こちらもとある添削です

 こちらも小説賞応募作として書かれているので、URLは貼りません。


 ただ、こういう文章だとこんな指摘を受ける、というものは感じられるはずです。


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 クロードは変わり者だと思われている。貧乏貴族ハトートレイン家の、とびきり美しい三女は、20歳になっても結婚できなかった。

⇒まず「クロード」は一般的に男性名。で「とびきり美しい三女」とくるので、読み手はとうぜん別人だと思い込む。

 そこを覆していく過程が面白いですね。

 ちょっと疑問に思う書き出しで、うまく読み手の興味をそそっています。

 女性名で「クローディア」「クラウディア」とするとこの違和感を醸し出せないので、よい書き出しですね。


 それは、バカバカしいほど基本的な理由で、彼が女性ではないからだ。

⇒せっかく冒頭で疑問を感じてもらった割には、実にあっさりとした解決になっています。

 もう少し演出するなら

 それは、バカバカしいほど基本的な理由で……。


 彼が女性ではないからだ。


 男性だが、女の格好をして、〜(後略)


⇒このくらい溜めてもったいぶらせて、インパクトのある情報を目立たせると、読み手も「そうなのかい!!」とツッコミできるのでオススメです。

 もちろん、この疑問がそれほど物語で重要な意味を持たないのであれば、原文のようにあっさりと種明かしするべきなのですが。

 どうもこの設定が作品のキモに見えるんですよね。


 幼い頃からひ弱だったらしく、大人になることも危ぶまれた。

⇒「危ぶまれた」は「幼い頃にはそう案じられた」意になります。

 ここでは「幼い頃から」なので「それからずっとそう案じられていた」のが正しいと思います。

⇒幼い頃からひ弱だったらしく、大人になることも危ぶまれていた。

 と進行形にすると「幼い頃からずっとそう案じられていた」意になります。

※ただ最後まで読むと、ひ弱だったのは幼い頃だけのようなので「幼い頃はひ弱だったらしく、大人になることも危ぶまれた。」が正解のようです。


「俺の身体は細すぎる」

⇒この前の空行は三つあると読みやすくなります。

 その前までとこのあとからでは、時間が隔たっているようです。


女言葉も使わないからコミュ障とも思われた。

⇒「コミュ障」という単語の是非ですが、これがとても難しいのです。

 もし作者が「今を生きる若者に読んでほしい」とお考えなら使ってもよい。

 ただ流行り言葉は廃れるのも早いのです。

 「コミュニケーション障害」と書く手もあるのですが、これだと現代の医学情報を持っている人でないと楽しめない。

 そもそもこれを「コミュ障」と称しても問題ないのか。

 どの時代の誰を読み手と想定するかで、是非が分かれる言葉ですね。

 まぁ芥川龍之介氏にしろ太宰治氏にしろ、当時の流行り言葉を書いていても現代まで読まれる作品になっているので、あまり深く考えなくてもよいかもしれません。

 現代語である「コミュ障」がこの異世界ファンタジーで通用するのか。言葉は日本語、コミュニケーショは英語。少なくともふたつの世界の言葉をミックスしているので、普通の日本語よりも難易度が高いのは確かです。

 当落線上にあるとすれば、この単語で分かれるかもしれない、というくらいですかね。

 ここではあまり深く考えず、物語全体での単語の使い方を総合して判断するのがベストだと思います。

 なので、ここでは「コミュ障」のままでよしとします。


「大きなお世話だ」

「まったく、だから結婚できない」と、事情を知らない村人はお節介だ。

「まさか、男と結婚させるつもりか? 俺には必要ない」

⇒ここは真ん中の会話文でいきなりそこにはいないはずの村人が表れてしまいます。

 話の流れを遮らずにこの会話文を書くのなら、カギカッコを外しましょう。

「大きなお世話だ」

 まったく、だから結婚できない、とは事情を知らない村人のお節介だ。

「まさか、男と結婚させるつもりか? 俺には必要ない」


 いったん受け入れれば、もともろ素直な性質のクロードは、女であることに順応した。なぜ、反抗したのが、今では驚くほどだ。

⇒「もともと素直な」と「抵抗したのか、」ですね。


実家で食いはぐれ、執政官の警備騎士となったと聞いたが、なぜここにいるのだろう。

⇒ここは「執政官の警備騎士になったと聞いたが、」ですね。続く「なぜここにいるのだろう。」に助詞「に」があるので回避したつもりが、助詞「と」の重複を起こしています。

 文法上、本来ならこれはふたつの文を接続助詞「が」でつなげたものです。つまり「が」の前と後は別文としてとらえるのが一般的です。

⇒実家で食いはぐれ、執政官の警備騎士となったと聞いた。だが、なぜここにいるのだろう。

 これをくっつけた文というわけです。

 このような場合は前後の文に同じ助詞があっても、文法上は許容されます。今回のように明確な接続助詞「が」がある場合はとくに。

 ですので、下記でだいじょうぶですよ。

⇒実家で食いはぐれ、執政官の警備騎士になったと聞いたが、なぜここにいるのだろう。


「これは紙切れじゃない、文字と呼ぶのだ。ここには無限の知恵がある。おまえのような脳の大きさが豆粒のような奴には、わからんだろうが」

⇒これも異世界ファンタジーの世界観によるところがありますね。

 「脳の大きさ」は解剖学が発達した世界でないとわからないんですよね。

 日本でも古くは心臓に魂が宿っている思想がありました。

 しかし蘭学者が解剖学を翻訳して、西洋医学が広まってからは「脳に情報が詰め込まれている」と理解するようになったのです。

 この異世界では、どこまで解剖学的な見地があるのか。

 治癒魔法があるので、常識として「脳」の重要性が理解されているのかどうか。

 まぁこれも、先々の文章を読んで、設定が矛盾していなければよいのですけどね。


 今度はクロードが笑う番だった。

 彼が男と知ったら、さぞ仰天することだろう。皮肉に考える自分も、まあアホだがなと、クロードは笑った。

⇒ここは「クロードが笑う」「クロードは笑った」が近いところにあるので、説明くさいですね。後ろを「まあアホだがなと、内心毒づきながら。」と書けば、ある程度説明くささが抜けて、ただ笑うだけでなくその胸中を素直に表せると思います。


 実は、クロードには、もう一つ秘密がある。

 それは彼の目だ。

⇒ここは単に「目だ。」と書いたほうがインパクトを出せますね。

 「それは」と書き出すと「これから説明しますよ」と合図を送り、「彼の」と書いてあるので説明が続いていくのです。

 それを単に「 実は、クロードには、もう一つ秘密がある。/ 目だ。」と書くだけで、物語を進めていくと重要になるものを読み手に強く印象付けられます。

 現時点ではそれほど重要に感じられなくても、のちのち伏線となるのであれば、強烈に印象づけたほうが断然有利ですよ。

 ここまで読んできて、「もしかしてクロードは鳥類と関係があるのではないか?」と考えました。

 骨が細くて華奢、ひ弱だった、鳥類のような目の動き。

 似た言葉で「Crow」はカラスですからね。

 これを揃えると「鳥類の生まれ変わりか变化ヘンゲ体」のようなものを連想します。私が連想するくらいなので、多くの中高生は同じかそれに近い発想をするのではないでしょうか。

 真偽は作者のみ知る、というところですが。

 どこまでこの疑問を引っ張れるかは今後の展開次第ですね。


その奇妙な瞳の動きに、側にいた子どもは尻餅をつき、顔を恐怖に引きつらせた。

⇒ここも助詞「に」がうるさいのですが、解決方法があります。

 まず「その奇妙な瞳の動きに」は「動きで」が正解です。

 「側にいた」は慣用句なので変えようがありません。

 すると「恐怖に」を変えなければ、と思うでしょうか。

 実はここは重文なのです。「その奇妙な瞳の動きで側にいた子どもは尻餅をつく。その子どもは顔を恐怖に引きつらせた。」をくっつけたのが原文です。

 なので、前文の「側にいた」と後文の「恐怖に」が同居していても構文エラーにはなりません。

 ただ「恐怖に顔をひきつらせた。」としたほうが係り受けはしっかりします。「ひきつらせた」のは「顔を」ですからね。この慣用句の間に「恐怖に」を入れないほうが構文はさらにしっかりします。


 想像は、どんどん膨らみ、徐々に相手は酷くなった。

⇒ここは韻を踏んだほうが効果的と判断して、多少意図とはズレるしれませんが、以下のようにしてみました。

⇒想像はどんどん膨らみ、相手はだんだん酷くなった。


 問題は、その運命が一向にあられないことだ。

⇒おそらく「現れない」ですね。作者の用字だと「あらわれないことだ。」とかな書きでしょうか。


この国の最高責任者で、壮麗で有名なリーラ城はその居城だ。

⇒「リーラ城はその居城だ」は「城」の字が重なっているので避けたくなりますね。ただ、この程度ならよくある形なので、あえて回避しなくてもなんとかなります。

 回避するなら「リーラ城はその住まいだ」「住居だ」あたりでしょうか。

 こうすると少し野暮ったくなるので、「リーラ城はその居城だ」でも許容できるわけです。


 確か、妻のカーラは北の大陸にあるフレーヴァング王国で起きた厄災で亡くなったと聞いた。

⇒私の用字規則だとこの「確か」はかなで「たしか」と書きます。理由は「確」の字が持つ「しっかりとした」イメージを持っていない使い方だからです。「しっかり」自体が「確り」と書きますからね。あやふやなものは「しっかり」ではないためかなで書く。

 まぁこれは私の用字規則なので、作者の書きたいように用字するのが正解ですね。

 あとは係り受けが遠すぎるのが難点です。「妻のカーラ」は「亡くなった」で受けるので、その間に長い情報を入れないほうが間違いなく読めます。

⇒確か、北の大陸にあるフレーヴァング王国で起きた厄災で妻のカーラは亡くなったと聞いた。


 執政官の妻は外交特使として他国の式典に出席して被害にあった。

⇒あえて「執政官の妻」と書くのはのちのちの伏線でしょうか。通常なら妻の名前を書いているのだから「カーラは」と書けば済む文です。

 あとは「被害に遭った」が正しい用字ですが、これも作者様に委ねます。かな書きでもかまいません。


ただ何事も斜め右から見る癖は、育ちによる屈託と、本を読みすぎが理由かもしれない。

⇒「本の読みすぎが」ですね。


「支度金は用意されておる。娘と引き換えに渡そう」

⇒これは誰かの口から出たセリフでしょうか。それとも書状に書かれていた文言でしょうか。

 前者ならその人物を登場させないと不自然ですし、後者なら単なるカギカッコでは会話文と同じになってしまいます。

 書状に書かれていたのなら、カッコの記号をカギカッコと変えたほうがよいですね。〈 〉とか[ ]とか。


「クロード。父が不甲斐ないから」と、父は涙を抑えた。

⇒ここは「出てくる涙を手やハンカチなどで押さえた」のなら「押さえた」。

 「涙を流すのを我慢している」のなら「抑えた」です。まぁその場合は「こらえた」のほうが適切です。

 どちらかわかりませんが、この父親からすると「押さえた」かなと思います。


 足の間にあるモノを股の間に隠して、女のように男に奉仕する方法を念入りに彼に教えたのだ。

⇒助詞「に」が多いですね。ここで必殺技「重文化」です。

 重文は前文と後文を分けて、機能を独立させます。つまり同じ助詞でもかかる動詞が明確に異なるので重複にカウントされません。

 ではまず「重文化」します。

 簡単なんですよ。

⇒足の間にあるモノを股の間に隠し、女のように男に奉仕する方法を念入りに彼に教えたのだ。

 このように「て」を省くだけで重文になります。この助詞「て」が曲者で、気づかないと前文と後文をつなげてしまう怖い機能を持っているのです。

 次に前文と後文での重複を回避します。

⇒足の間にあるモノを股の間へ隠し、

 とまずは前文のひとつを助詞「へ」に変換。次に後文です。

⇒女のように男へ奉仕する方法を念入りに教えたのだ。

 まず形容動詞「ような」の連用形の「ように」は助詞「に」ではありませんので、これはカウントしません。次に助詞「に」のひとつを助詞「へ」に書き換えます。「男に」と「念入りに」と「彼に」と三つありますね。このうち「念入りに」が慣用句なので他の助詞へ切り替えられないので、必然的に他の「男に」と「彼に」を助詞「へ」に変えることになります。しかしふたつとも助詞「へ」に変えてしまうと新たな重複になるのです。そこでこの文では必要のない「彼に」を省いてしまいます。これで助詞「に」の重複は完璧に解除させました。

 最後に、この文が「ヒョロっとした男」目線かクロード目線かで動詞が変わります。

 原文では「ヒョロっとした男」目線ですが、上記の流れを考えればクロード目線で書くのが適当だと思います。その場合は「教えられた。」になります。「教わった。」だとクロードに積極性が出てしまうので、受け身形である「教えられた。」が適当です。

⇒足の間にあるモノを股の間へ隠し、女のように男へ奉仕する方法を念入りに教えられたのだ。


 そうして、半年が過ぎた。

⇒この前は空行ふたつか三つが妥当です。時間の隔たりを表現したほうがよいからです。それまでは時間が隔たると内容も変わるので三つ入れていますが、ここでは時間の隔たりがあっても内容は継続しているのでふたつでよいと思います。ふたつか三つかは作者の裁量に委ねます。


「それから、マリーナさまとして……、あなたさまは明るく振舞っておられるが、その目に寂しさが宿っておりまする。それは隠してくださいませ。マリーナ王女は、そのような目を致しません」

⇒「寂しさが宿っておりまする。」の「る」はマルニガンの口癖でしょうか。単なる推敲ミスのように見えます。


 実際は会うことなど不可能だったのだ。王女は奴隷であった男とともに、城を抜け出して出奔していた。

⇒ここでこの情報を書く必要があったのかどうか。

 過去作とのつながりを知っている方は、ここで説明されて王の名前を見た段階で「あ、そういうことか」となります。

 ですが、一本の独立した長編小説として読んだ場合、説明が早すぎるように思えます。

 もしくは、きちんと噂話などで聞く機会を与えて、「本物のマリーナ王女は出奔したんだ」とクロードと読み手に理解させるようにしてください。

 今回のように、単に「実際は〜出奔していた。」と書いてしまうと、いつその情報に触れたかわからず、初見の読み手が置いてけぼりになりがちです。



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 添削はここまでですね。


 基本的に小説賞へ挑む作品は、それ単独で物語となっている状態が望ましいのです。

 たとえ書き手が続き物のひとつを抜き出したとしても、読み手はいつも新鮮な作品として読みます。

 選考さんとしても、単独で完結している長編小説を読みたいので、続き物前提の流れはいったん切り捨てて、単独で読んでもじゅうぶん物語の筋は追えるしわかりやすいものに仕立ててください。

 そのうえで、受賞してから「この作品にはこんな前後があります」と示せばよいだけの話なのです。


 なので「選考さんへの配慮」を最優先にして物語を構築してくださいね。

 今回指摘した「なぜその情報をそこで知っている」という状態はできうるかぎり回避してくださいね。


 続き物としての面白さはじゅうぶんあるシリーズなので、とくに連載している『カクヨム』では人気が出るはずです。

 しかし選考さんは「初見」だという事実をしっかりと見つめて、初めてこの物語に触れる方でもついてこられるように配慮しましょう。


 そうすれば結果はついてきますよ。



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