社会見学

 城内だけでなく、城外の事情もある程度は把握させる事も大切だと伯母が言うので、シュテルンを時おり城下町で生活させる事がある。魔力を足にこめれば数分で一山越える事が可能なルートヴィッヒとしては大した距離ではないが、こうして闇夜に紛れて訪れるのは少し億劫だというのが本音だ。


「まあ旦那様いらっしゃい」


 暖炉の傍で刺繍に勤しんでいたシュテルンが顔を上げる。魔法で平凡な赤毛に染めている頭には、花が挿し込まれていた。使用人達が庭で育てているような大ぶりで華やかなものではなく、この辺りの畑や野原に咲いているような素朴なそれ。


「シュテルン、それはどうした」

「近所の男の子に頂いたのです。年頃なのだから少しはお洒落しなさいと、おませさんですね」

「そうか、しかしもう限界だ」

「え?」


 大きな掌には、枯れた花が乗っていた。


「まあ!」

「生花とはそんなものだ」


 代わりに銀の髪飾りを渡したルートヴィッヒは、やはり俺の星は城で過ごす方が安全だと今度伯母に進言しようと決めた。






 ――蝙蝠に化けた魔王の叔母と側近が、窓の外から二人の遣り取りを見守っていた。


「見よウィリー! 我が甥が嫉妬を覚えたぞ!」

「アンナ様愉しんでらっしゃいますね……」

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