05.証明未証明

 結果として、悠介たちのギルドへの加入は認められた。というか、物の数秒で許可が下りた。

 

「ギルドの加入? さすが異世界、ファンタジーだなぁ。ああ、加入ならしていいよ。報告さえしてくれればそれでいいから、勝手にしなさい」

 

 らしい。上官とはいえ殺意を抱いたことは、悠介とまつりだけの秘密だ。

 何はともあれギルドの加入についてバルディオに報告すると、まさか当日中に了承がもらえるとは思っていなかったらしい。彼は喜んで推薦状を認めてくれた。

 

「では、早速登録に行こうかの」

 

 善は急げと、バルディオは喜び勇んでこの村のギルドに案内してくれた。

 ギルドハウスというらしい建物の中は、広さはあるが人が少なかった。弱小、というのは謙遜だけではなかったらしい。

 思わずあちらこちらに目を向けていると、受付の奥から人が出てきた。

 

「村長? どうかしましたか」

「おお、ランドルフ。よかった、お前さんが残っていてくれたか」

 

 ランドルフと呼ばれた男は、冒険者というよりは山賊と言われた方が納得してしまいそうな容貌をしていた。肩の筋肉が小山のように盛り上がった巨漢の彼は、けれど厳つい顔とは裏腹に、村長であるバルディオには丁寧に接している。

 

「ユースケ、マツリ。紹介しよう。彼はランドルフといって、ここのギルドマスターじゃよ」

「二階堂悠介といいます」

「佐々木まつりです。よろしくお願いします」

 

 自己紹介とともに揃えられた敬礼に、ランドルフは目を瞠りながらも小さく「よろしく」と呟いた。

 

「村長、こいつらは……」

「お前さんも聞いておろう。森の土大蛇ワームを倒してくれた、村の恩人たちじゃ」

「この二人が⁉」

 

 ランドルフは目玉が落ちそうなほど大きく目を見開き、顎が落ちそうなほど大口を開いて二人を見た。

 軟弱とは言わないが小柄で筋肉も薄そうな悠介と、凛として女性的な柔らかい曲線を描く華奢な体型のまつり。

 

「この二人が、あの土大蛇ワームを倒した……?」

 

 ありえない、と唇だけが形を刻んだ。

 けれど、村長がこんな嘘を吐くとも思えない。土大蛇ワームに散々悩まされ、苦しめられたからこそ、余計に。

 ランドルフははっと我に返り、態度を改めて悠介たちに向き直った。

 

「いや、申し訳ない。失礼した。俺はランドルフ。紹介された通り、ここのギルドマスターをしている。……土大蛇ワームを倒してくれて、本当にありがとう」

「いえ、成り行きの結果ですから」

 

 曖昧に苦笑した悠介に、それでもありがとうとランドルフは礼を言った。

 

「それで、その二人が何の用です? 土大蛇ワームの売上金ならまだ届いてませんけど……」

「それもあるが、今回はギルドの加入じゃよ。縁あっての、二人が所属してくれることになった」

「! そりゃあまた、心強い!」

 

 嬉しそうに告げたバルディオに、ランドルフも口角を上げた。彼にも歓迎されているらしい。

 ランドルフはいそいそと棚から一つの水晶玉を取り出した。高級そうな台座に安置された球体に、覗き込んだ自分たちの顔が映る。

 

「これは?」

宝珠オーブだ。なんだ、見たことないのか?」

「おかしいな……何処のギルドでも登録手続きには宝珠オーブを使うはずだが」

 

 そこまで言って、バルディオはまさかと最悪を想定した。

 

「お前さんら、まさか登録手続きさえされずに放り出されたのか⁉」

「なにぃ⁉」

 

 怒りの形相のバルディオに、ランドルフがどういうことだと食らいつく。

 悠介たちが止める間もなく、バルディオは自分の知ることを腹立たし気に口にした。

 話を聞いたランドルフの顔も、怒りで険しくなり鬼のようになる。

 

「ユースケ、マツリ。悪いことは言わねぇ、そんな糞ったれなギルドなんぞ抜けちまえ」

「い、いやいや。大丈夫ですよ、ちゃんと登録されてます! うちは……書面! 書面での手続きだったのでっ! ねっ、佐々木さん!」

「えっ、ええ! 大丈夫ですから、どうかお気になさらず……!」

 

 というか、もうそれ以上追及しないでください! とは、さすがに言えなかった。

 思うところはいろいろと、本当にいろいろとあるのだが、警察組織の全員が全員そうではないのだ。

 書面での手続きというのは彼らに違和感を与えたようだが、それでも一応は納得してもらえたようだ。「専属になるのも大歓迎だし、独立するなら協力するからな」とは言われたけれど。

 

「しかし、宝珠オーブが初めてなら使い方も知らねぇよなぁ。よし、まずはユースケ。この上に手をかざしてみろ」

 

 悠介は言われた通り、水晶玉に手をかざした。

 途端、宝珠オーブは強烈な光を放った。

 同時に、悠介の頭の中に直接情報が入り込む。

 

――存在証明完了。

――人間『二階堂悠介』登録完了

――スキル『情報収集』取得

――ギルド『レッド・グリフォン』加入

 


------------------------------------------------------------


二階堂悠介 レベル1

HP 738/738

MP 634/634

種族/人間

職業/警察官・冒険者

所属/警察・ギルド『レッドグリフォン』

冒険者ランク/F

属性/火・水・雷・地・風

スキル/『情報収集』


------------------------------------------------------------


 

「うっわ、まじでファンタジーじゃん……」

 

 悠介は思わず呟いた。

 頭の中に液晶画面があるかのように情報が表示される。まるでゲームのステータス画面だ。

 しかし、土大蛇ワームのダメージや経験値が入っていない。

 

(存在証明、ってあったな。存在証明前はダメージも経験値もゼロってことか?)

 

 経験値が入っていたら良いスタートダッシュになっただろうに、もったいない。

 

(そういや、勝手にスキル追加されたけど、『情報収集』ってなんだ?)

 

 使ってみたい。

 聞いてみようとランドルフを見た途端、それは効果を発揮した。

 


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ランドルフ・グレイブス レベル56

HP 8506/8506

MP 6218/6218

種族/人間

職業/冒険者・ギルドマスター

所属/ギルド『レッドグリフォン』

冒険者ランク/S

属性/火・地

スキル/『肉体強化』


------------------------------------------------------------


 

(なるほど、こういうことか)

 

 聞くまでもなかった。

 

(ランドルフさんが『肉体強化』とか、納得しかない)

 

 むしろこれで援護系スキルだったら間違いなく笑っていた、と悠介は失礼なことを思った。

 しかし、この『情報収集』かなり便利である。少なくとも、この世界の常識を知らない身としてはぜひとも重宝したいスキルだ。

 これは誰でも取得しているすきるだったりするのだろうか。

 ゲームではどうなのかと今度はまつりに目を向けた。途端、また頭の中に表示された情報に悠介は息を飲んだ。

 

――存在未証明

 

 ただ一文、それだけが表示されていた。名前さえ表示されていない。

 

(どういうことだ? オレと佐々木さんで何が違う?)

 

 戸惑い思考を巡らせる悠介の隣で、今度はまつりが水晶玉に手をかざす。

 宝珠オーブが悠介の時と同じように強烈な光を放った。

 瞬間、まつりの情報が更新される。

 

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佐々木まつり レベル1

HP 682/682

MP 651/651

種族/人間

職業/警察官・冒険者

所属/警察・ギルド『レッドグリフォン』

冒険者ランク/F

属性/光・闇

スキル/『情報収集』


------------------------------------------------------------


 

 情報が表示されたということは、存在が証明されたということだろう。

 この世界の人間ではない悠介たちにとって、ギルドへの加入登録がこの世界における存在証明の手段だったようだ。

 

「ほんとに、ゲームみたいですね……」

 

 どこか感慨深そうなまつりの声に、だよねと悠介も苦笑交じりに頷いた。

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