未完なので原作がわからないよう注意しながらの添削です

 デスクにすわり、セキュリティ・キーを確認、番号を入力、パソコンを立ち上げる。

⇒「デスクにすわり」だと机に座っているように感じられますよね。

 慣用句としては「デスクにすわり」でも間違いではないのですが、小説の出だしなので「デスクに着き」「席に着き」なら誤読は少ないと思います。「デスクに腰を下ろし」とやっても机に座っているように読めますからね。

 ただし!

 この主人公・陽菜子が「こう考えている」人であれば、これでもかまいません。

 「あぁこの人は『席に着き』ではなく『デスクにすわり』の人なんだ」と読み手に知らせたい場合は、あえて狙って書いているのでこの表現でもよしとします。

 要は「狙い」ですね。



 そう、倉方陽菜子は日々に退屈しながら、

⇒冒頭で一人称視点かなと思わせて、この表現が出てくると「あれ? 三人称視点かな?」と思ってしまいますね。

 以前お話しした「三人称一元視点」であれば、「主人公ひとりの心が読める三人称視点」なので、こうなっていてもかまわないのですが。

 少し読み進めてから是非を判断致します。

 (第一話だけなら三人称一元視点ですので、この表現でOKです)。



「ええ、ええ」

⇒相槌を打つにしては入れ方が散漫ですね。これだとびっくり仰天しているようにも読めてしまいます。マスオさんのような「ええぇぇ!」みたいに。

 キャラクターを瞬時に立てるための相槌だと思いますので、もう少しわかりやすくするべきですね。

 で、ひっかかるのは「部下の東雲慶輝の声が肩越しに聞こえた。」です。

 これだと陽菜子に向けて話しているように見えません。以下の発言が「小耳に挟む」ようになってしまいます。だから陽菜子が聞いてしまってえらく驚いているように見えてしまうのです。

 そこで「部下の東雲慶輝が肩越しに語りかけてきた。」と東雲の声の指向性を陽菜子に向けると噛み合います。

 そのうえで「メール送りました、〜」の直後に「ええ、ええ」を置いて、そこから「彼は眠そうな目でほほ笑む。」が最も映える位置に置けば相槌を打っているように見えます。

 つまり、

⇒〜部下の東雲慶輝が肩越しに語りかけてきた。

「メール送りました、〜」

「ええ、ええ」

「どうします?」

 彼は眠そうな目でほほ笑む。

⇒とすれば、修正箇所を最低限にして最大の効果が出せます。

 「振り向いて東雲を見た。」と書かなくても顔を見たことがわかる展開なので、そこはしっかり押さえてあります。

 またこの場合なら「ええ」一回だけのほうが相槌になるのでそちらもご検討くださいませ。



 気がつくと、すでにお昼を過ぎている。

⇒文章の流れだと、まだ「朝一番」の最中に読めるのに、ここで「気がつくと、すでにお昼を過ぎている。」となっているので「ワープでもしたのか?」と思ってしまいますね。

 ここはこの前の空行がひとつしか入っていないのが原因です。

 時間の隔たりを表現したければふたつか三つ、もしくは記号で区切るなどの工夫が必要になります。

 紙の書籍のフォーマットでは「空行ひとつで場面転換」が基本なのですが、ネット小説の場合は普通に文章を書いていても空行が出てきます。「空行ひとつ」が「場面転換」以外で使われているため、それなら「場面転換」は「空行ふたつか三つ」にしないと区別できないんですね。今回の文章では「空行三つで場面転換」をオススメ致します。



 いつも、こうした相反する矛盾を感じる。

⇒「相反する」から「矛盾」なので、ちょっと説明的ですね。

 「相反する」なら「思いを感じる。」「気持ちを感じる。」

 「矛盾を感じる」なら「言いようのない矛盾」「たとえようのない矛盾」

 あたりが無難ですね。

 スパッと書きたければ「いつも、こうした矛盾を感じる。」だけで済みます。



 朝に降り始めた雨は午後には止んでいた。

⇒「朝」に対応する語は「昼」「夜」なので「昼には止んでいた。」が正しいですね。

 逆に「午後」を活かしたければ「午前に降り始めた雨」にするべきです。



まだ点灯されていないイルミネーションが、捨て猫のように放置されていた。

⇒この一文はいい比喩ですね。陽菜子の心境をうまく写し込んでいて、とても映えます。

 アメ様はこういった「日常を切り取る比喩」がじょうずですよね。



 背後から声に振り返ると、東雲が駆けてくる。

⇒「背後からの声」ですね。

 ここは認識の動作でもあるのですが、声をかけられたとき瞬時に東雲の声だとわかっていたのであれば「背後からの東雲の声に振り返ると、彼が駆けてくる。」と書くべきです。

 今回は「背後からの声」が誰の声なのかわからないようなので、その意図があるのなら「背後からの声に振り返ると、東雲が駆けてくる。」で問題ありません。

 (第一話を読むかぎり、「後ろで誰かが」が鍵を握っているようなので、ここで先に東雲だと断定すると、肝心のシーンが台無しになりますね。なので後者の「背後からの声に振り返ると、〜」にするべきです)。



 唇だけでほほ笑み浮かべる顔は美しい。

⇒ここは文法的には「ほほ笑みを浮かべる顔は」なのですが、アメ様が陽菜子の語り口として「ほほ笑み浮かべる顔」としたいのであれば原文ママでOKです。

 あと、後ろで「陽菜子は唇に微苦笑を浮かべる。」とあるのですが、ここで「唇だけでほほ笑み浮かべる顔は美しい。」がもし陽菜子の顔のことであれば、三人称一元視点では矛盾が生じます。

 三人称一元視点では主人公・陽菜子の心が読めるわけですから、もし「陽菜子の顔が美しい」と感じるのであれば陽菜子以外の判断が入り込んでいますよね。

 私は「東雲の顔が美しい」だと思って読んだのですが、違うのかな? と。

 ここは意図を明確にして、どちらの顔について書いたのか。

 三人称一元視点の主人公・陽菜子から見た光景なのか、を明確にするため整理しましょう。



「でも」と、逡巡した。

⇒「逡巡した」のなら、なにと比べてためらったのか。さらっとでよいので一文があると納得しやすいですね。たとえば「メキシカンの店だと時間がかかりそう。」とか。



 彼は顔をしかめて、「だから、チーフが好きな簡単に食べられる店です」と笑った。

⇒ここで陽菜子を「チーフ」と呼んでいるので、冒頭の「メール送りました、〜」も「チーフ、メール送りました。〜」としたほうが自然ですね。



 東雲は横に並ぶと、陽菜子に歩調をあわせた。

⇒一人称視点なら「東雲は横に並ぶと、私と歩調を合わせた。」です。三人称一元視点なら「東雲は横に並ぶと、陽菜子と歩調を合わせた。」でもよいですね。「〜と歩調を合わせる」が正しい文章です。



また、女の子たち。

⇒これは、次文「陽菜子は唇に微苦笑を浮かべる。」を引き起こす一文なので、重要度が高いのですが、この書き方だと埋もれてしまいますね。

 できれば改行し、さらにできれば空行もひとつ入れてみると、この一文が大きな意味を持ってきます。

⇒背が高く〜。そういう理由でも女の子たちの標的だった。


 また、女の子たち。


 陽菜子は唇に微苦笑を浮かべる。


 要するに〜

⇒と続けば、微苦笑の意味がより伝わりやすくなります。

 ちなみに私は「微苦笑を浮かべる。」と書いていますが、アメ様は「浮べる」ですよね。私は標準に送り仮名に倣っているのですが、アメ様がこちらの送り仮名がよいのであれば「浮べる」でもかまいません。ただ標準の送り仮名で書いたほうが、一次選考は通りやすいとは思います。下の「唇を無理に曲げて、一瞬だけ笑みを浮かべた。」は「浮かべた。」なので、ここは送り仮名のミスの可能性が高いとは思います。



金と権力と名誉と、すべてを手に持つ彼は、〜

⇒この場合は「手に持つ」ではなく「持っている」か「手にしている」が一般的ですね。手で所持できるものであれば「手に持つ」でもよいのですが。ここでの「手に持つ」が「手中に収める」の意で用いているなら「手中に収める」とズバリ書いたほうが語彙の意味からもふさわしいでしょう。



 陽菜子は肩を竦めた。

⇒「竦めた」は常用外なのでふりがなを振りましょう。



 彼は笑いながら意味もなく顔の前で手をふり、お洒落な屋台の店に案内した。

⇒一般的に屋台は「店」なので、「お洒落な屋台に案内した。」とシンプルに。



 身体が凍え、肩を竦めると、〜

⇒ここも「竦める」にはふりがなを。初回にのみふりがなをするスタイルであれば、ここは省いてかまいません。



軽くため息を付いて携帯をバッグに返した。

⇒携帯電話が鳴ったときに、どこかから取り出していないですよね。それを「バッグに返した。」と書くと「あ、バッグから取り出したのね」と思う人と、「手に持っていたものをバッグに入れたのね」と思う人がいます。

 基本的には「携帯をバッグに」なら「仕舞った」か「収めた」か「入れた」ですね。

 「返した」は「借りた」印象が強い語ですので。

 ただし、陽菜子がある程度方言のある方なら、「返した」は方言として正しい、ということもあります。



 ほほ笑むと、なぜか、彼が傷ついた表情を浮かべた。

⇒ここは判断に困るかなと。「傷ついた表情」を読むのはかなり難しいかもしれません。

 「傷ついた」は東雲の心の中であり、それが「表情」に表れる。

 つまり他人の心の中を読めてしまうのです。

 話の流れで、ここで変に「彼がバツの悪そうな表情を浮かべた。」と迂回するより、言い切ったほうが展開が楽、という可能性もあります。

 つまり表現ひとつで効率がよくなるのです。

 で、ここで迂回せず直進したことが当たるかどうかは、今後の展開次第です。

 (第一話ではわからなかったので、これは判断が割れますね)。



 パソコンの電源を落とすと、オフィスビルを後にした。〜。警備員の詰所を通って裏口から外へ出た。

⇒こう書いておいて、続く文が「正面玄関は薄暗く、この時間では鍵がおりているだろう。」となると「あれ? まだビルから出ていないのでは?」となります。

 おそらく「オフィスを後にした。」「職場を後にした」が正しいでしょう。

 このパートの前後を見ると、おそらくですが、最初は「オフィスビルを後にした。」ですんなりビルから出ていて、そこで夫と出会った流れだったと思われます。

 そこを「遅い時間だとすんなりビルから出られないよね」となって推敲した結果、ワンクッション書いてしまった。

 だけど「オフィスビルを後にした。」はそのままにしたので食い違いが発生したと思われます。

 また「警備員の詰所を通って裏口から外へ出た。」といったん裏口から出ているのに、少し先で「裏口から出ると、やはり、そこに彼がいた。」と書いてある。

 回避策は「警備員の詰所を通って裏口から外へ出よう。/すると出口から、煙草の匂いが漂ってきた。」と、まだ出ていないで物語を続けてはいかがでしょうか。



 それから肩をすくめて「もう冬ね」とだけ呟いた。

⇒ここで「肩を竦めて」と書かないのであれば、前記も「竦め」ではなくかな書きで「すくめ」でよいですね。どちらかに表記を統一しましょう。



ということは、背後を振り返ってから走って側に寄るまでの時間は短かったということだ。

⇒本来の構文として「ということ」を一文で二回使うのはよくありません。

 ただし、あえてこう書いて読み手の印象に残そう、という意図がおありならば手を入れないほうがよいでしょう。

 本来の構文なら「ということは、背後を振り返ってから走って側に寄るまでの時間は短かったのだ。」「背後を振り返ってから走って側に寄るまでの時間は短かったということだ。」のいずれかです。

 これはミステリーなので、異変を読み手に強く訴えたほうが記憶に残りやすいので、あえてこう書いてあるのなら直さなくてかまいません。





※まずは第一話の添削でした。

 三人称一元視点が若干揺らいでいる部分があるように見受けられるので、そこは指摘してあります。

 アメ様は独特な文体なので、ある程度活かすべきだと思います。

 なので構文として正しいものと、語り口として正しいものは、必ずしも一致しません。

 そこを理解したうえで「ちょっとおかしいな」と思うところはあえて指摘致しました。


 第二話はこれから取りかかりますが、第一話だけを読んだ感想として「物語は面白そう」ですね。

 アメ様の作品はみな「物語が面白い」ので、それを最大限に活かした文章力を積み上げていけば、必ず賞を獲れるでしょう。

 ときどき致命傷な部分が出てくるので、そこは見逃さずに指摘していく所存です。



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