第24話 手術が終わり
妹の手術が無事に成功して、翌日医師の言葉通り目を覚ました。
もちろん家はお祭り騒ぎで、すぐにでも結婚の話を進めようとしていた。
しかし病み上がりだからと透真様がストップをかけてくれたので、俺は気づかれないように胸を撫で下ろした。
さすがにその提案を、俺がするわけにはいかなかった。
かといって話が進んでしまえば、その分妹の罪が重くなる。
妹と話をする前に、ある程度の時間を稼ぐことが出来たのは本当に運が良かったと言えた。
すぐに話をしたかったのだが、俺が話をしたいと言ったところで、不審に思われるだけである。
誰にも気づかれずに話をするには、少し時間を置く必要があった。
そうして表面上は普通に過ごし、妹の警備が少し緩んだところで、俺は病院に足を運んだ。
妹は透真様が用意をした、VIPが使う個室に入院していた。
術後の経過も良く、わざわざここまで費用をかける必要は無いと思うのだが、彼が妹を大切にしているという証なのだろう。
生活出来るレベルで整った部屋の中、妹は元気そうにお見舞いで貰ったリンゴを食べていた。
皮を剥かれたそれは妹が出来るはずもないので、おそらく他の人にやってもらったのだろう。
小さな口を開けて食べている姿は、前までの俺ならば庇護欲を誘われていた。
しかし今は、どう見ればいいのか困ってしまう。
「お兄ちゃん。来てくれたの?」
リンゴを口に入れようとしていた妹は、入ってきたのが俺だと分かると、ぱっと顔を輝かせた。
その顔は俺が来たことを喜んでいるように見えるのだから、もしも演技だとしたら凄い。
「ああ。手術が無事に成功して良かった。体は大丈夫か?」
演技じゃなく本心の可能性もまだ残っているので、俺は前と同じように話しかける。
「うん、大丈夫だよ。どこも痛くないし、すっごく元気。なんかお腹空いちゃったから、いっぱい食べて太っちゃった気がする」
「元々痩せていたんだから、少しぐらい肉をつけた方がいい。それに今まで眠っていたんだから、お腹が空くのも当たり前だ」
「そうだね。いつの間にか、こんなに時間が経っていてビックリ。全くそんな感じがしないから、何だか変な気分」
いつも通りの会話が出来ているだろうか。
話しながら心配になったが、妹に変わりがないので、きっと上手く出来ている。
「俺のせいで、怪我をさせて悪かった」
ここに来るまでに決めていたことがあった。
それは妹が俺に対してどう思っていたとしても、事故については謝る。
どういう経緯であれ、妹が事故に遭った責任は俺にあった。
だから、一度は必ず謝らなければ、申し訳ない気持ちが消えないと考えたのだ。
「お、お兄ちゃん? そ、そんなに謝らなくてもいいんだよ?」
土下座しようかとも迷ったけど、今のところは止めておいた。
深く頭を下げた俺に対し、妹は止めるように言ってくる。
その必死な姿は、本当にあんなことをしでかしたのかと、疑う気持ちが湧くものであった。
俺が今まで触れ合ってきた妹は、いつもいい子だった。
自分で見たことを信じた方が、正しいのではないか。
そうすれば妹と透真様の結婚は、滞りなく進められる。
その結末こそが正解じゃないか。
妹と話して数分しか経っていないけど、信じたいという気持ちが強くなっていた。
それでも守が時間を割いて調べてくれたのだ。
日の目を浴びずに消し去ることはしたくない。
「出来れば怒らないでほしいし、違うのなら否定してくれてもいい。だから今から言う話を黙って聞いてくれないか」
「急にどうしたの?」
「大事な話なんだ」
「お兄ちゃんがそう言うのなら……それで話って何?」
ここまで来たのだから、とりあえず確認しておこう。
俺はベッドの脇にある椅子に腰かけると、持ってきていた書類を取り出す。
全部を持ってくることは出来ないので、俺なりにまとめたものだ。
「それは?」
「話と関係あるものだ。元は守が作ってくれた」
「あの人が?」
守の名前を出した時、わずかに妹の顔が歪んだのを、俺は見逃さなかった。
すぐに取り繕ったが、その表情は恐ろしかった。
そんな顔を妹がするとは思わず、俺は少し怯んでしまう。
「お兄ちゃん?」
妹の呼びかけに覚醒すると、さっそく本題に入った。
「……この書類にあるとおりだと、俺を悪者にするために少しずつ悪い話を広めていたことになる」
今までの例を挙げていき、俺は最後にそう締めくくった。
「違うのなら、違うと言ってくれ。俺の勘違いだったら謝るから。でももしも本当なら、どうしてこんなことをしたのか理由を教えてほしいんだ」
俺の言葉を守ってくれたのか、話している間、妹は何も言わなかった。
ただただ何も言わず、目を合わせようともしない。
その態度に、俺の中の疑惑がどんどん膨らんでいく。
「美春……これは、本当なのか」
しかし、どうか間違っていてほしい。
そう祈りながら、妹の次の言葉を待った。
しばらく何も言わなかった妹はうつむいてしまう。
もしかしたら泣いているのかと思い、俺は手を伸ばそうとした。
「……ぷふ、あはは、あはははは! やっと気づいたの、のろま!」
その笑い声は、妹から発せられていた。
突然の豹変に、俺は信じられない気持ちで見ていることしか出来なかった。
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