ハッピーバースデー

ハーピバースデートゥーユー

お馴染みの歌の中心にいるのは、今日5歳になる少女だ。

家族に祝福されて、嬉しそうに笑っている。


「はい、誕生日プレゼントよ、栞」

母親だろう。まだ若い女が少女へ紙包みを渡す。

「何だろう!開けてもいい?」

「勿論だよ」

父親らしき男が優しく微笑む。

がさがさと包みを開けて、栞と呼ばれた少女が笑顔になった。

「あ、本だ! 私が読みたかった本! うわー、嬉しい!」


よくある光景だ。


俺はその様子を窓の外から見ていた。




少女の笑顔が胸に刺さる。


幸せな家族の時間。

そこが病室で、少女の腕に点滴が無ければ。


損な仕事だと思う。自分には向いていないと。


俺がもしサボったとしても、別の奴が来るだけだ。分かってる。分かってるけど。

誕生日の日ぐらい赦してやってもいいじゃないか。


俺はその幸せな光景を背にして飛び立つ。背中には大きな黒い翼。


今夜11時5分。少女の死亡時刻だ。

いつ他の奴が派遣されるかは分からない。

でも俺は心で願う。

せめて少女がもらった本を読み終えることができますように。


「ハッピーバースデー、栞」



                 了


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