十和里山伝説「紡ぎの時計」第一幕 半分の夏

十和里山伝説「紡ぎの時計」

作者:神崎 小太郎

第一幕 半分の夏





※誤字脱字・構文など

> 空を見上げると、久しぶりに梅雨の中にある小さな夏の光景を見せてくれるかのようである。

⇒「見上げると、見せてくれるかのようである。」だと係り受けが少しおかしいですね。

 「小さな夏の光景が広がっているかのようである。」とすれば係り受けはきちんとします。

 ただし、ここは作品の入り口であり、ある程度のファンタジーもあるので、ここは原文ママでもそこまでおかしくはありません。ちょっと不思議な一文で、ちょっと不思議な物語を暗示する。そこまで考えてあれば問題ないです。


> 人には見せないけれども、薫のことが心配で流す涙に明け暮れる自分にとって、ひとときとはいえ、爽やかな風を感じて癒される想いとなる。

>〜(中略)

> 一方で思い描くのは、恋人の薫の姿だ。

⇒ここで「薫」の名が出てきて、その人に焦点が当たるまでに時間がかかっています。読み手としてはもやもやしながら読んできて、ここではたと「薫は恋人の名前か」と気づきます。これを遅いと見るかあえて「もやもや」を演出して小さなすっきりを味わわせたいのかで解釈が変わってきます。

 あまりストレスをかけないほうが読まれやすいのは確かなのですが、ここは著者様の意図次第ですね。あえて演出する場合は、距離感を大事にしてください。忘れられたら困るけど、近いと「もやもや」なしですっきり読めてしまいます。原文の距離感はギリギリのところなので、「もやもや」演出として成功しています。

 ただ、前記しましたが「ストレスをかけないほうが読まれやすい」。でも、「ネガティブに振ってポジティブへ振り切らないと続きは読まれない」という側面があります。

 「薫のことが心配で流す涙に明け暮れる自分」というネガティブへ振っているので、これを解消するポジティブが書けていればだいじょうぶです。


> …………暦を彼女と出会った頃にさかのぼれば、町外れの寺に咲く「烏柄杓」の花を見ながら、交わした懐かしいやり取りが思い出されてくる。

⇒ここは読点の打ちどころがズレています。

>町外れの寺に咲く「烏柄杓」の花を見ながら交わした、懐かしいやり取りが思い出されてくる。

⇒ですね。この読点は無くても問題ありません。係り受けを見ると、ひとつなぎで読めますし交差していないんです。「暦を彼女と出会った頃にさかのぼれば、」の読点がないと、格助詞「を」が二回出てくるのでわかりづらさが出てしまいます。ですので「さかのぼれば、」の読点は絶対に必要です。


>彼女から不思議な花について教えてくれる。

⇒「教えてくれる。」は「相手⇒私」の受け渡しなので、これでも良さそうですが、「相手が私に○○してくれる。」という基礎構文であるため、

>彼女が不思議な花について教えてくれる。

⇒とするのが自然です。「彼女から」なら、

>彼女から不思議な花について教えてもらう。

⇒となります。





寸評

 物語のキーパーソンとなるであろう薫の登場。

 どんな経緯で勇希が薫のことを思い出すことになったのか。

 ちょっとした謎を追うような文体ですね。

> 「毒をもってるのか?」

>「うん、たぶん心の中にね。〜

 ここでミステリアスな印象を受けますね。このあたりがプロローグの「ミステリー」と響き合うようです。

 プロローグを読んでいなければミステリーの文体に近いですね。

 そう思わせてからの展開が期待できますね。

 いい匂わせを感じる第一幕です。




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