第42話 紗耶香の場合
翌日の予鈴前。同じクラスにいるアイリの隙を見計らって紗耶香だけを呼び出した。
図書室にまで誘って、誰もいない一時限目、奥の本棚前で会話を開始する。
紗耶香は落ち着いた様子であくまでマイペース。
「こんな場所に呼び出していただいて。これから男女間の何かが始まると思うと興奮します。できればキス契約が希望ですが、キス契約でなくても出来るだけ激しいプレイなら……」
ぽっと染まって頬に両手を当てる。相変わらずの妄想家だったが、それはガッテン承知の助なので今となっては特に驚きはない。
「私、ここで制服全部脱いだ方が良いでしょうか? あるいは半脱ぎとか、下だけとか?」
正気とは思えないセリフをのたまわってきたが、こいつはこいつで大真面目に話しているのでその点を馬鹿にすることはしない。突っ込みを入れたいところではあるが、効果は薄いので我慢して質問に切り替える。
「紗耶香。夢魔と契約してるってマジか。なんか家でみかけたシロぼうってやつと」
「はい」
紗耶香は目の前の棚の本を取って開く。風景画が乗っているそれに目を落としながら、微塵の動揺もなく答えてきた。
「夢魔のクロぼうさんやシロぼうさんたちが異界からこの世界にやってきたタイミングはほとんど同時だったようです。清一郎さんがクロぼうさんと契約した夜に、私も部屋にやってきたシロぼうさんと契約しました」
「うーん。俺はちょっと騙されたっぽいんだが、紗耶香は契約内容とか確認して契約したの?」
「確認しました、事前に。『キス契約』、『看破』、『遠見』、それと罰則などです」
「ならもう誰かとキス契約しないとヤバイだろ。俺もそうなんだけど紗耶香も。俺の周りには何故だか夢魔契約した女の子の紗耶香とアイリと彩音ちゃんがいるんだが、俺が紗耶香を選ぶかどうかは正直俺自身もわからない」
「それは問題ありません。最初から覚悟の上なので。この一ヵ月、一生分くらい楽しめました。それに……」
「それに……?」
本に視線を向けたまま、紗耶香が嬉しそうに言葉を放つ。
「こうして清一郎さんが私のことを気遣ってくれるだけで、もう満足しているというか」
「いや、ダメでしょ、それじゃあ。紗耶香、外見も中身も格別なんだから、いやまあ大きな問題はあるんだが、でも美人さんなんだから男なんてより取り見取りで俺なんかに構っている暇はないでしょ」
「私は清一郎さんが……欲しいです。物凄く」
紗耶香がその綺麗な乙女の瞳をこちらに向けてきた。
「知っていますか。女の子は皆、白馬の王子様を望んでいるんです。私にとってはそれが、唯一私の秘密を理解していただけた清一郎さんだっただけのことです。これは千載一遇のチャンスなんです。勝負を賭けるだけのものがあります」
「でもなぁ~。俺も、もはや問題アリアリでも紗耶香を選んでもいいんだが、そうするとアイリと彩音ちゃんに問題が降りかかる。こればっかりはどうしようもない」
「夢なんです。分かり合えた殿方と添い遂げるのが」
「純粋な女の子ってのはそういうものなのかもしれないが……」
そう返した俺に、紗耶香は微笑みながら性癖全開のセリフを続けてくる。
「清一郎さんと私の処女喪失記念のホンバンを生配信して、世界中の方々に見られてしまう野望は捨てていません」
うっ。
上品な優等生アイドルの見姿が台無しだった。
教室ではその欲求をおくびにも出さないのだが、俺と二人の時の紗耶香はいつでもあくまでも紗耶香本人なのであった。
「でもまず最初は、夜の二人だけの何も着ないでの散歩から始めましょう」
「いや。それは断るが……紗耶香の決意だけは理解した」
そのままお開きにして、俺は一人図書室を出た。
廊下を歩きながら、考えをめぐらす。
「紗耶香は本気か……」
誰にともなくひとりごちる。
これでアイリや彩音ちゃんに浮気心があるのなら、紗耶香を選べばとりあえずの問題は解決する。痴女っ子性癖に付き合ってヘンタイプレイをするかどうかは後で考えればいいことだ。紗耶香をゆっくりとじっくりと説得する、あるいは俺の男気で真人間に更生してもらうのもアリか。
状況が上手くいくことを願って、教室に戻るのであった。
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