十和里山伝説「紡ぎの時計」第十四幕 告白 ①
十和里山伝説「紡ぎの時計」
作者:神崎 小太郎
第十四幕 告白 ①
※誤字脱字・構文など
> 無意識にも外を眺めると、白い彼岸花が手を広げるように咲く景色に気づく。赤い花はよく見かけるが、初めて見る儚くも美しい景色に目を奪われていた。
⇒「無意識に外を眺めると、」かなと思います。助詞「にも」だと他になにかあるのかと思われすねません。
また「景色」の字が近くにあるのが気になります。ただ、書き手の意図としてあえて二文で「景色」を重ねたのであれば原文ママでかまいません。変えるなら「白い彼岸花が手を広げるように咲いていることに気づく。」とすればそれほど雰囲気は損なわないと思います。
>身支度もそこそこにして車に飛び乗ってゆく。
⇒「車に飛び乗ってゆく。」は、「車に飛び乗った。」でも問題なさそうですが、向かうことに力点を置くのであれば、汎用性の高い「行く」ではなく向かうことに特化した「車に飛び乗ってアクセルを吹かす。」や移動することに特化した「車に飛び乗って駆けつける。」あたりを用いると単調さが薄れます。
> 慌てて病院にたどり着くと、優奈は既に集中治療室へ運び込まれている。応急措置が終わり医師の出てくるのを部屋の外で待ち構えていた。
⇒ここで「たどり着く」わけなので、やはり前文は単に「てゆく」ではなく具体的な動作が欲しいところです。
また補助動詞の「〜ている。〜ていた。」は少し冗長です。私なら次のようにします。
> 慌てて病院にたどり着くと、優奈は既に集中治療室へ運び込まれていた。応急措置が終わり医師の出てくるのを部屋の外で待ち構える。
ここでは後ろの補助動詞を削除して、前文の「運び込まれている。」を「運び込まれていた。」と過去形にしています。「既に集中治療室へ運び込まれていた。」は結果としてそうなっていたことを表します。「既に集中治療室へ運び込まれている。」だと「運び込まれる」ことが継続中になります。どちらが適切かは著者様によります。私なら「運び込まれていた。」と結果を書いて、続く文に主眼を置きます。
「部屋の外で待ち構えていた。」は少し時間が経っていて、既に準備が整っているような印象を受けます。ここを「待ち構える。」としたのは、今「待ち構える」状態であるからです。準備万端よりも、今そうしているという状況を説明したいわけですね。
> 幸いにも、待っている間に、園長から直接に話を聞くことができた。
⇒助詞「に」が二回出てきます。「待っている間に」は時間を表す助詞「に」で、「直接に」は手段を表す助詞「に」なので機能は異なります。このままでも間違いではないのですが、ひとつ削るとすっきりします。
> 幸いにも、待っている間に、園長から直接話を聞くことができた。
>お昼の時間が終わっても、教室に優奈の姿が見えないので探しに行くと、ウサギ小屋の前で血を吐いたまま倒れていたという。
⇒行頭一字下げになっていないので、一字下げましょう。
※寸評
「────僕の名は根本康博だ。」
から始まるので、読み手は少なからず当惑します。
ここまで勇希が主人公で視点保有者として話が続いてきたことによる「慣れ」がそういう感情を生みます。
ですが、きちんと視点保有者を変えたとアピールしてはいるので、少し読んでいくと当惑は解消されます。読み進めていけば、視点保有者を変えたことの意味がわかるので、冒頭の当惑を薄くするのも一手だと思います。
もちろん原文ママでもかまいません。
冒頭を変えるとしたら、地の文で早めに名前がわかるように配慮するようにしてください。なるべく早く主人公が勇希から根本さんに切り替わったと使える工夫が必要です。
それを単に「〜僕の名は〜」で切り替えるのがやや安直に映ります。
根本さんの当時の感情まで読み手と共有することになりますので、単に話を聞きながらではなくなりますしね。
最善としては視点保有者は勇希に固定したまま、根本さんの話を聞き出していくような形ですが、文字数が膨れるので文字数に余裕がないと難しい。
それと「根本さんの感情」が書けなくなるので、今話からの回想に深みが出ないと思います。
また、ここで小説賞を逃すとも思えませんので、原文ママでもかまわないわけです。
根本さんの人生が転換するきっかけが今話からの内容となるのでしょうか。
根本さんの「告白」がどんな体験をしてきたのかを読み手に知らせてくれます。
もちろん勇希同様、根本さんの話を聞きながらですが。
根本さんの感情を読ませる意図がしっかりと機能しているかを確認しながら次話に進みます。
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