〜、愛する男に涙を浮かべながら雪山へと消えていく姿が脳裏に焼きつき、視覚的に美しい作品が目にも焼きついてしまう。
⇒ということで助詞「に」と「にも」の位置を交換します。これなら「〜に焼きつき、〜にも焼きついてしまう。」と呼応する形にできます。
「主人公・悠斗」の心情が丁寧に描かれており、これからなにかが起こるのではないか、との雰囲気を醸し出していますね。
この「なにかが起こるのではないか」という雰囲気が第3章であることがちょっと割りを食うかもしれません。
読者選考のある「カクヨムコン10」ですから、「なにかが起こりそう」な雰囲気が第1章に置いてあると初動はもっとよくなると思います。
第1章と第2章の構成をいじっていたら、主人公の人となりは伝わっているはずですが、物語が動き出すまでに時間がかかると、1話切りに繋がりかねません。
であれば小説情報の「あらすじ」欄で「主人公・悠斗」とヒロインについてうまく煽っておかないと、この構成だと1話切りもありえます。
可能であれば第3話までを一挙に公開して、「これから物語が動き始めるぞ」というところまで読ませることも考えましょう。
第4話 舞妓との邂逅
ここまで「第◯章」だったのにここは「第◯話」になっています。
>「ただ、ほんの少しだけ、気まぐれな神さまが微笑んでくれなかっただけや……」と
⇒これだと「主人公・悠斗」が京都弁を喋っているような印象になりますね。それが狙いであればよいのですが、東京から来たという前提から考えると「微笑んでくれなかっただけだ……」と書けば標準語になりますね。ここは著者様の意向次第です。
>彼女は自分の名前を野々村あかねと教えてくれ、僕もすぐに神崎優斗と告げた。
⇒第1章では「神崎悠斗」となっていたので、表記ミスですね。
あかねさんとの出会いから、物語が前へ進みだす章ですね。
これまでが静のパートで、ここからが動のパートになるような印象を受けます。
ふたりの初々しさも丁寧な描写で表しているので、とても鮮やかな色彩を帯びてきたようです。
実際、これまでの静のパートは雪の白を際立たせ、ここから色味がついてきているので、そういう表現の配慮もしっかりしています。
第5話 紡がれる世界
ここも「第◯章」だったのが「第◯話」になっています。
>舞妓さんとしてではなく、ひとりの女性としてあかねを好きになったのだ。
⇒ここは「悠斗くんは惚れっぽい」ということでしょうか。一途というわけではなく、目移りするタイプなのか、神様を信じて運命を感じたタイプなのか。おそらく後者でしょうけど、多くの読み手は「チョロい」と思ってしまうかもしれません。
>「成人は18歳や。高校を卒業したらすぐにくるやろ。
⇒誕生日を迎えると、高1は16歳、高2は17歳、高3は18歳になります。つまり高校在学中に18歳になります。
あかねさんと急接近するところですね。彼女はなにかを「悠斗」に伝えようとしているのか。
そういう興味が湧く回ですね。
第1章が文学的だっただけに、ここは文芸に寄った書き方です。
やはり「ライト文芸部門」が正解かな。
第3章から物語が加速度をつけて進んでいくので、そこまで読ませたら、ひと区切りつくまでPVは安定すると思います。
総評
ここまでの総評ですが、著者様は文学を志すのが正解だと思います。
ただ、スロースターターなところがありますので、物語をまわし始めるポイントをもう少し手前にすると読み手をぐっと惹きつけられるはずです。
そこに注意すれば、ライトノベルが主力の『カクヨム』でもしっかりと評価されると思います。
理想は第1章で動かすべきです。
しかし、第1章の情景描写は実に見事なので、今の第1章をプロローグに据えれば物語が回り始めるのを早められますね。
今回の添削はここまでとなります。
構成が少し残念でしたが、全体の物語は興味深いものでした。
構成を改めて、今の第4話をどこまで前倒しできるか、が『カクヨム』で読まれるポイントになるでしょう。
お付き合いいただきましてありがとうございました。
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