第18話 織田信長が静かに黙想している

 今回はあれこれ考え方なども添削に取り入れています。

 理解できればより文章が洗練されてくるので、読んであれこれ悩んでみてください。それだけの価値はあると思います。




 彼は12歳で元服してから戦いつづけてきた。

⇒補助動詞は基本的にひらがな書きですが、始める・始まる、続く・続ける、終わる・終えるのような動作の開始、継続、終了を示す動詞は漢字のほうが視認性が高いですね。

 まぁ補助動詞は一律にひらがな書きでもよいとは思いますが、このあたりは感性に従ってください。


 彼を推しはかって、目を閉じてみる。

⇒「推しはかる」はもともと「推測」「推量」「推計」の字義があるので、「はかる」を漢字で表記するべきでしょう。補助動詞ではなく漢字にするとして「測」「量」「計」のどれが適切か、わかりますか。これは「推測」「推量」「推計」のいずれかがわかれば自然と選べますよ。


柴田勝家が腕を組んで黙考し、秀吉は信長の顔色を伺っている。

⇒ここも「窺っている」ですね。


「足利義昭が不穏な動きをしているようだ。諸国にお館様に反旗を翻せと書状を出しておるようじゃ」

⇒ここはもし学があれば、それこそ「諸国にお館様に反旗を翻せと書状を出しておるようじゃ」は「檄を飛ばす」ということです。「諸国にお館様に反旗を翻せと檄を飛ばしておるようじゃ」ですね。ただし、学がなければそもそも中国古典由来の「檄を飛ばす」を知っていたかどうか。だから「学があれば」と断りを入れています。

 中国古典である呉兢氏『貞観政要』を座右の書としていた徳川家康なら知っていたはずです。しかし平民出の羽柴秀吉が知っているとは思えない。だから秀吉なら「檄を飛ばす」という言葉を知らなかった可能性が高い。では柴田勝家はどうか。織田家筆頭家老であり随一の猛将ですから中国の兵法には詳しかったでしょう。当時の武将の強さは中国古典にどれだけ造詣が深いかが基準のひとつでしたから。武田信玄が当代随一の武将として名高いのも『孫子』に精通していたからです。またこの時代よりかなり古いですが、楠木正成も兵法に詳しく、『孫子』注釈本の『闘戦経』を読んでいたらしいとされています。

 だから柴田勝家ほどの人物なら「檄を飛ばす」を知っていた可能性は高いですね。まぁ周りに平民出の武将が多かった信長陣営では、中国古典の言い回しを使っても「それはどういう意味で」と聞き返されたでしょうし、そんな手間をかけるくらいなら「書状を出した」と平易な言葉を使っていたかもしれません。

 

「ワシの手の者が抑えたのは上杉謙信への書状だ」

⇒「押さえた」ですね。「抑えた」は勢いを減じる意です。


「そのようじゃ、一向宗を抑えたと情報が入っておる」

⇒同じ「抑えた」ですが、ここは仲間に組み入れたまたは勢力を取り込んだのなら「押さえた」で、勢力を排除したまたは抵抗を排した意なら「抑えた」になります。漢字ひとつで状況がわかります。


「まずは三好を抑え同時に足利義昭公を抑えておくことが必定かと。

⇒ここでは「三好」は「勢力を排除」なので「抑えた」、「足利義昭公」は仲間に組み入れるので「押さえておく」が正しいですね。

 押さえると抑えるは似たような動作でニュアンスが違うくらいなので、用字用例が難しい部類に入ります。


誰をも圧倒する力で一つ一つねじ伏せていくことか肝要。

⇒「ねじ伏せていくことが肝要。」ですね。


脇息

⇒これは「きょうそく」とルビを振りましょう。「脇」を「きょう」とはなかなか読めないので。


その姿を秀吉が見ていることに、彼は気づかなかった。

⇒ここまで信長視点が続いて、空行を入れた改行がないのに視点が信長から外れています。ただし文章の流れを見ると、この一文をあえて書く必要はないかもしれません。信長自身が気づかなかったとすれば、この一文にそれほどの意味はないと思います。

 ですが、この一文がのちに伏線となるようなら、書き方を工夫するべきですね。私はアメリッシュ様ではないので、これが伏線になっているかはわかりかねますので。



 添削は以上になります。

 本日はこの一話だけですが、けっこう重めの内容となっているので、この一話だけでもたいへんかなと思います。

 推敲頑張ってくださいね。



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