第20話 守のおせっかい
未だに、俺の恋人という不名誉な肩書きを持っている守が連絡をとってきたのは、妹の手術があと1週間というタイミングだった。
『話したいことがあるから会えない?』
指定された日は、ちょうど透真様が妹の執刀医と打ち合わせをするから休みだったので、俺は快諾した。
メールや電話で済ませられないような話だと、何となく察したのだ。
そして、内容はきっと俺にとって楽しいものではない。
もしかしたら、その日を境に俺の人生が変わってしまうかもしれない。
そうだとしても、俺に逃げるという選択肢は無かった。
一応、透真様に確認をとったら、すぐに許可を出された。
倒れてから、少しだけ変わってしまった彼は、俺に対しても対応が柔らかくなった気がする。
そしてまだ守と恋人だと思っているから、簡単に許可を出してくれたのだ。
複雑な気持ちになりながらも、俺は許可を得たので、堂々と守の家に行くことが出来た。
守の家に行くと、快く出迎えてくれたが、すぐに話題には入らなかった。
俺が切り出しても良かったけど、それは違うと思い守に任せておいた。
いつもは出されないような高級茶葉を使った紅茶を出され、俺はこれから何が待ち構えているのか恐ろしくなってくる。
それでも紅茶はとても美味しかったから、少しは癒された。
紅茶を飲んで、そしてお菓子を食べて、どれぐらいの時間が経った頃だっただろうか。
「本当にすまん!」
テーブルの上のカップを倒すのではないかというぐらいの勢いで、守が頭を下げてきた。
話をするのは待っていたけど、まさか謝られるとは思わず、俺は固まってしまう。
それをどう解釈したのか、頭を下げ続けたまま守は話を進める。
「少し痛い目を合わせるだけだったんだ。ここまでの結果になるとは思わなかった」
全く話が見えず、俺はおろおろと手をさまよわせることしか出来ない。
謝罪をされる理由を考えてみるが、全く思い当たらない。
とりあえず、もう少し詳しい話をしてもらってから判断したいところである。
「すまないが、話が全く見えない。どうして謝っているのか、理由を教えてくれないか?」
許すも許さないも、まずは話を聞いてからだ。
話を聞いて守が間違っていたのであれば、その時は正しい方向に導けばいい。
もごもごと口を動かしていた守は、大きく息を吐く。
そして、ゆっくりと話を始めた。
「俺は前々から、真が虐げられると思っていた」
「そんなことは」
「まあ、待て。話は最後まで聞いてくれ。昔からその状態だったから、物凄く自己評価が低いけど、どう考えたって真は優秀だ」
口を挟むなと言われたけど、すぐに反論したくなった。
俺は全く優秀じゃない。
もし優秀だったのなら、人にさげすまれることも無いし、透真様だってもっと優しいはずだ。
そんなことを言ってくれるのは守だけ。
そう言いたいけど、話すのは許可されていないから黙る。
「他の会社に行けば、絶対にもっと優遇されるし、むしろ重宝されるはずだ。それなのに今の真は、馬鹿にされて冷たくされて、絶対におかしいんだよ」
人から褒められることなんて全く無いから、俺はどんな反応をしていいのか分からず、冷めてしまった紅茶を飲んだ。
「それでもまだ真が受け入れているから、俺が介入することではないと思っていた。俺は当事者じゃないからな。でも、あいつが結婚するって聞いて、それで真がどうなるのか考えたら我慢出来なかったんだ」
「俺がどうなるのか」
「杞憂であればいいと思っているがな。たぶん手術が成功したら、真は追い出される気がする」
守は眉間にしわを寄せて、そして物凄く怒った顔をしている。
それは俺の処遇に対して怒っているのか。
「もしそうなったとしたら、俺は受け入れるだけだ」
「そう言うと思ったから、俺はモヤモヤした。真は全然悪くないのに、どうして真が不幸にならなきゃいけないんだよ。おかしいだろ。おかしいんだよ」
こんなにも、俺のことで怒ってくれるのなんて守だけだ。
そんな状況じゃないと分かっているけど、俺は嬉しくなってしまった。
「だから、つい……」
「つい?」
つい、何をしてしまったのだろう?
口ごもった守に、俺は続きを促した。
「その、な。ちょっと調べようと思ったんだ。別に何も見つからなければ、それはそれでいいって……でも……」
わざとなのか。
そう思うぐらい、話が進まない。
しかし急かして話を止められても困るから、辛抱して待つ。
「見つかったんだ」
「……何が?」
「………………あの性格くそ悪女がやっていた悪事の証拠」
あの性格くそ悪女、とは一体誰だろう。
俺の周りに思い当たる人がいなくて、反応が遅れてしまった。
黙ってしまった俺が怒っていると思ったのか、焦った様子で守はまくし立てる。
「ほ、本当に悪かった。元々性格が悪いとは思っていたけど、まさか真を追い詰めるために、あんなことをしているとまでは予想していなかったんだ」
本当に誰なんだろう。
追い詰められていた覚えもないので、なんだか自分の事じゃないように聞こえる。
「本当に真の妹だとは思えないぐらい、性格ブスすぎて、マジで引いた」
俺の妹は1人しかいない。
でも、守が言うような性格なわけが無い。
何かの間違いじゃないか。
不思議すぎて首を傾げていると、守がため息を吐いた。
「知ったからには隠しておけない。今から証拠を見せる」
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