官能の日々 その4


https://kakuyomu.jp/works/16816452218537897016/episodes/16816452219588201001



 ユーセイの冷静な顔に平静ではいられない。彼を求めすぎる自分を時に恐ろしくなる。

⇒「冷静」「平静」は「静」の字が重複し、「彼を」「自分を」で助詞「を」の重複です。

 「冷静」を「冷艶」とする手もあります。ただ「冷艶」は白い花や雪の形容なので、比喩となります。「平静」を「沈着」とする手もあります。「冷静沈着」は前と後ろで同じようなことを言っているわけです。

 次に「彼を求める」と「自分を恐ろしくなる」と書いたとき、収まりが悪いのは後者ですよね。単純に書くなら「自分が恐ろしくなる」だと思います。そのとおりに書くと以下のようになります。

⇒ユーセイの冷艶な顔に沈着ではいられない。彼を求めすぎる自分が時に恐ろしくなる。

⇒両方変えてみましたが、片方を元のまま使ってもよいでしょう。


 夜中に目が覚めた。寒い夜で、こんなに寒いのは初めてだからかもしれない。

⇒「寒い」は「こんなに寒いのは」で説明していますし、「夜」は「夜中に目が覚めた。」で説明しています。だから構文では「寒い夜で、」は要らないのです。

 ただし、マリーナの意思の語りとなるので、構文が必ずしも正解とはかぎりません。


 薄物の下着をつけいるだけで、身体にかけていたカバーがなくなって……。

⇒「つけているだけで」かなと。ただ「下着を着ける」だと「着」が重なりますよね。

 まぁ慣用句として「下着を着ける」が広まっていますし、気にするほどではないかな。

 言い換えるとしても「下着を身に着ける」もダメ。「パンツ」であれば「下着を穿く」と書けるのですが。「装う」も上着の表現です。

 ここまで考えて「下着をまとう」に行き着きました。なにも着ていない状態を「一糸まとわぬ」と言いますからね。

 どうも下着姿の描写をしたことがないので、すぐに出てきませんね。


汗をかき、苦しそうに眉間にシワを寄せ、目を閉じたまま、骨ばった手が宙に固まってはりついている。

⇒ここでの助詞「を」は重文の並立なので重複とはカウントしません。

 「苦しそうに」は形容動詞「そうな」の連用形なので「眉間に」とはバッティングしません。


 起きているが意識がないようで。

⇒ここの助詞「が」は重複なようで、前者が逆接の接続助詞「が」、後者か主語の格助詞「が」なので別物です。

 気になるようでしたら「起きてはいるものの意識がないようで。」「起きているが意識はないようで。」になりますね。


 私は死にたくはない。

⇒ここは「私は」が要るか要らないか、ですね。

 構文ではないほうが正しいのですが、それがこの表現の正確さにつながるかは微妙です。

 「〜したくはない。」は「積極的にそうするつもりはない」の慣用表現にも見えますが、「私は」の強さのせいで働きが鈍っています。

 直したいなら「死にたくはなかった。」と主語を省いて過去形にするくらいでしょうか。

 いっそこの一文を省いてしまうか。でもそうすると表現効果が半減するんですよね。

 「私は死にたくはなかった。」で対になる「だから、抵抗しなかった。」を引き立てています。後文のためにも必要な文です。

 不正確さは残りますが、この一文の持つ意味合いを考えると、あえてこのままでよいのかもしれませんね。


この世界にいて、なお帰れない彼の孤独と恐怖を目の当たりにしてしまった。

⇒ここで「目の当たりにしてしまった。」だとユーセイの心中を言い当ててしまっているので、「目の当たりにしてしまったようだ。」と推量の形に変えるべきですね。


 首に食い込む手に身をゆだね、なすがままに静かに彼の望みに身体をまかせた。

⇒助詞「に」が多い一文です。このうち形容動詞の連用形は「なすがままに」「静かに」だけです。

 ここでちょっと考えたのですが、首を絞められているときに声が出せるものかどうか。

 首に食い込むほどがっちりと絞められたら、呼吸ができなくなるので声は出せないはず。首の筋肉が強いか、絞めつけが緩いかしないと声は出せません。

 また「首を絞められている」ことは前の文から続いていますので、取り立てて「首に食い込む手」と書かなくても単に「食い込む手に身を委ね」でよいと思います。そうすれば重文で解決できる問題ではあります。

 ただし、前文と後文でほぼ同じ用言につながるので、ひとつにまとめてもよいでしょう。

⇒食い込む手をほどこうとはせず、なすがまま、静かに彼の望みに身を委ねた。

 なんてどうでしょうか。


 息がつまり、もう話しかけることもできなくなった。

⇒ここは「絞まる手はさらに強まって」を入れると、この文の前まではまだ呼吸もできて声も出せたとわかりますね。



────────


 ユーセイのこの変貌への伏線が見当たらなかったですが、まさか咳がとも思えませんし。

 ちょっとした、たとえば「ユーセイはしばし心ここにあらずな表情を見せた。」のような、なにかを抱えている表現を入れておくべきかもしれませんね。



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