第11話:星を落すモノ



自分が見ているものが信じられなかった。レオはいつも飄々としていた。あの事件の時でも焦ってはいたが困難に立ち向かうべく不敵な表情を崩さなかった。


そのレオが、顔いっぱいに汗を流しながら、浅い呼吸を何度も繰り返していた。ずっと昔、父様から怒られた僕よりも酷い。それでいて、耐えている。全身で神経を張っているのが分かった。


(この相手は、それほどなの?)


呟く。確かに……突然現れたこのウォリアは、強い。瞬く間に1機、もう1機と倒していった姿はずっと忘れられなさそうだ。


――だけど、僕たちは王国の騎士。恐らくは他国のセレクターであろうこの相手を、このまま行かせる訳にはいかない。


騎士・グレッグも同意見のようだった。


『……貴様。何者だ、何が目的でこいつらを殺した』


グレッグが問いかける。


だけど、相手は何も答えない。


……オープン回線で聞こえた声は、女性のものだったような気がするけど。


彼女は長剣を機体の背中に収めると、こちらを見回してきた。


『戦闘の意志は無いようだな。連行する、大人しく……なに?』


青いウォリアは首を横に振った。拒否する姿勢だ。。


だけど、問題はそれだけじゃなかった。その動きはあまりにも……まるで人間を思わせるような滑らかさ過ぎる。


「……レオ」


『下がってろ、絶対に仕掛けるな』


緊張した声に、僕は思わず息を飲んだ。強いのは分かってるだろうけど、こっちは7機なんだよ?


グレッグもそれは分かってるのだろうか。いや、例え強くても――


『分からんな。ならば、何故飛び込んできた。こうなることは分かっていただろうに』


7機から逃げられると思っていたのか。いや、そもそもどうして帝国の騎士を殺した。


その問いかけに対し、ようやく“彼女”は言葉を返してきた。


『――クズ』


倒れたウォリアを指差し、彼女は続けた。


『掃除』


『……なに?』


『義務』


単語で繰り返す。えっと……帝国騎士はクズだから掃除するのは義務だった、とかそういう意味かな?


尋ねると、こくりと頷かれた。


『……それには同意する。だが、王国内で所属不明のウォリアに勝手に動かれる訳にはいかない。悪いようにはせんが、ここは同行して欲しい』


『駄目。怒られる』


『おこ……誰に、どうして怒られる』


『眼鏡』


『眼鏡?』


頷く。グレッグは苛立っているようで、声が荒くなり初めている。他の白狼部隊も同じだ。それを察したんだろう、レオが横から会話に入り込んだ。


『事情があるんだろ。人質を助けられたのは確かだ。ここは義理を優先して、彼女を解放することを提案するが』


『貴様……何を言っている? 仮にも王国の軍人が、そのようなことを許可できるはずがないだろう』


最もな正論だった。レオは、汗を流しながらも必死に説得を始めた。


『いいじゃないか。元帝国騎士のうんち野郎は死んだ。それともここで殺し合いを始めるつもりか』


『臆病風に吹かれたか、レザール。中央所属にしては骨のある者だと思っていたが、どうやら見込み違いだったようだな』


珍しく、レオが食って掛かっている。いや、これは……脱出の隙を?


あ、駄目だ、他の騎士が気づいた。白狼部隊の名の通り、本当にかなりの精鋭だ。僕だってルージェイドが無ければ勝つのは難しいだろう。レオもそれを分かっている筈なのに。

『……仕方がない。足の1本程度は覚悟してもらおう』


『駄目だグレッグ、よせ』


『下がっていろ、腰抜けが』


『っ、お前はさっきの動きを見なかったのか!』


『強いな、だからといって退く理由にはならん』


騎士・グレッグは告げるなり長剣を抜き放った。


それを見ていた彼女は、小さくため息をついた、そして。



(―――なに、これは)



背筋に悪寒が走る。痺れる感覚、意識が遠くなる、どうして――



『後ろ、飛べぇッ!』



反射的に、跳躍を。人質の女性を落とさないように、優しく着地する。そのことに意識を取られていた僕が事態を把握したのは、1体のウォリアが倒れた音を聞いてからだった。

『なにが……』


『アリスと一緒に下がってろ! 人質を安全な場所に!』


『な……』


『諸共に死にてえのか! いいから早く!』


焦燥の表情で叫ぶレオ。僕はその切迫した怒声に逆らえなかった。


ここまで焦る相手なんて、いったい。


そこで、僕は思い出した。天機神の神託という絶対のルールで選定された十星に勝ったという、信じられないセレクターがいた話を。


世界の理たる最強を、打ち破る。そんな、規格外が相手ならば。



(まさか、そんな―――違う、だからこそレオは)



何かに対して震え始めたレオの機体の前で、青の機体から束ねられた魔力がほとばしった。












――ああ、ちくしょう。靴紐が弾ける訳だ。不運とは言うが、予想できるかこんな遭遇戦なんて。後悔先に立たずとはよくいったもんだぜ。


何故居るのかは、問わない。現実は言葉だけでは覆せないからだ。


それに、ああ、それだけじゃない。


最悪だ……どっちもやる気になってる。思わず、悪態が口から飛び出た。


「これで満足かよ、グレッグ」


『話しかけるな臆病者が。……貴様が危惧する通り、相手は確かに強い。だが、敵わない相手ではない』


1機、足を砕かれて倒れた部下を見ながらグレッグは鼻で嗤った。強いのは認めるが、この数で倒せない相手ではないと。


『しかし、まさかだな。こんな所で、総隊長に近い力量のセレクターに出会うとは』


「……分かった。もう何も言わねえよ、せいぜい気張って生き残ってくれ」


死なせるという選択肢はない。だけど説得も無駄だ。あいつを知らない者に何を言った所で、通じる筈がない。だから、俺も生存を最優先に思考を切り替えた。


俺の“身魔法”による精度強化――同調リンクレベルは最大で5まである。いきなりの最大限強化フルブーストは身体が壊れるが、慣らしながらであれば、あるいは。


白狼部隊の機体は――“白のアルディオ”といったな。ランクはCからC+まで幅があり、個別に改造が施されているため、ランクだけでは語れないぐらいに強い。


だが、ソフィアが相手では居ないのと同じだ。……俺も、覚悟を決めるか。様子見なんて甘っちょろい対応は通じない、殺すつもりで最低限だ。


俺が放った殺気に驚いたのか、グレッグが小さく笑う。


『やればできるではないか。だが、我らの連携の邪魔だけはするなよ』


黙れ勘違い野郎。俺は歯ぎしりをしながら、集中を始めた。


最初のリンクレベルは、1。あくまで様子見をしつつ“見”に回る。


敵単体への集中ではなく、周囲把握に意識を割り振りながら必要であれば援護をできるポジションを取りながら、牽制に努めよう。


これなら、他の白狼達の動きもよく分かる。


「では――行くぞ!」


告げるなり、グレッグは突っ込んだ。と思ったら、左右に展開する。最適解だろう、距離を保ちながら中から射撃戦で一気に決着をつけるつもりだ。


以心伝心、白狼部隊が一糸乱れぬ動きでソフィアを半包囲していく。


確かに、今のアイツは長剣しか装備を持っていないもんな。


先程の固有技能を見て、近接戦を挑むような馬鹿じゃなくて良かった。


だけど、その距離を選ぶのもバカなんだよ。


気がつけば、ソフィアは青い長剣を抜き放っていた。その動作は一瞬で、あまりにも滑らかだ。そして、静かな、だけど重い戦意が周囲に漂っていく。


そうだろう、戦意には戦意で返すのが当たり前だ。こうなったからには、“選ぶ”なんてお優しい真似をソフィアはしない、その可能性の方が高い。


『全機警戒、足を狙え、動きを封じ――?!』


グレッグが告げるが、遅い。ソフィアの攻撃は済んでいる。


長剣はブラフ、抜き放つと同時にを左右の白狼部隊へ伸ばしている。


俺は舌打ちしながら、狙いすました上でそれを撃った。普通のD級なら貫けるほどの威力の魔導砲でようやくとは、相変わらず狂った密度だ。


『――驚愕した』


だろうな、でもそれは後だ。


「グレッグ! 機体から放たれてる薄い線を見ろ! そいつに捕まれば終わりだ!」


ソフィア専用のウォリア、“ナーシエフ”の固有技能オリジンは単純だ。魔力で編まれた糸を線状にして放出し、そのライン上であれば魔力を注ぐことで多種多様な変換を可能にする“線上乙女フェアリイ・ライン”。


その効果はあまりにも多岐に渡る。だから、初見の白狼部隊には期待していなかった――するのが酷だからだ。


ラインが、ナーシエフの背後に集中する。声を出す暇もない。俺は咄嗟に飛び上がるが、グレッグ達は遅かった。


背面からの追い風テイルウインドに後押しされたナーシエフが、マナジェットで更に加速。


一瞬ですり抜ける姿は、正しく疾風だった。


すり抜けたナーシエフの背後で、足と背面を切り刻まれた“白”が地面に倒れ伏す。


『な、バカな!』


『見えな―――ぐああっ!』


魔力線に捉えられたもう1体が、足を凍りつかされた。伝播する凍気は中に居るセレクターの体温にまで影響していく。


脱出しろ、と叫びながら俺はこちらに飛んできた魔力線を長剣で打ち払い、


「釣りだ取っとけ!」


撃ち返し、グレッグ達も射撃を。


しかし、届かない。編まれるように構築されていた魔力線から氷が発生し、壁となって全ての砲を弾き返す。


『中距離を得意とするのか――ならば!』


「バカ、やめろ!」


グレッグが残り2機の部下と共に左右から突っ込む。流石の早さだが、間合いに入って長剣を振るう。


『近接戦なら、展開する余裕もないだろう!』


『……余裕?』


ソフィアが首を傾げる。


一方で、グレッグは強化を強めていった。












確かに、この相手は予想以上に強い。下手をすれば総隊長クラスだろう。それでも3機で挑めばどうにかなる筈だ。


(いや、どのような窮地であれ何とかするのが俺たちだ。白狼部隊の名に賭けて!)


部下の1人が両手に装着した爪で詰め寄る。上手い、これならばやれる。こちらも左右から剣を、休む暇なぞ与えてたまるものか。


横薙ぎから切り返し、突き、払うと見せかけて斜め下から切り上げる。部下の爪撃も密に、削るように連続で攻め立てていく。


これで、命中を――と思えば剣に防がれる。


恐るべき反射神経だ。ならば当たるまで、と繰り返す。


だが、触れられない。


当たったかと思えば剣で受け止められる。こっちは3人だぞ?!


しかし、流石に反撃には出られないようだ。


ならば根比べといこうか!


大森林で鍛えた体力は伊達ではないことを見せてやる。


それからは連続で攻め続けた。幸いにも近接戦が得意な部下が残っている。これまでの3年で培った全ての技術を、正道から邪道の剣術まで混じえて左右上下から徒手空拳での牽制まで試す。


一撃、せめて一撃でも。


だが――なぜだ。


なぜ、当たらない?!


『――来ない、なら』


何を言っている。


いや、待て。彼女はレザールを見ている、まさか。


『終わり』


見えたのは残像。通り過ぎる風と、青の機体。


振り返ったと同時、機体がバランスを崩した。破滅の音が、足元から聞こえる。


「……バカな」


呆然と呟く。


総隊長であっても、これほどまでには――。


告げる暇もなく、両足を失った機体に引きずられた俺たちは倒れ込んだ。


どんな攻撃を受けたのか、全くもって分からないままに。


そして、見た。


爆発的に広がった魔力線と、その塊を蹂躙するように放たれた紅蓮の業火を。













「あの、バカ……!」


後方を振り返ると、魔法を放ったアリスの姿が。大魔法とまではいかないが、時間をかけて編んだようで、その威力は相当なものだ。


『ど、うよ隊長。引っ込んでろなんて言わせない……?』


『そんな……まさか』


アリスとルーが呆然とする。


――爆発の中から、無傷で出てくるナーシエフを前にして。


だが、俺は驚かない。直撃の前に、アイツが大量の魔力線を放出していたのを見ていたからだ。


……いや待てよふざけんなよ、精製速度が以前の比じゃねえ……!?


まずい。そう思った俺は、直感的に正面に出て射撃を仕掛ける。


そして、どうやら間一髪で間に合った。迎撃せずに回避をしたということは、跳躍の前触れだろう。恐らくは、アリスの所へ吶喊しようとしていた。止められたんなら、上出来だ。


『……邪魔』


「そのために来たんだ、よ!」


切り返しと見せかけて足へ。払うような一撃は軽く跳躍して回避されたが、ブラフだ。


(リンクレベル、2!)


精度を高めてクイックドロウ。魔力線の放出速度が遅い足を狙うが、くそ、マナジェットで横に!


放った魔導砲は掠りもせず、虚空を裂くだけに終わった。


そして、反撃が来る。魔力線を直接は伸ばさずに、剣にまとわりつかせる。


変換は――炎、アレが来る!


俺は長剣を前に、出しながら手放して後ろに跳躍する。


間一髪、ソフィアが振り抜いた緋色の炎剣が空中にある長剣を焼き切る。


炎風に煽られて、飛ばされる。反撃なんて出来るか、ふざけんな。


叫びながら、横へ。今までいた場所を、追撃の炎が覆った。


(このままだと……クソ、リンクレベル3!)


同調度合いを高めて、前に。剣はもう無いが良い、どの道当たらない。


軽い拳で、牽制を繰り返す。


だが、その尽くが掌か腕で受け止め、逸らされていく。相変わらず、嫌味なほどの反応速度だ、そして。


(どこまで精度を高めてやがる……? せめて2程度は上げて欲しいもんだが)


グレッグ達の攻撃を全て捌ききった所を見るに、“身魔法”は使っているはず。ソフィアの限界は、俺と同じく5段階まで。それ次第で、戦いになるかどうかが決まる。


ソフィアが不思議に思った通り、あの革命での戦闘に“余裕”なんて文字はなかった。生き残るために見極め、可能な限り体力を温存しながら確実に敵を殺していく必要があった日々。だからこそ、ソフィアにとっての俺たちの脅威度がどれほどのものなのかは興味があった。


―――違う。今は殺し合っている、ソフィアが様子見をしているのなら、今の内に一気に攻め立てるしか生き残る道はない。


考えを変えた俺は、レベルを4まで上げながらマナジェットの出力を全開にした。


ニグレイドはマナジェットを背面の1発と、小型のものを両肘、両膝裏に1発づつ設置している。速度戦を挑むための工夫だ。


操作は困難を極めるため、常時使うのは不可能。だが、レベル4であれば十全に扱える。

「レベル、4――行くぞ」


静かに宣言しながらブーストし、前へ。正面から回転しつつ、遠心力が乗った打撃を繰り出す。


右拳、左裏拳、上段回し蹴り、屈み込んで水面蹴りから蹴り上げに繋げ、地面を押して跳びながら二段蹴りに、踵落とし。生身の時の体術のイメージの通り、連続して繋げる。


視界が目まぐるしく変わり、装甲が軋む感覚まで入ってくる。先程のレイアル程度ならこれで終わらせる自信がある。


だが、尽くが空かされて、受け止められていき――唯一、意図的にタイミングをずらした最後の一撃には手応えがあった。


肩口に1発、踵により装甲に傷を付けた感触。


追撃を、と。


考えた俺に、声が飛び込んできた。



『――レベル1』



は、と驚く。同時に、全身の毛という毛がチリチリと緊張に尖った。


絶望的な感覚。留まれば、死あるのみ。


背後に下がりながら反芻する、今あいつはなんて言った……?


――違う、惚けるな。くそ、まさか、感覚強化をしていなかった?!


そんなバカな―――言ってる場合じゃない、魔力線が全て消えた、ちくしょう!


完全に1対1に意識をシフトチェンジしやがった、!。


見た目は涼しげに、静かな様子を崩さない、だけど。


そして、その予兆を読み取れたのは、偶然だった。胸にせり上がった直感に従い、両腕を前に出しながら後ろに飛ぶ。


そして、瞬きする間があればこそ。


直後、ニグレイドの左右の腕が宙を舞った。


「見え――ぐあっ!?」


気がつけば、追撃の後ろ回し蹴りが眼前に。腕を切り落とされて防御する術を持たない俺は、ニグレイドごとボールのように蹴り飛ばされた。


地面に叩きつけられる。


全身に、衝撃が奔った。


「か、は……」


呼吸をするのも一苦労だ……肋骨がいったようだ。幸いにしてヒビだけのようだけど。後頭部も打ったせいか、意識が朦朧とし始めた。


しかし……ふざけてやがる、


揺れる視界の中で、俺はソフィアに問いかけた。


「まいったな……追い込めて、3割か?」


『……2割』


「ははっ、2割か」


聞いてるかグレッグ、2割でコレだ。甘く見すぎたんだ、お前は。


……まあ、知らなかったからには責めるのも酷だけどよ。


「しかし、化物だな」


『人間』


「分かってるよ。だから隣の人間のために、だろう」


確か、ずっと昔にそんなことを言ったような気がする。孤児院の前で呆然としているあの子に、俺は………なんだ、その驚いたような息遣いは。


『え……え、え?』


「なんだ、幽霊でも見たか?」


『……うそ。死んだ。あり得ない、守れなくて、死体さえ私は』


単語の連続が、相当混乱しているようだ。やがてソフィアは開いたコックピットから俺の顔を凝視してきた。


『――持って帰る』


「は?」


『お土産』


「なにが」


『分析』


「なんて?」


いや待て、マジで待ってくれ。そんなことされると俺が死ぬ胃が死ぬ全部死ぬ。


というか嫌に決まってんだろ! 何が悲しゅうて俺を使い捨てにしやがった帝国なんぞに戻らなきゃならんのだ!


『それに……マリー、娘?』


いや待て本当にやめろ。だが、叫ぼうにも身体のあちこち痛くて動けない。よせ、手を伸ばすなこっちみんな来んなあっちに―――


『っ』


轟音が。なんだ……ナーシエフが、大きな矢を片手に持っている。


違う、こいつの武器じゃない。仰向け状態で空しか見えないけど、ウォリアの飛行音がする――王国の援軍か! そうだ、ここは大森林と王都を繋ぐ街道。ドンパチしてればそりゃあ気づく。


……いや、大丈夫なのか? つーか高速で飛来する矢を掴むか普通!


って危なっ、ニグレイドの横の地面を刺すな!


焦っていると、もう1本、更に放たれた攻撃を事も無げに掴みやがった。


初見でなければ、か。固有技能じゃない、こいつはこういう所がおっかない。圧倒的な戦闘の才能。魔力線による援護を余技にしてしまうほどの、かつての俺の思い上がりを折った純粋な強さが眼前で披露されていた。


『なっ?! 投げ返し――』


声は……女のものか。援軍だろう。誰か、何かが貫かれる音がする。


ソフィアがやったんだろう。そして、遠距離戦を仕掛けてくる援軍に集中し始めたようだ。


でも、それは悪手だ。俺の機体はもう動かない、それは確かだ。


だが、俺はまだ生きている。意識もハッキリとしてきた。だからって、言ってやる義理はもうない。


告げるより早く、懐から爆弾を取り出す。ウォリア戦に集中しているからには、いくらソフィアでもすぐには気づけないだろう。


(――喰ら、え!)


親父こと、ディグ・トライアッド爆弾魔謹製の手榴弾だ――存分に味わいやがれ!


『っ?!』


気が付かれたが、遅い。開いたコックピットの向こうへ投げた爆弾は想像以上の大爆発を起こした。ナーシエフの青い装甲が一部、剥落するのが見える。それも、魔力線を放出する機関の片側を。


……予想外の威力過ぎるだろ、危ねえ。成果は十分だがあのクソオヤジ、余波で俺にもダメージが……。


『……退く。お大事に』


バカ野郎、さっさと逃げろ。


――俺はお前に殺されたくはないけど、俺もお前を殺したくないんだよ。


『……分かった。また来る』


「来、んな……ばか、空気読め」


最後に悪態をついて、それが限界だった。段々と身体に入っていた力が抜けていく。爆発により受けた余波で、破片が腕に突き刺さっていた。自業自得とはいえ、かなり痛い。


『レオ?!』


『バ……っか野郎、返事しろ!』


焦燥の声が聞こえてくる。


だが、俺は何を言い返す気力もなく。


出血と共に弛まっていく全身の強張りと共に、意識を手放していった。


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