奴隷を愛した皇女は、腕のなかで愛に溺れる
第1話
第一章 一
父はラドガ辺境国の執政官で、この国の最高権力者で、背が高く堂々とした仕事に誇りをもった男。
⇒「堂々とした」がどこにかかるかで書き方が変わってきますね。
「背が高く堂々とした、」で切って「態度が堂々としている」のか。
「、堂々とした仕事に」で切って「仕事で堂々としている」のか。
あまり間違わないとは思いますが、読み違いやすいのは確かですね。
特に黄金色に輝く体毛は、暗がりでうっすらと周囲を光で照らす珍しい種だった。
⇒「体毛が、」のほうがよいですね。
あと「照らす」のはなにかの光なので「光で」は不要ですね。あえて書くのはダメ押しの念が強いかなと。
私は父を慰めるべきかどうか当惑した。
⇒ここの「私は」は要らないですね。これもダメ押しの念が強いですね、
「はい」と、私は素直に答える。
⇒これは「小説の書き方」コラム外伝にも書いているのですが、「と私は答える。」はちょっとおかしいんですよね。
この小説はマリーナの一人称視点で進んでいくと思いますし、少なくともこの部分ではマリーナの一人称視点です。
つまり「と私は答える。」は当たり前ですよね。
また「素直に」かどうかも、当のマリーナには当たり前すぎます。
根本的に改良しようとすると手がかかりすぎるので、ここでは
⇒「はい、」と、素直に返した。
くらいが妥当ですね。
私の母は偉大な人であった。欠点など全くない。スマートで多くの人々に慕われ、優しく美しく。そして、残酷だった母。
⇒「私の母は偉大な人であった。」の「私の」も不要です。ここまでの流れで「母」といえば「マリーナの母」しか出てきませんので。
また「そして、残酷だった母。」の「母」もダメ押しの念が強いですね。書かなくてもすんなり読めますが、ここで強調しておきたいのであれば、それこそダメ押しで必要でしょう。
私は覚えている。
母の目は、いつもこう語っていた。
⇒ここは「私は覚えている。」の是非ですね。先ほどから何回も書いていますが、ここはマリーナの一人称視点ですので、「私は覚えている。」は当たり前です。
ただし、ここまでの流れから切り替わっているので、書いておいたほうが妥当ではあります。
ですがたいていは以下の書き方で解消する部分でもあります。
⇒そんな母の目は、いつもこう語っていた。
⇒「私は覚えている。」とあえて書くか、書かずに同じような効果を狙うのか。
私はまだマリーナの思考の癖がわからないので、「私は覚えている。」はアメ様の是非で選んでください。
私はひとり堅牢な城という家で、贅沢な生活を与えられたが、それは家庭教師の厳格な時間管理のもと、ほぼ全ての日を算術や国語、芸術からマナーまでを学ぶ息苦しい生活でもあった。
⇒「贅沢な生活を与えられたが、」と逆接の接続助詞「が」を使っているのに、前文と後文は逆接ではなく補強になっていますね。
ここは「贅沢な生活を与えられた。それは」のように二文に分けたほうがよいでしょう。一文が長すぎるのが若干気になります。「逆接の接続助詞」が使えていればよいのですが、それほど機能していませんから。
さて、あなたは私を気弱な世間知らずの姫だと軽蔑したかもしれない。確かに私は気弱で周囲に影響され安い。
⇒ここで「さて、あなたは」が誰を指すのかがわかりにくいですね。
「さて、」は話題を変えるときの間投詞です。「ここで話は変わって、あなたは」となり、ここでの「あなた」は読み手を指しているように感じられます。
もしグルヴィアを指しているのなら「さて、」で対象を見失ってしまうので「さて、」を削りましょう。
あと、「影響されやすい」は漢字で書くと「影響され易い」ですね。ここは読みやすさを考慮して「かな書き」しておきましょう。
一年ほど前、世界に忽然と『炎の巫女』が現れ、ドラゴンとともにシオノン山の噴火を鎮めた。
⇒この「一年ほど前」がどこまでかかっているのかが不明です。サラレーンが実際に現れたのが一年ほど前、そのニュースが届いたのは半年後、ということですかね。
「世界に」が邪魔をしているのですが、もし「一年ほど前に、忽然と」という書き出しだったら、この「一年ほど前」がこの一文にのみかかっていると明白になります。
今のように「一年ほど前、」で始めてしまうと、どこまで「一年ほど前」の時間軸の話なのかが読み手に伝わりにくくなります。
だって圧倒的に私はかなわないもの。
⇒ここの「私は」もダメ押しの念が強いですね。
でも、一八歳の誕生日はもうすぐで、運命の時が音を立てて近づいていたのを私は知らなかった。
⇒「〜を私は知らなかった。」がこの文だと「一八歳の誕生日はもうすぐで、」まで知らなかったように読めてしまいます。
⇒「でも、もうすぐ一八歳の誕生日を迎える私は、運命の時が音を立てて近づいていたのを知らなかった。」
のほうがわかりやすいですね。
また「知らなかった。」よりも「気づかなかった。」のほうがより正確な動詞だと思います。
ただし、少し先を読むと、どうやら「一八歳の誕生日がもうすぐ」だということにも気づいていないようなので、それを考慮すると、
⇒でも、もうすぐ一八歳の誕生日で、運命の時が音を立てて近づいていたのを私は気づかなかった。
ふくよかな身体にもかかわらず、彼女の動作は常にキビキビして動きが早い。
⇒ここは「時期が早い」ではなく「動作が速い」なので「速い」ですね。
「大変でございますわ。大公さまも、もう少し余裕もっていただけたら。
⇒「もう少し余裕をもっていただけたら。
が構文としては正しいのですが、アニータの癖かもしれないので、癖かどうかはアメ様が判断してください。
数日後、友人のグルヴィアが城を訪問して、私ではなくアニータを激励した。
⇒「 友人といえば、同じ階級の子どもしか知らない。
その一人、グルヴィアは貴族の家に生まれた肉感的な美人で、一五歳で首都に住む両親の家に戻った。」
があるので「友人の」とあえて書く必要はありませんね。
これが連載小説で、話が数話進んでいるのなら、ここでも書くべきです。
しかし紙の書籍を前提とするなら、ここであえて「友人の」と書くのは、近しいところで二回も強調してしまってあまりよろしくないですね。
「いつに決まったの、マリーナ。あなたの社交界デビューよ。同席するからね」と、私を抱きしめた。
⇒「私を抱きしめた。」だとなにか他人事に映ります。「私を抱きしめてきた。」「私は抱きしめられた。」あたりでしょうけど、やはり「私」をダメ押しする形は避けられないですね。
「価値は価値が欲しい人が持つものだと思うわ、グルヴィア。それにラドガの華と呼ばれるあなたに、そう言われても」
⇒「価値は価値の欲しい人が持つものだと思うわ」「価値は価値を欲しがる人が持つものだと思うわ」「価値は欲しい人が持つものだと思うわ」ですね。
助詞「が」の重複なので上記三パターンで回避します。ただダメ押しの念が強いので、これがマリーナの思考や語り口なのかもしれませんね。
価値の連呼を避けるなら最後のパターン推奨です。
本当にわかっていたのだろうか。
のちに、私はこの自分を冷笑でもって思い返すことになる。若さゆえの驕りとは、なんと脆いものだろうか。
⇒ここで「将来の自分」から見た視線が入っているので、読み手が困惑しますね。
三人称一元視点ではよく用いる手法なのですが、一人称視点で使うとちょっと危うい面もあります。
一人称視点では、今そのときの主人公からの視点で書かなければならないので。
まぁよく捉えれば「フック」にはなっていると思います。
二
⇒この前の改行がひとつ、後の改行がふたつなので、見つけるのに苦労しました(^_^;)
できれば前の改行を三つくらいとれば、たとえ後がふたつでも見つけやすくなりますね。
声量ゆたかで、あらゆる音域に達するような声域にも関わらず、悲しみに満ちている。
⇒ここで「音域」と「声域」で「域」の重複を感じたのですが、音域が直喩の一部なので、ここは重複とは考えなくてよいです。それでも気になる人は「声域」ではなく「声」だけでも通じはします。ただそれだと比喩が弱くなるかなとは感じますね。
アニータが天井を杖で叩くと、御者が馬車を引く駝竜にムチを入れた。
⇒ここでふと疑問が。
アニータが準備したのは「馬車」だし、今乗っているのも「馬車」です。
しかし牽いているのは「駝竜」。これを「馬車」と呼んでもよいのかどうか。
牛に牽かれたら「牛車(ぎっしゃ)」ですからね。
すると「竜車」が正しいのかというと、わかりやすさでいえば圧倒的に「馬車」なんですよね。
うまい落としどころがないかは検討する必要がありそうです。
彼の態度は落ち着き払っており、いっそ無関心で、私はいたたまれなかった。
⇒「落ち着き払って」は態度の描写なので、あえて「態度」と書く必要はありません。
⇒ 彼は落ち着き払っており、いっそ無関心で、私はいたたまれなかった。
天界の声を持つ男は、均整のとれた体格を優雅に動かすと、頭を軽く下げてお辞儀をした。
⇒「私を誘うように、その天上の声が胸に迫って響いてくる。」
という部分があるため、「天上の声」なのか「天界の声」なのかを統一したほうがよいでしょう。
ユーセイのキャッチコピーとしてどちらがふさわしいのか。紙の書籍化されたときを想定して選んでください。
私はあまりに幼くて、自分の気持ちに気づいていなかった。
⇒ここも「将来の自分」の視線ですよね。ちょこちょこ挟んでしまうと「ライブ感」に欠けるので、注意はしておいてくださいませ。
まぁ恋愛小説を読み慣れているわけでもないので、こう書くものなのかもしれないのですが。
だから、馬車のなかで私は自分の愚かさを呪った。
⇒「私は」は要らないですね。
予定より遅れて城に到着しても、それは消えることはなかった。
⇒「それが消えることはなかった。」とすれば助詞「は」の重複は回避できます。
顔がわからない男が、私を呼ぶ夢で、はっととして飛び起きていた。
⇒「はっとして」ですね。
この部分はここまでですね。
いろいろと考えたい部分がありますね。
主に、マリーナが念押しの強い性格なのか、馬車なのか竜車なのか。あたりですね。
あとは『アヴェ・マリア』の是非かな。
これはおそらくユーセイの身上にかかわることだと思いますが。
ある程度「見え透いた伏線」となって、読み手の女性が興醒めしないかですね。
このあとに本編を順に添削していきます。
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