十和里山伝説「紡ぎの時計」総評
十和里山伝説「紡ぎの時計」
作者:神崎 小太郎
※総評
「プロローグは読まれないもの」という話もありますが、それでもきちんと書いておくことで、物語を最後まで味わった人が再度プロローグへ戻ってくる可能性もあるので、きちんと書けていると思います。
第一幕は勇希と薫の紹介と関係性、第二幕から物語の舞台へと誘うフリーマーケットが始まります。速やかにフリーマーケットに移れたのは良い展開ですね。
フリーマーケットで古書を探し、キーアイテムである「しおり」が効いていますね。ここでさらにキーアイテムである「髪飾り」を買って、キーパーソンのひとりである根本さんと出会う。さらに明智光秀にガラシャの名まである。今振り返ると伏線がしっかりと張れていますね。
勇希くんの入院歴がのちの出来事でそばから離れないという決心にもつながっているようですね。
全体1/4の第十二幕段階で、東京の根本さんの家に行く。話が変わるきっかけとなる出来事が起こりますね。その橋渡しを務める根本さんの家へ行くことになります。
全体の半分にあたる第二十六幕前の第二十三幕までは根本さんの回想と優奈ちゃんの軌跡をたどりますね。物語の折返しは少し先ですが、第二部のひと山をしっかりと越えているのがわかります。ここから第三部へ向けて助走するのが第二十四幕からになります。次々とお膳立てが整えられていきます。
そして半分のターニング・ポイントを迎えた第二十七幕でいよいよ新しい舞台である新郷村へ向けて旅立つことになる。
ここで小百合さんと出会います。物語のキーパーソンのひとりです。
構成として一般的にターニング・ポイントを過ぎてからは、順調に話が進まなくなります。今までのトントン拍子が通じない流れになるのです。
本作でも薫さんの白血病が悪化することで、勇希くんは立ち行かなくなります。なんとか彼女を助けるために手立てを考えてみます。ここでもうひとりのキーパーソン野口さん登場。これ以上はキーパーソンを出さなかったのも良い判断ですね。
第三十五幕から第三部での落とし込みである根本さんと小百合さんの「命をつむぐ時計」を巡る物語へとつながっていきますね。第三部の最後には物語を大きく落とす必要があります。それが根本さんと小百合さんの出来事へとつながっていきます。
全体の3/4である第三十九幕までで惨事に見舞われます。そして第四十幕で根本さんと小百合さんの物語が終わります。
そしていよいよ第四部である薫の病気との向かい合い、最後の試練が始まります。
全体の90%の地点である第四十六幕から、試練を乗り切った状態になります。ここからすべての試練を乗り越えて新たな旅立ちを迎えるまでの最後の助走に入ります。
第四十八幕からは新たな旅立ちに臨む勇希くんと薫さんの背中を押す天寿院さんとの出会い。そしていよいよ余韻を残して、ラストへと向かう構成です。
そして最終第五十二幕で、物語は終幕を迎えます。
ここまでの構成は、ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則』を当てはめてもきちんと組み上がっていますね。物語の構成面では心配はありません。
あとはそこに載せた物語がどれだけ多くの人に響くのか、です。
難病ものは特定の読み手がいますので、可能であれば『カクヨム』での投稿ではタグに「難病」「白血病」を入れるとそういう話が読みたい人へピンポイントでアピールできます。
第一幕から薫の白血病に触れているので「タグでネタバレは」は心配しなくていいですよ。逆にしっかりと「難病」もの「白血病」ものと示したほうが読まれるくらいです。
総評としては、きちんとした構成と、その上に載っている難病ものとファンタジー要素との溶け込み方が絶妙だと思います。
これだけ長い分量は初めてとのことでしたが、じゅうぶん戦える物語に仕上がっていますよ。
これはどこかの公募に出したいところですね。
「カクヨムコン」のように読者選考があると不利なので、読者選考のない小説賞やコンテスト、公募に応募してみてください。
読者選考のない小説賞やコンテストに『カクヨム』から応募するのであれば、しっかりと「読む」活動もしていきましょう。
次作への刺激も受けますし、知り合った方々が本作を評価してくれるかもしれませんからね。
ソーシャル・ネットワークのような使い方にはなりますが、『カクヨム』で戦うには戦友を作るのが最も手っ取り早いです。
以上で総評を終わります。
出来上がった物語については自信を持っていいですよ。
著者様の執筆歴の筆頭にしてもよいくらいの出来です。
ところどころ表現が拙い部分もありましたが、全体の物語の瑕疵とはなりませんし、だいたいのものは指摘してありますのでほぼ問題ありません。
あとは応募する前に、もう一度推敲してからにするとよいでしょう。
構成をいじる必要はまったくないので、伏線の見直しと文章の練度を上げることに注力すればよいですね。
それでは今回の添削依頼はここで終えますね。
またの機会がございましたら、よろしくお願い致します。
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