06.仲間入りと話し合い
ギルドの登録も済ませた悠介とまつりは、そのままギルドの説明を受けた。「もう知っていると思うが……」というランドルフの前置きは、彼の親切心だろう。
曰く、冒険者ランクはクエストを熟していき、経験値を貯めることでランクアップできる。クエストの難易度によってその経験値や報酬は変動するそうだ。
つまり、難しければ難しいほど高経験値、高報酬。
クエストはギルド掲示板に張り出されている依頼書から好きな物を選んで受付に申請し、受理してもらう。自分のギルドランクより高い難易度のクエストを受けることもできるが、すべて自己責任で、とのこと。
「よくあるロープレと同じ仕組みですね」とはまつりの言だ。
そうして一通りの説明を受け終わった頃に、街へ出ていたギルドのメンバーたちが帰ってきた。彼らの手には革袋が掴まれている。
革袋
耐久性E+
比較的安価で、そこそこ破れにくい
(物にもランクがあるのか)
なら、買い物の時は『情報収集』を使った方がいいだろう。
そう思っていると、帰ってきたメンバーたちが悠介たちに気付いた。
「ただいま戻りましたー……って、
「うわっ本当だ! え、なになに? うちのギルドに移籍?」
「え、まじで? ここ、居心地良いけどそんなに強くないよ?」
次々と寄せられる言葉の数々に、二人はおろおろと相手を見返した。
「えっと、二階堂悠介です。先ほど手続しまして、正式にこちらに加入を……」
「まぁじでっ⁉ すげー! 百人力じゃん!」
「ちょ、宴会しようぜ宴会! 新メンバー歓迎会!」
「お姉さん、美人だね、名前は⁉」
「さ、佐々木まつり、です……」
「おいこらテメェ抜け駆けしてんじゃねぇよ!」
はっきり言おう。カオスである、と。
美人と言い寄られ、まつりはうっすらと頬を赤らめ、困ったような顔をしていた。ちらちらと悠介を見る目は助けを求めているのだろうが、生憎と目配せに気づいていても悠介にはどうしてやることもできない。
なにせ、悠介の周りにもたくさんの人が集まっているのだ。同性相手に言い寄る彼らではなく、まつりとの関係を頻りに聞かれるだけなのだが、とにかく顔が近い。鼻先が触れそうなほど顔を近づけてくるのだ。
わいわい、どころかぎゃいぎゃいと騒がしいギルドに、とうとう痺れを切らしたランドルフの雷が落ちる。
「――テメェら騒々しいぞ!!」
一喝。鶴の一声。
あれほど騒がしかったギルド内が一瞬のうちに静まりかえった。
その中に、「ほっほっ」と場違いな笑い声が響く。
ギルドのメンバーたちは、それで初めてバルディオの存在に気付いたらしい。慌てて挨拶する彼らに、バルディオは「気にするな」と大らかに手を振っていた。
「お前さんたちの気持ちもわからんではないがの、ユースケたちはまだ生活基盤さえ整えられておらんのじゃ。すまんが、歓迎会はまた後日にしてくれ」
「そういうことだ。お前ら、
「ういーっす」
声を揃えた彼らは、どさりと受付カウンターの上に革袋を置いた。
「え、これ全部俺たちの取り分なんですか?」
「おうよ。一人頭小金貨一枚として十三人分引かせてもらってるけどな」
(それは日本円換算でいくらくらいになるのでしょうか……?)
悠介とまつりの疑問には、『情報収集』が答えてくれた。
(小金貨一枚で一万円か)
いきなり十三万の出費は痛い気もしたが、それだけ引かれてもまだ革袋は十分膨らんでいる。よほど良い値で売れたのだろう。
それに、道中モンスターに遭遇する危険性もある。そう考えれば、十三万の手数料は妥当な対価なのかもしれない。
そう思いながら受け取った革袋には、大きな金貨が何枚も入っていた。
「……これ、いくらあるんですか……?」
「大金貨百枚」
大金貨、一枚十万円。
(一千万円、だと……⁉)
悠介は絶句した。まつりは最早放心していた。
しかし、そんな二人を他所に、ギルドの面々は和気藹々と談笑している。
「なんだ、素材屋のやつ、珍しく奮発してくれたなぁ」
「いや、あのおやじには金が足りんって言われたから、別のでかい所を紹介してもらったんだ」
「あー、確かに高値すぎるわな」
あっはっはっ、なんて笑っている彼らは、「これがギルドの常識なのか……?」と悠介たちが勘違いしそうになるくらいには暢気だった。
まあ、できるわけがないのだけれど。
「そんなにあるなら村の復興資金にしてくださいよ……」
「こらこら、何を言っとるか。お前さんらはまず防具を揃えにゃならんだろうが。お前さんらのレベルは知らんが、防具に武器にと、一通りそろえようと思ったら金貨百枚なんぞあっという間じゃて」
バルディオの言葉に、「あぁ……」とまつりが納得顔で零していた。きっと彼女の知るゲームでは当たり前なのだろう。
(嘘だろまじか……)
冒険者は意外と金がかかる仕事らしい。その分、報酬が良いのかもしれないけれど。
そして、衝撃の事実から何とか立ち直ってしばらく。
悠介たちはバルディオの紹介で村の空き家に居を構えることになった。家賃は小金貨六枚、六万ウェン。
日本の相場と比べても安い家賃に、敷金礼金として大金貨二枚を上乗せして、ひとまず半年分をまとめて支払った。
バルディオは驚いていたけれど、紹介されたこの家は生活必需品はすべて揃っていて、このまま寝起きもできる好待遇だ。そのお礼として、村の復興資金としても、まだ足りないだろうと二人は思っている。
けれど、本当に空き家なのかと聞いた時、彼の顔は哀愁を帯びていた。もしかしたら、
直接何を言われたわけでもないけれど、家も物も大切に使おうと心に決めた。
そして二人きりになった家のリビングで、悠介とまつりは向かい合って座っている。
「『情報収集』、二階堂くんも取得したのよね」
「うん。……これ、人には……」
「言わない方がいいと思う。スキルも属性も、ゲームなら隠されてることが多いの」
「だよね……」
スキルも属性も筒抜けだなんて、自分の弱点を晒しているに等しいことだ。言えるわけがない。
「佐々木さんの属性ってどういうやつなの? 俺は見るからに攻撃系だったけど」
「光がアシスト系で、闇が毒とか混乱とかの状態異常系みたいよ。まあ、後方支援型、ってことね」
単体でのクエストは少し厳しいわね、と残念そうに言うまつりに、「そっか」と笑ってごまかした。
(後方支援型なのに、少しなのか……)
そんなつっこみは胸にしまっておこう。いらぬ蛇は出したくない。
「でも、両方攻撃に偏るよりはいいんじゃない? クエストってパーティー組んだりするんでしょ?」
「まあ、そうね。それでいうと、ペアでクエストに行く分には悪くないわね」
まつりは満足そうに口角を上げた。
「資金繰りは何とかなりそうだし、本拠地も確保できた。あとは……何だっけ?」
「地理の把握と……ああ、そうだ。魔法陣をどこに張るかも決めないと」
日本とこの世界とを行き来するための魔法陣は、それぞれに一枚ずつ渡されている。自宅の玄関に張ればそこからこの世界に飛べる、究極の家近勤務なのだ。
「自分の部屋のドアでよくない? 普段はポスターとかで隠しといてさ」
「そうね……見た目的にも、それがいいわよね」
上層部と違って中二病ではないし、とは思っても口にしなかった。
「とりあえず、いったん戻って食事の用意しましょうか。家で食べる? こっちで食べるなら何か作るけれど」
「え、いいの? じゃあ佐々木さんの手料理食べたい!」
「まつりでいいわ。これから生活を共にするわけだし、ね?」
にっこりと笑う彼女は、マドンナの名に相応しい素敵な笑顔を浮かべた。
「じゃあ、俺も悠介でいいよ。これからよろしくね、まつりさん」
差し出した手に応じたまつりの手は、やはり女性らしく柔らかかった。
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