十和里山伝説「紡ぎの時計」第十二幕 迷宮の館

十和里山伝説「紡ぎの時計」

作者:神崎 小太郎

第十二幕 迷宮の館





※誤字脱字・構文など

> 昼下がりに、バターの香るメロンパンを食べると、根本さんの家を訪ねてゆく。

⇒「バターの香るメロンパンを食べると、」がやや文から浮いています。これを省くと「昼下がりに、根本さんの家を訪ねてゆく。」と普通の文です。これに「バターの香るメロンパンを食べると」が割って入った印象が強いのです。ここは。

> 昼下がりに、バターの香るメロンパンを食べてから、根本さんの家を訪ねてゆく。

⇒とすれば動作の継続性が出て、流れがスムーズになります。「食べると、」だと例示の意味合いが出てくるので、どうしても浮いてしまうんです。


> もちろん、薫も一緒となる。

⇒「一緒となる。」は「その形に変化する」意が強くなります。

 一般的には「もちろん、薫も一緒だ。」「もちろん、薫も一緒である。」「もちろん、薫も一緒にである。」あたりを使います。


> 街中で夏の風に誘われるように耳を澄ますと、セミの初鳴きが届く街路樹の道すがら、珍しい光景に出会ってしまう。

⇒まず、この文は三つの文を結合しています。

(1)> 街中で夏の風に誘われるように耳を澄ますと、

(2)> セミの初鳴きが届く街路樹の道すがら、

(3)> 珍しい光景に出会ってしまう。

 の三つです。そして(1)と(2)、(2)と(3)は繋がっていますが、(1)と(3)はつながっていません。つまり(2)を接着剤にして繋がらない文をつなげてしまっています。

まず(1)(2)でつながる部分、(2)(3)でつながる部分をあげます。

(1)(2)> 街中で夏の風に誘われるように耳を澄ますと、セミの初鳴きが届く

(2)(3)> 街路樹の道すがら、珍しい光景に出会ってしまう。

 「耳を澄ますと、」「セミの初鳴きが届く」が係り受けとしてあります。ここだけを見ると「届く」は合っているのですが、続けて「街路樹の道すがら」となると、「街路樹へ」「届く」ということになってしまいます。

 「街路樹から聞こえてくる」のであれば「セミの初鳴きが響いてくる街路樹の」として音の発生源を街路樹に絞り込むのが合っているようですね。

 ただ、(1)(2)(3)をすべて満たそうとすると欲張りな文になりますので、ここは(1)(2)と(2)(3)は別文にしたほうがよいでしょう。そうしなければ「耳を澄ますと、」「珍しい光景に出会ってしまう。」という「耳で見てしまう」文になってしまいます。その意味でも、(1)(2)と(2)(3)は別文にする意義があります。

 「珍しい光景に出会ってしまう。」もちょっと合わないかも。「〜しまう」は「意に反して発生する」言葉です。「珍しい光景に出会った。」とすれば「意に反して」の要素が削れます。たまたま出会ったのであれば「出くわした。」と書けます。

> 街中で夏の風に誘われるように耳を澄ますと、セミの初鳴きが届く(響いてくる)。街路樹の道すがら、珍しい光景に出くわした。


> 保育士さんに押されるお散歩バスに鉢合わせしてゆく。

⇒「鉢合わせした。」ですね。ここは前の文からの流れが怪しいので、断定したほうがよいです。


>背の高いけやきの合間から、一軒の瀟洒な佇まいの家が姿を現してくる。

⇒「瀟洒な」で「すっきりとしゃれている様子。俗っぽさがなく、あかぬけしている」意があるので、「佇まいの」は無くてもかまいません。「姿を現してくる。」は擬人化ですね。「〜てくる。」がなければ単に「家が見えた」だけです。「姿を現した。」だけでもじゅうぶんですね。

>背の高いけやきの合間から、一軒の瀟洒な(佇まいの)家が姿を現した。


>ところが、何気なく振り返ると、虚ろげな女性の声をかけられてしまう。

⇒「虚ろげな女性の声」が「かけられた」のだと思います。「虚ろげな女性の声をかけられてしまう」だと勇希の認識がちょっとブレます。

>ところが、何気なく振り返ると、虚ろげな女性の声がかけられた。


> 大きな部屋の中には、グランドピアノが埃かぶったまま置かれているだけで、家族の団らんの場となるソファーやテレビは見あたらない。

⇒ここも交ぜ書きが気になります。「団欒」は確かに難しい字ですが、Web小説としてはルビも振れますから漢字にルビ振りしたほうが把握しやすいです。ただ、紙の公募に出す場合は、ルビは最小限にするべきなので、交ぜ書きでもかまいません。





寸評

 全体的に「〜てゆく」「〜てくる」「〜てしまう」が多くて、表現が単調になっています。言い切れるところは断定していったほうがテンポがよくなりますよ。

 根本さん宅のなんとも言えない静謐な様子を丁寧に描写していますね。

 こういう丁寧な描写は著者様の得意とするところですね。

 長編の中で、雰囲気を変える場所として設定してあるのだと思います。

 装置としてうまく効いています。

 あとは、続く物語でどこまで流れを変えられるか、ですね。

 これ以前と同じ調子だと、あえてこの装置を持ち出した意味がなくなりますので。

 より効くかどうかは次話以降によりますね。




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