第2話 ここはどこ、私は誰?
今回は第2話の添削です。ラストに大きな問題を仕込みましたので、お気になさるのであれば先に読まれてもかまいません。
では第2話の添削です。
でも、まあ、かわいい部類の顔かも……、なんてなこと考えて脳をかきまわしてる場合じゃない。
⇒おそらく「なんてこと」か「てなこと」ですね。混ざったのか「勢い」なのかがわかりませんが。いちおうGoogle検索で「なんてなこと」を探してみましたがありませんでしたので、どこかの方言でもなさそうです。
ただし、アメの言葉遣いのクセかもしれず、それは私にはわかりかねます。
「ジャンプして見たんです」
⇒「試みた」意なら「見る」は補助動詞なのでひらがなで書きましょう。
月明かりで暗さに慣れた目は周囲がよく見える。
⇒ちょっとした違和感があります。私は夜目が利くほうなのですが、月明かりで周囲がよく見えるのはわかりますが、「月明かりで暗さに慣れた目」はおかしいのです。
私の実感をそのままの語順で書けば、「暗さに慣れた目には月明かりで照らされた周囲がよく見える。」なんですよね。このあたりは人それぞれの感じ方があり、私の答えが必ずしも万人の感じ方ではない可能性もあります。ただ少なくとも「月明かりで暗さに慣れた目」だと「月明かりを浴びて暗さに慣れた目」のようであり、明るいもののおかげで「暗さに慣れる」ものだろうか、という疑問は浮かびます。そこをどう汲み取るかはアメリッシュ様にお任せ致します。
これ、視力が回復したってこと?
⇒行頭一時下げになっていませんので下げましょう。
コンタクトは0.8度に合わせていたが、今の視界は2.0以上のようだ。
⇒数字が算用数字なのはアメの意識の問題なのでかまいません。ただし「0.8」「2.0」のように全角文字で書きましょう。小説は基本的に半角文字を使いません。
掘っ立て小屋のある場所は高台に位置しているようで、そこから湖がみえる。
⇒前回指摘したとおり「掘っ建て小屋」です。また「湖が見える。」と漢字のほうがよいですね。小学生で習う漢字は基本的に漢字で書いたほうが格段に読みやすいです。
月明かりで見える湖以外、周囲は漆黒。
⇒添削箇所「月明かりで暗さに慣れた目は周囲がよく見える。」と書いてあるのに、「周囲は漆黒」では論が成り立ちませんね。明かりひとつないにしても、月明かりで目が慣れているはずなので、なにかは見えるはずです。見えないのならまだ暗さに目が慣れていない、ということになります。
ふいに膝がガクガクして、その場にしゃがみこみそうになった。
⇒私がよく添削する箇所に「助詞」があります。並列以外に、一文で同じ助詞を使わない。これが読みやすい文の鉄則です。そうやってこの文を見ると気づきませんか。「に」が三個ありますよね。
ただしこの文章では助詞「に」は一回しか使っていないのです。その基本的な考え方を今のうちにお教え致します。
まず「ふいに」は副詞なので「ふいに」までを含めた言葉です。次に「しゃがみこみそうになった」は動詞に補助形容動詞「そうな」を付けた言葉で、「そうな」の連用形「そうに」となっただけなので助詞「に」ではありません。
最後に「その場に」。これこそが助詞「に」です。試しに「その場で」と変えてみてもある程度意味がわかります。他の助詞を使っても単語の意味がわかる場合は助詞「に」である可能性が高いのです。
これだけ憶えておけば以後、助詞「に」の重複はしなくなりますよ。
しかし、この瞬間、臭ったのだ。獣のようないやな匂いと、それから、つぎに激しい息遣いが聞こえていた。
⇒ここで「臭った」「匂い」ふたつの漢字が使われています。基本的に好ましいにおいは「匂い」、不快なにおいは「臭い」を使います。で「いやな匂い」は好ましいにおいではないので「いやな臭い」ですよね。ただし「不快なにおい」が「臭い」なので、あえて「いやな臭い」と書く必要がありません。「獣のような臭い」で読み手にじゅうぶん通じます。
また「それから、つぎに」ですが「それから」「つぎに」ともに時間の経過を表しています。つまり表現は違えど同じ機能なのです。通常はどちらかを削れば済みます。ですが私ならどちらも削ります。
よく考えてください。「激しい息遣いが」は「聞こえていた」つまり現在進行形です。臭いを感じてから時間は経過していないのです。だから「それから」「次に」はないほうが文としては正しい。
⇒しかし、この瞬間、臭ったのだ。獣のような臭いと、激しい息遣いが聞こえていた。
ただしこの形だとアメリッシュ様の想像していた映像にそぐわない可能性があります。
そこで次のような文も考えました。
⇒しかし、瞬間、臭ったのだ。獣のような臭い、それから、激しい息遣いが聞こえてきた。
正直「聞こえていた」と「聞こえてきた」は書き手の感性の問題なので、正解はアメリッシュ様しかご存じないのです。それを踏まえて「それから」の時間の経過を使う場合「獣のような臭いと」の「と」が邪魔します。「次に」は時間経過が「それから」よりも遠くなるので、短時間にパパッと聞こえてきたのであれば「それから」を残すべきです。
とここまで来て、まだわからない点があります。
オババは「女に言われ土間にあった黒光りするツボをのぞいた。」で女性確定なのですが、アメが男女どちらなのかがさっぱりわからないのです。
手がかりとして「ツボを覗いた」ときに男女どちらかわかるべきなのですが、それがない。次に「古く汚れた着物を身につけているだけで、私はちょっと赤面した。」があり、ここで男女がわかるかと思いましたが、着物は基本的に「和服」を指しているので、今なら女性が着るのが着物で、男性が着るのが羽織袴。のように感じますが、この時代で「着物」といえば女性だけを指すのかは読み手として自信がありません。
確度の高い手がかりとして「パンツをはいてないし、下着のたぐいがない。」の部分です。男性はふんどしを締めているでしょうから「下着のたぐいがない」に該当しません。明智光秀の時代の女性が江戸時代のように下着をせずに和服を召している可能性も考えられるので、そう考えれば「アメは女性」と推察できます。
ただし連想ゲームを強いると読み手は判然としないのでもやもやが続いてしまうのです。
アメリッシュ様が早めにアメの男女の別を書いてくだされば、読み手は「このアメは女性なのだろうか男性なのだろうか」ともやもやしないで済みます。
人によっては「主人公の性別がわからない」から「感情移入できない」と判断して、ここで回れ右をしかねません。
前回は男女がわからなくてもなんとかなりましたが、今回で確実に「アメ」が男女どちらかかを明確にするべきです。
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