第41話 三人に探りを入れようと思う

 その日、朝食後は普段と変わりない登校風景に戻った。学園内でも生徒たちの注目は当然あったがまあまま平穏といえる学生生活で。


 帰宅してから夕食を三人と一緒に食べた後、自室に戻ってクロぼうとにらめっこしているところだった。


 ぺろぺろと自分の肉球で顔洗いをしているクロぼうを見やりながら、いまいちこいつ信用できないんだよな、と胸中でつぶやく。しかし俺はこいつと契約している以上こいつに聞かないわけにもいかずにベッド上から尋ねる。


「なあ。例えば俺が紗耶香と『キス契約』したらどうなるんだ?」


「おめでとう! 紗耶香ちゃんを選ぶんだね! 紗耶香ちゃんと末永くお幸せに」


 クロぼうは全く邪気を感じさせない声音で答えてきた。


「そういうことを聞いているんじゃない。アイリと彩音ちゃんも夢魔契約していると言っていたが、アイリと彩音ちゃんはどうなるんだ?」


 俺は、ただの質問というよりはクロぼうを責め立てる調子。


「アイリちゃんや彩音ちゃんなら選びたい放題だろうけど、もし誰も選ばなかったら一生彼氏なしだね」


あっけらかんとした調子。そこに同じ夢魔が絡んでいるという自責の念とか良心の呵責等は全く感じられない。ちょっとむっとしながら、俺は続ける。


「それはそれで……物凄く不憫だな……。俺が一生彼女なしなのはある意味まあ仕方ないとは思っていたんだが、残りの二人をその場所には追い込みたくない」


「そうだね。でも夢魔契約は絶対だよ。アイリちゃんも彩音ちゃんも同意して契約しているんだし。なんなら清一郎君じゃない誰か好みの人を選ぶ自由だってあるんだし」


「それはそうなんだが……。紗耶香もアイリも彩音ちゃんもああ見えて意固地というか頑固だし。俺、ものすごく責任を感じるわ」


「好きな子選べばいいと思うよー。僕のノルマはそれで達成だし」


「うがーっ!」


 俺は頭を掻きむしった。


「解決策が浮かばない! どうすんだこれ! 彼女作れなかったら俺が一生童貞なだけかと思っていたが事態が極度に悪化している! 紗耶香もアイリも彩音ちゃんも、見捨てるのが辛い! あいつら、本気で俺がキス契約しなかったら誰ともキス契約しないつもりなのか? 正気か?」


「それはなんともねー」


 クロぼうはあくまでお気軽な調子。


「ちょっと、あいつらの本心を探ってみるわ。俺じゃなくてもいいってのならそれはそれで問題解決だし。別の誰かをキープとかしていてくれたのなら、俺はそいつを除外できるんだし」

「なにはともあれ誰かは選んでね。僕にも責務があるからね」


「俺やあいつらに幸せを運ぶ使者とかじゃねーのかよっ、お前!」


「それは考え方の違いだね。僕は愛のキューピッドだよ」


 ふふんと口を猫らしく丸めて誇る顔。


 やっぱりこいつ気に入らねぇ、というか信用ならねぇ。思いながらもとりあえず三人の気持ちを探ってみるしかないと結論付ける俺なのであった。

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