第21話 妹の罪?





 守曰く、妹はとんでもない性格の持ち主で、俺は虐げられていたらしい。

 何度頭の中で繰り返しても、全く心当たりが無い。


 俺の記憶の中にある姿は、誰にでも優しく可愛くて、身内だと思えないぐらい自慢の妹だ。

 でも、その姿は仮初のものだと言う。


 昔から守は妹に対して、あまりいい感情を抱いていなかった。

 だからこそ、そういう風に考えを偏らせているのではないだろうか。


「言っておくけど、目が曇っているのはそっちだからな」


 顔に出していたつもりはないのに、守が眉間にしわを寄せて言ってきた。


「本当に外面は良かったからな。まあ、良すぎて、俺としては気持ち悪かった」


 証拠を見せると言ってから、守は何か準備をしている。

 それを眺めていると、そう時間が経たないうちに、俺の目の前にたくさんの資料が置かれた。


「これは?」


「だから証拠。集めるのに苦労したんだぜ」


 書類の山は一つだけじゃない。

 この全部が妹に関するものだとしたら、とんでもない量だ。


「よく、ここまでまとめたな……?」


「感想がそれ? もっと他にあるだろ」


 呆れた顔をされているが、他に感想が出てこないぐらい衝撃を受けていた。

 まだ、妹が性格が悪いなんて信じられない。

 実は別の人なんじゃないか。


 そう思いたいけど守の表情から見て、その可能性は低いだろう。


「どれぐらいの時間でここまで?」


「まあ、結構かかった。この前会ってから始めたし」


「いや、それなら早いだろう。そんな短期間でここまで……凄いな」


 その手腕、うちの会社に欲しいぐらいだ。


「真にそこまで褒められるのなら、俺の腕も落ちていないってことだな。良かった良かった」


 なんてことのないように言うのは、そこまで本人にとっては難しいものじゃなかったからだろう。

 まあ実際に守にとっては、これぐらいは片手間でも出来ることなのかもしれない。


「これは無報酬でいいわけがない。言い値を払う。いくらだ」


「いや金が欲しくてやったわけじゃないから。別にいいよ。俺が勝手にしたことだし」


「そういうわけには……」


「真面目か。俺がいいって言っているんだから、素直に受け入れておけって。それよりも中身を見て、どうするか判断してほしい」


 守がここまで頑張ってくれたんだ。

 いくら信じられないとはいっても、全て目を通さなければ駄目だろう。


「さすがに、この全部に目を通すのは時間がかかるな。……持ち帰っても構わないか?」


「別にどこかに出すわけじゃないから、好きにしてくれ。でも自分だけで見るようにな。その中身、結構ヤバいから。関係者に見られたら、とんでもない事態になる」


「分かった」


 中身がどんなものかはまだ分からないが、守の忠告を素直に聞き入れる。

 ここですぐに目を通したかったけど、時間がかかるから迷惑になってしまう。


 家でじっくり見て、そして内容に関して信じるか信じないかを含めて、一人で考えたい。

 守の家に来る時は、いつも車なので運ぶのに時間はかかるが、決して不可能ではない。


「見終わったら連絡してくれ。信じられなかったとしても、少し話をしよう。それを読んで、それをどうするのか決めよう」


「どうするとは?」


「誰かに見せるのか。それとも誰にも言わないまま、全部破棄してしまうか。真が決めて良い」


「俺が決めて良いのか。もしも破棄するって決めたら、ここまで作ったのが全部無駄になる」


 まだどうするのか決めていないが、俺に任せるなんて本当に良いのだろうか。

 さすがに太っ腹すぎて、俺は確認してしまう。


「いいのいいの。だって、真がいらないならとっておく必要は無いし。全部俺の自己満足なんだから、捨てたって構わない」


 俺の心配をよそに、真は軽い。

 本人が気にしていないのだから、これ以上しつこくするのも良くないか。


「それじゃあ、全部見た時に相談するか。俺のために、ここまでしてくれた本当にありがとう」


「いいっていいって。もしかしたら、これが良くない可能性があるかもしれないし。俺の完全なおせっかいだ。だから気にすんなよ」


「本当にありがとう。守がいてくれて助かった」


 妹のこととはいえ、俺のために色々とやってくれたことは嬉しい。

 感謝をしてもしきれないから、何度も言うのだが、守はお腹いっぱいといった感じの表情を浮かべた。


「ほらほら帰った帰った。今日は休みなんだから、ゆっくり読む時間があるだろう」


「ああ。また連絡する」


 いつもより滞在時間が短いが、お言葉に甘えて俺は帰ることにする。

 守は書類の束を車に運ぶのも手伝ってくれて、何から何まで至れり尽くせりだった。



 俺は家に帰りながら、後部座席に詰んだ書類の山を見る。

 量は多いが、今日一日の休みがあれば、全部に目を通せるだろう。


 出来れば、透真様が帰ってくる前に見ておきたい。

 守の言った通り、俺が中身を確認するまでは誰にも見せない方がいいはずだ。

 特に彼には絶対に。



 まだ帰ってきていないだろうから、その前に全てを俺の部屋に運んでおかなくては。


 いくらエレベーターがあるとはいえ、マンションの最上階。

 そこにこれを全て運ぶとなると、まあまあの重労働になる。


 俺は後回しに出来ないかと、少しだけ現実逃避をした。




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