第40話 ひとつ屋根の下⑷

 思わず呻きを上げる俺に対して、今までどうとなく様子を眺めていたアイリが食事を止めて口を挟んできた。


「別にどうってことないでしょ。私にはアオぼう、彩音にはアカぼうがいるから」


「は……い?」


「だから。私はアオぼうと、彩音はアカぼうと夢魔契約してるってこと」


「それって……」


 俺は恐る恐る問いかける。


「私も彩音も、清一郎が夢魔契約した時とほぼ同時にそれぞれ契約しているの。だから私も彩音も紗耶香も『遠見』が使えて、時と状況によっては清一郎が迫られている所に飛び込んでいけたわけ。ちなみに私も清一郎以外の男と『キス契約』するつもりはないから。そこんとこ、よろしく」


 言い終わってアイリは茶碗に戻る。


「私は……清ちゃんが誰かと『キス契約』してその人専用になるのが困るわ。私は愛人でも二号さんでもいいのだけれど、一夫一妻制ならば清ちゃんには私を選んでほしいわ」


 もう俺がコントロールできる範囲を超えて状況が進んでいた。


 三人には申し訳ないと思いつつ、俺が他の誰かとキス契約を結んだら三人は俺の事を諦めてくれるんじゃないか。時間が全てを解決してくれるんじゃないか、と思っていたのだが状況が変化した。


 こうなると、三人以外の女の子を選ぶという訳にはいかなくなる。


 なぜなら、例えば紗耶香を選ばなければ、紗耶香は『キス契約』不履行の罰則で、この先彼氏なしで生きていかなければならなくなるからだ。


 アイリや彩音ちゃんも同じ状況。


 俺も罰則のある同じ身の上だから、三人の置かれた辛い立場は十分理解できる。


 かてて加えて、三人のうち誰かを優先するという訳にもいかなくなる。


 俺が選ばなかった残りの二人が、懲罰を受ける状況になるからだ。


「彼氏がいなくても清一郎さんの写真をオカズ……げふんげふん、清一郎さんとの想い出を胸に生きてゆきたいです」


「私は自信あるわよ。でも別に、無理に選んでもらわなくってもいいんだからね!」


「清ちゃんにもわかるように言葉にすると、私は血のつながった清ちゃんと背徳的に添い遂げるのが夢よ」


 むーん。


 状況が悪化した。


 俺、誰か一人を選んで、残りの二人を捨てるなんてことをしなくちゃならないのか?


 チキンで豆腐メンタルな俺にそんな大それたことが要求されるのか?


 そんな俺の前で、三人が口角泡を飛ばし始める。


「清一郎さんも『遠見』で、私の恥ずかしい所見ていてくれたようですが……私も『遠見』で清一郎さんの恥ずかしい所をずっと見ていました。清一郎さんの生まれたままの姿、とても素敵でした。あと、清一郎さんが一人で『してる』所。年頃の殿方が何もしないで三日とか無理なのはわかっていましたし期待していて。清一郎さんのあんな姿やこんな顔をじっくりと堪能して、そのあとで私も清一郎さんの事を思って一人で……」


「紗耶香だけ特別じゃないから。私だって清一郎に私のいやらしいところ見てもらってるから。それに清一郎に悪い虫がつかないように四六時中監視もしてるし。私だって紗耶香に負けないで、ちゃんと清一郎の裸も視たしその後私も一人で満足したわよ! 年頃の若い思春期の女の子なんだから!」


「みんな『遠見』をつかっているのね。でも……」


「「でも?」」


「私のお腹の中にはもう既に清ちゃんの赤ちゃんがいるので。順序は逆になるけれど、あとは『キス契約』だけよ」


「「!!!!!!」」


「……というのは冗談ですが」


「びっくりさせないでよ! いっていいことと悪い事があるわよ! 一瞬マジ焦ったじゃない!」


「私は清ちゃんの彼女ではなくて、妾、愛人、セフレで満足なんだけれど。というか、正式な彼女よりその方が背徳感があって興奮して幸せを感じるくらいなのだけれど。キス契約による一夫一妻制がネックだわ」


 俺は再び三人を前にして呻くしかできないのであった。

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