第1話 めぐると姫神様とお師様(しさま)(一)


https://kakuyomu.jp/works/16816452218840507385/episodes/16816452218932587672



 添削の初回は必ずダメ押しくらいに指摘をてんこ盛りにしますので、これで気落ちしないでくださいね。

 それだけ書き出しの話は重要なのです。

 逆に言えば、ここさえしっかりしていれば、ある程度の読み手が継続してくれるようになりますよ。

 では初回からビシバシいきますね。



 ――さて、この古ぅ~いガラクタ(お師様の宝物)部屋をどーやって掃除しよーかしら?

 あたしはお師様のガラクタ――もとい宝物部屋の片付けを命じられて、悩んでいた。

⇒狭いところで「ガラクタ」「宝物」「部屋」「お師様」が二回ずつ出てきます。

 書き出しは、できるだけインパクトを重視したほうがよいので、最初の文を可能なかぎり衝撃的にします。そのうえで続く文に補足を集めましょう。

 また書き出しでダッシュから始めてしまうと、以後ダッシュ率が高まってしまいかねないので、まずダッシュで始めるのをやめてみます。それで書き進めていって、やはりダッシュから始めたほうがふさわしい。となったらそのときにダッシュを入れに戻ってくださいませ。

 あとは長音「ー」はカタカナ言葉の伸ばす音以外は使わないほうがよいですね。ひらがなに使うといささか読みづらい。選考さんのウケもよくありません。できれば「どうやって掃除しようかしら?」とするべきです。ですが、一人称視点の地の文は主人公の声語りなのになります。主人公が長音と認識しているのなら、地の文でも長音で通すべきでしょう。その代わり、長音部分はすべて「ー」で押し通すくらいの徹底さは求められるので注意してくださいね。

⇒さて、この古ぅ~いガラクタ部屋をどーやって掃除しよーかしら?

 あたしはお師様のガラクタ――もとい宝物部屋の片付けを命じられて、悩んでいた。


 あたしはド田舎の山奥にある町で、生まれ育った陰陽師(?)見習い。

⇒読点の位置がおかしいですね。

 この程度の長さなら、読点はなくてもすんなり読めますよ。

 読点を入れたければ係り受けがわかるように打つのが基本です。

 ちなみにこの文の場合の係り受けは以下のようになります。(/は文節の区切りです)。

⇒あたしは/ド田舎の山奥にある町で生まれ育った/陰陽師(?)見習い。

 これが係り受けなのは、「あたしは陰陽師(?)見習い」の文が成立しているのでわかりますよね。

 原文では「あたしはド田舎の山奥にある町で陰陽師(?)見習い」となって意味がわからなくなります。

 読点は読みやすいところだけでなく、係り受けも考えて打ちましょうね。


 まだまだ、一人前にはほど遠い半人前以下だけど、あたしの霊力は生まれつき強すぎるくらい強くて、自分でも制御が難しい。

⇒この文で主張したいのは「あたしの霊力は生まれつき強すぎて、自分でも制御が難しい」ということだと思います。

 そこに一人前も半人前もありません。

 「一人前にはほど遠い」「半人前以下」はほぼ同じ意味です。

 また「強すぎるくらい」「強くて」も同じ意味のリフレインです。

 もしこう表現したほうが最適だ、と意図を持ってお考えならこれでもよいのですが、もうちょっと短くしたいですね。

 書き出しの三ページ(原稿用紙で三ページなのでだいたい六百字)で、読み手に可能なかぎり主人公の情報を与えてください。ここで強調・リフレインが多いと、そのぶん読み手に伝える情報が減ってしまいます。

 書き出しは貴重なのです。情報量を増やすためにリフレインをスマートにしてみます。

⇒まだ半人前にも届かないけど、あたしの霊力は生まれつき強すぎるくらいで、自分でも制御が難しい。


 美少女(←自称)女子中学生にこんな物がある部屋の掃除させるなんて!

「思春期真っ只中の女の子に、こんな部屋掃除させるなんて……気が知れないわ」

⇒「美少女」は「女の子」なので「女子中学生」だと意味が重複しますね。

 矢印記号は縦書きで表示したとき、どこを向いて指すのかわからなくなるので、基本に小説では使わないほうがよいですね。とくに「小説賞・新人賞」などの公募に出す作品は、矢印記号が減点材料になりかねません。

 また地の文と会話文でほぼ同じことを書いているので、重複する言葉を削り込みましょう。ここも選考さんから「水増し」を指摘されかねません。

 私の作例をお見せ致しますが、水守風火様ご自身もどうすれば同じことの繰り返しを避けられるか考えてみてくださいね。

 あと、会話文は行頭一字下げず、行頭から書いてくださいね。ここも減点対象ですよ。

⇒これでも美少女(自称)なんだから。

「思春期真っ只中の女の子に、こんな部屋掃除させるなんて……気がしれないわ」


 あたしはぶつくさいーながらも、使い捨てマスクを掛けて、頭に手拭いを被った。

 折角、昨日美容院行って、綺麗なボブカットにして貰ったんだから、埃り塗れにはしたくない。

⇒「埃塗れ」ですね。

 あと「あたしは〜」の「あたしは」は必要ないですね。この小説は地の文で「あたし」の心の声を書いている一人称視点です。つまり誰かを書かなければ「あたし」の言動だということです。まぁある程度慣れないと「あたしは」は省きにくいかもしれません。こればかりは回数を重ねて減らしていきましょう。


 手には軍手を嵌めて、箒にハタキに水の入ったバケツに乾いた雑巾。

⇒軍手は手にするものなので、単に「軍手をはめる。」でいいですね。

 句点で区切るのは、続く文節が列挙だからです。列挙を見ると「を用意した。」あたりが書かれていないので、「軍手を嵌め」たのに、「箒にハタキに水の入ったバケツに乾いた雑巾」がどうなのかがわかりません。しかし軍手を切り離せば、あとはただの列挙なので用言を求めなくなります。


着てる服は学校指定のジャージだけど、なるべく汚れないよーに割烹着も身に付けている。

⇒服や装飾品などは「身に着ける」と書きます。技術や技能や要領などは「身に付ける」です。

 また「着てる」は「着ている」からの「い抜き言葉」です。小説の地の文としてはあまりオススメはできないのですが、これも主人公の女子中学生感を出したければ、多少の減点を覚悟のうえで意図的に「い抜き言葉」を使ってください。これも長音同様「徹底」してくださいね。ここでは「身に着けている」も「い抜き言葉」にするべきです。「身に着けてる」を許容したくなければ「着ている」にして「い抜き言葉」をやめましょう。

 ここは「着てる服は学校指定のジャージ」だけど「なるべく汚れないように割烹着も身に着けている。」と二文に分けたほうが意味を取り違えないのですが、主人公の心の声に忠実にするか、構文として正しくするかを選ぶべきですね。

 私なら、構文をとって次のようにしてみます。

⇒学校指定のジャージを着ている。だけど、なるべく汚れないように割烹着も身に着けている。

 こうすると「割烹着も身に着けている」となって「着」の字の重複なのですが、「着る」の類語はたいてい「着る」の字を用います。なので「水着を着る」で正しいのです。「下着を」なら「穿く」でもよいのですけどね。ここでは「割烹着」は水着のように「着る」以外にありませんので、慣用表現として許容します。


 あたしは窓を開けた。

⇒ここも「あたしは」が要りませんね。


昔だったら杉花粉症が問題になってた季節だけど、あたしが生まれ育った時代には、杉は殆ど切り倒されて、あまり花粉が飛び過ぎない別の木々が植樹されてる。

⇒ここは「花粉が飛ばない無花粉スギや無花粉ヒノキなどが」だったり「桜や梅などが」だったり「松や銀杏などが」だったり。具体的に書くと読み手に明確なイメージを与えられますよ。


 外の様子を見ると、ご近所の飼い猫が庭に入り込んで、体全体を地面に着けて横になってぐっすり眠っている。

⇒「外の様子を見ると」は「外を見ると」でじゅうぶん伝わります。

 助詞「に」の重複も気になりますね。この一文では三回使っています。

 基本的に並列・列挙以外で重複させないようにしてください。とてもわかりにくいからです。

 ここでは助詞「へ」に置き換えたり、同じの動作で別の表現をしたりしてみます。

⇒外を見ると、ご近所の飼い猫が庭へ入り込んで、体全体を地面に着けて横たわりぐっすり眠っている。

 こうして見ると「体全体を地面に着けて」はなくてもだいじょうぶだとわかりますね。

 「横たわる」で体を地面に着けて寝そべっている状態は描写できていますから。


 とても、人懐っこくて、時々、この町に降りて来る、狸とかハクビシンとかの害獣になっちゃう動物達を、山の奥の奥へと追い帰してる。

 あー、折角タマちゃんが庭に来てくれたんだから、こんな汚部屋の掃除なんて放り出して、タマちゃんを、もふもふしたい~!

⇒読点を打ちすぎですね。声に出して読むと読みづらさを感じるはずです。

 削れるものは削ってみました。ここも「い抜き言葉」がありますね。

⇒とても人懐っこくて、時々この町に降りて来る狸とかハクビシンとかの害獣になっちゃう動物達を、山の奥の奥へと追い返してる。

 あー、折角タマちゃんが庭に来てくれたんだから、こんな汚部屋の掃除なんて放り出して、タマちゃんをもふもふしたい~!


 『何を考えておるのじゃ。ダメじゃぞ。めぐる』

⇒ここは句点を読点にしたほうがよい例です。

『何を考えておるのじゃ。ダメじゃぞ、めぐる』


 あたしの「サボりたい」と、ゆー気持ちに反応して頭の中に声が響く。

⇒読点が要らないのと、助詞「に」の重複ですね。

 ふたつを解決してみます。ここでは助詞「に」を助詞「で」に置き換えました。

⇒あたしの「サボりたい」とゆー気持ちに反応して頭の中で声が響く。


 「解ってるわよ。姫神様。サボったりしないから、安心してよ」

⇒行頭下げを直すのと、句点と読点の混同を解消し、無駄な読点を省いてみます。

「解ってるわよ、姫神様。サボったりしないから安心してよ」


 あたしは頭の中に響いた声に答える。

⇒ここも助詞「に」の重複なので、先ほど使った助詞「で」を使いましょう。

⇒あたしは頭の中で響いた声に答える。


 時々、普段は眠っててくれればいーのに、と、思うこともあるけど、姫神様のお陰で助かってることも多いから文句も言えない。

⇒「時々」と「思うこともある」はほぼ同じです。片方残せばよいので、今回は「時々」を削ります。また助詞「も」が二回出てくるのでこれも他の助詞に置き換えましょう。

⇒普段は眠っててくれればいーのに、と思うこともあるけど、姫神様のお陰で助かってることも多いから文句は言えない。


 この部屋は、ドアと押し入れがある面と窓がある面以外の壁は本棚になっている。

⇒ちょっとわかりづらい構造ですね。

 「ドアと押し入れがある面」ということは四角い部屋ではないのですか?。ドアを開けて短い通路があって部屋に出る。そしてドア側には押し入れがある。これで合っているでしょうか。「窓がある面」は一面だけですか? もし窓がある面がふたつあると、本棚が二辺にしかないことになるので。

 本棚が二辺にあるとして、ドアと窓が対面であれば本棚は両サイド。ドア面と窓面が接しているのなら、本棚はL字型になりますよね。

 ただ、そもそもここで本棚のレイアウトを書く意味はありますか。

 のちのちこの本棚でなにか事件が起こる。それならレイアウトを書いてもよいのですが、あくまでも片付けをするだけであればレイアウトを書く必要はありませんね。

 その場合は次のように短くしましょう。

⇒この部屋にはたくさんの本棚が置いてある。


 まずはいくつか本を下ろして――って! 春画が一番上にあるんかい! いきなりだな!

⇒今話の頭のほうで、

⇒それに何よりっ!! 江戸時代(?)の春画とか! エロ小説とか! ドエロいグラビア雑誌とか成人指定のエロ漫画まであるのよ!

 と書いてありますので、今さら春画で驚かないのではないですか?



────────


【寸評】

 初回はメインのキャラ紹介として、主人公めぐる、祖父のお師様、めぐるの中の姫神様の登場ですね。

 初回に登場させたということは、この三者が物語のメインどころと見てよろしいのでしょうか。

 もしお師様がそれほど出てこないとしたら、このスタートはしくじったかもしれません。そのくらいお師様のキャラが立っていますので。

 お師様の(とくにエロ方面での)活躍次第で、このスタートが成功かどうかが決まりますね。

 こう書くと身もふたもないですね。


 一般的に見れば面白い初回になっているはずです。

 汚部屋の間取り(レイアウト)については、ここが物語の舞台にならないのであれば省いたほうがよいですね。

 へたにレイアウトに触れると「ここは重要な場所かもしれない」と伏線に見えてしまう方も出てきますので。


 今日添削を始めていますので、続けてもう一話は水守風火様が大変かなと思います。だいじょうぶでしょうか。

 私は約四八〇〇字を書いてかなり疲れましたが(笑)。

 ちょっと休憩しつつ、二話目を少しずつこなしていきますね。


 推敲お疲れさまです。



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