★君を待ってる
〈side boy〉
好きな人がいる。
彼女は明日の10時、研究室に来るらしい。
ゼミのレジュメの担当が近いのだろう。休日まで出てくる勉強熱心なところも好きだ。
僕は研究室の合鍵を持ってるから、先に行って待っていよう。彼女は驚くかな?
待つのは好きだ。色んな想像をする。
彼女は今日、どんな服で来るかな? きっとどんな服も似合うに違いない。
彼女と昼ご飯を一緒に食べたいな。
夜も食べられたらさらにいいな。
早く彼女に会いたいな。
早く会いたい一心で、9時には研究室に入った。ちょっと早く来過ぎてしまった。待つのは好きだけど、一人より彼女と一緒がいいに決まってる。
まだかな。
時計が10時を回る。彼女はまだ来ない。
寝坊してしまったのかな。
まさか事故に巻き込まれてなんかないよね?
心配だ。
しばらくして、やっと彼女が到着。
僕は、
「遅かったね」
と一言言ってしまった。だって出来るだけ彼女と長くいたいからもっと早く来てほしかったんだ。
彼女は一生懸命勉強をしてる。あっちこちから何種類もの辞書や原典の本を取り出して。
でも僕としては少し退屈。することがないのでパソコンでブログの更新をした。もちろん内容は彼女のことだ。
今日の彼女は白と紺のボーダーのトップスにデニムのスカートというカジュアルなコーデ。でも何を着てもやっぱり似合う。
可愛いな。
昼のチャイムが鳴り、僕は待ってましたとばかりに彼女の隣りに座った。
一緒にご飯を食べる。彼女も僕もコンビニで買ってきたものだ。
「タンパク質が足りないんじゃない?」
「……そうですね」
僕の指摘に彼女は控えめに笑った。彼女の笑顔は空気を変える。ぱあっと周りが明るくなる。
僕の心も温かくなった。
僕は彼女の隣で彼女がおにぎりを上品に食べるのを観察する。一口が僕と比べるとなんて小さいんだろう。そんなことにさえ感動を覚える。
ランチタイムが終わると彼女はまた勉強をしだす。僕は彼女の邪魔をしないように、また隣の部屋に移った。今度はネットサーフィンをすることにした。
時計が19時を回った。流石にお腹が空いた。
僕は彼女の肩に手を置いて、
「夜ごはん一緒に食べよう?」
と言った。
「はい」
近くの吉〇家で牛丼を食べる。おごってもよかったのだけれど、まだ彼氏でもないからやめといた。
彼女は地下鉄に乗って帰ると言った。
地下鉄の駅の入り口で話をしながら、僕は彼女の髪を撫でた。さらさらな髪が気持ちいい。
彼女には好きな人がいるのを知っている。中国人の非常勤講師の王老師だ。でも彼は一年後中国に帰国する。
「王老師がいなくなったら僕にもチャンスがあるのかな」
僕の言葉に彼女は笑顔を見せた。
きっと彼女は僕のことも案外好きなんだろう。
僕は待つことにした。
大丈夫。待つのは好きだから。
彼女が僕と付き合ってくれる想像をしながら一年過ごすのは悪くない。一年なんてあっという間だ。
〈side girl〉
苦手な人がいる。
ゼミのレジュメの担当があるのだけど、研究室に土曜日に行かなければ間に合わない状況だ。正直講義が休みな日まで大学に来たくないけれど仕方ない。
「明日10時に来ます」
前日一応宣言して、研究室の鍵を持って帰った。休日に大学に来るのは切羽詰まっている私ぐらいだろうけど。
自分が鍵を持って帰ったのだから、10時には研究室につかないとと思っていたけれど、寝坊してしまって着いたのは10時15分だった。
研究室に着いて驚いた。鍵が開いていたのだ。
これなら私が持って帰らなくてもよかったのでは? と思っていると、
「遅かったね」
と隣のパソコンや辞書のある部屋から声がした。
私の苦手な細川先輩。
私はなんだか嫌な気分になる。
確かに10時に来るとは言ったけれど、細川先輩と待ち合わせをしていたわけではないのに。
しかも研究室の合鍵持っているってなんでだろう。
誰か他の人来ないかな。二人きりはとても気まずい。
待てども待てども他の学生が来ない。私は仕方なく勉強だけに集中した。
今回のゼミの先生は厳しい先生だ。レジュメ、ちゃんとしたものを出さないと。
昼のチャイムが鳴ると、なぜか細川先輩が隣に座ってきた。
席はいっぱいあるのに。
近すぎる。正直怖い。
「タンパク質が足りないんじゃない?」
昼ごはんのメニューに指摘をされ、私は曖昧に笑って、
「……そうですね」
と言った。笑って済ますしかない気がした。
細川先輩の視線を感じる。食べるところを見られるの、ただでさえ嫌いなのに。
私はとにかく早く食べて、レジュメの準備を再開した。
集中してやって、大体終わったかなというとき、突然肩に手がかかった。
私はぞわっと鳥肌が立つのを感じた。誰かは分かっているけど振り返る。
満面の笑みの細川先輩がいた。
「夜ごはん一緒に食べよう」
そう言われて、私は嫌で嫌で仕方ないのに断れない自分を憎んだ。
近くの吉〇家で牛丼を食べ、早く帰ろうと急いでいるのに、地下鉄の駅前で引き留められ、話しながら髪を撫でられた。
恐い!!!
付き合ってもいないのに髪を触るとかどうかしてるんじゃないの? 私は振り払いたいのを我慢しながら、振り払ったらどうなるかが恐くてされるがままになっていた。
「王老師がいなくなったら僕にもチャンスがあるのかな」
突然そう言われて、私は笑うしかなかった。
何なの? これって告白?
何が細川先輩を勘違いさせてるんだろう。
意味わからない。
私が悪いの?
私は確かに王老師が好きだけれど、細川先輩のことは苦手だ。いや、今日、苦手以上になった。絶対あり得ないと思う。
私は地下鉄に乗った。
細川先輩の手の感触が残っていて気持ち悪い。
大体なんで研究室にいたんだろう。
ストーカー?
私は身の危険を感じて、次からは一人で研究室に行かないことに決めた。
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます