第43話 アイリの場合

 アイリ。


 四人でのお弁当タイムの後、自販機コーナーでアイスの缶コーヒーを二つ買ってから中庭に誘ってベンチに二人で腰を下ろした。


 彩音ちゃんは途中で別れて大学校舎に戻って。紗耶香はなんとなく察してくれて。先に教室に戻っていると言って俺たちを二人だけにしてくれた。


 アイリがぺきっと缶コーヒーのプルタブを開けて口をつける。


「あの紗耶香って痴女と、獅子身中の虫、彩音。夢魔と契約するなんて姑息な手を使って!」


 俺も缶コーヒーの蓋を開けて一口ごくりとのどを潤す。


「いや、それはアイリも同じだろ。夢魔の魔法を使って『遠見』で俺を見たりしているんだから」


「そうよ! 悪い! 清一郎には悪い虫がつかないように四六時中監視してなくちゃならないの! 清一郎だって私の事『遠見』で見てるでしょ。お相子様よ」


「そこは少しだけ女の子らしい恥じらいとか持ってくれるといいんだが」


「私っぽくないでしょ、それじゃあ」


「まあ、それはアイリじゃないってのは、俺も同意する。おしとやかなアイリとか、アイリの良さが台無しかもしれんな」


 アイリがふふっと嬉しそうに笑った。


「よくわかってるじゃない、清一郎。流石に私が長年連れ立ってきた男だけあるわね。私、男見る目があると我ながら思うわ」


「褒められても今はなんもせんぞ」


「もうはっきしばっちし言っちゃうけど、小さいころから一緒に過ごしてきて、それから私が隠していた『私が目覚めた性癖』を話しちゃって、私と清一郎って彼氏彼女の仲を超えて夫婦みたいなものでしょ。私はもう清一郎に恥ずかしがる部分とか、ないわよ。一緒にどこに入っても平気な感じ。お風呂でもトイレでも」


「俺もアイリは他人とは感じていないほどなんだが……。誤魔化しても仕方ないからはっきりというが、アイリなら選び放題だろ? 俺以外の性格もいい外見もいいイケメンと『キス契約』して王子様捕まえたいって思わんの?」


「その『キス契約』をすれば一生のパートナーになれるから夢魔と契約したの! 最初から清一郎狙いなの! 他の人なんてごめんだわ!」


「……そうなのか? ごめんなのか……」


「そうなの! 外見で男選ぶのって、物凄く低レベルだって思うし。清一郎がしっくりきっかりと私の心と身体に馴染むの!」


「いや、精神的なモノはともかく身体はどうかとは思うが……」


「昔一緒にお風呂はいったじゃない。それに、私くらいの女になると、身近にいて匂いとか雰囲気だけで相性がわかるのよ。清一郎が私にぴったしなの」


 アイリが残っていたコーヒーを飲み干して、ふうと息をついた。


 俺も、最後の液体を飲み干す。


「それは認めるが、もうちょっと言葉は選んで欲しいかもな」


 すると、アイリが相好を崩す。


「言葉を選ぶ必要がないから清一郎を欲しがってるんじゃない。他の連中みたいに私の表面だけで判断しないし、私も猫被る必要もないから。心地いいのよ、清一郎と一緒にいると」


「そうか……」


 アイリの気持ちがわかった気がした。


 俺もアイリと一緒にいると気分が落ち着く。


 長年連れ添った夫婦みたいな安心感がある。


 アイリの希望(私を縛って三角木馬に跨らせて鞭で叩いて! とか言っていた)には添いかねるが、確実にアイリを彼女にしたいという思いはある。


 二人阿吽の呼吸でベンチを立ち上がって教室に向かう。


 アイリもマジか……


 胸中で呟く俺なのであった。

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