社会見学
城内だけでなく、城外の事情もある程度は把握させる事も大切だと伯母が言うので、シュテルンを時おり城下町で生活させる事がある。魔力を足にこめれば数分で一山越える事が可能なルートヴィッヒとしては大した距離ではないが、こうして闇夜に紛れて訪れるのは少し億劫だというのが本音だ。
「まあ旦那様いらっしゃい」
暖炉の傍で刺繍に勤しんでいたシュテルンが顔を上げる。魔法で平凡な赤毛に染めている頭には、花が挿し込まれていた。使用人達が庭で育てているような大ぶりで華やかなものではなく、この辺りの畑や野原に咲いているような素朴なそれ。
「シュテルン、それはどうした」
「近所の男の子に頂いたのです。年頃なのだから少しはお洒落しなさいと、おませさんですね」
「そうか、しかしもう限界だ」
「え?」
大きな掌には、枯れた花が乗っていた。
「まあ!」
「生花とはそんなものだ」
代わりに銀の髪飾りを渡したルートヴィッヒは、やはり俺の星は城で過ごす方が安全だと今度伯母に進言しようと決めた。
――蝙蝠に化けた魔王の叔母と側近が、窓の外から二人の遣り取りを見守っていた。
「見よウィリー! 我が甥が嫉妬を覚えたぞ!」
「アンナ様愉しんでらっしゃいますね……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます